新しい計算を考えてみよう。
「おーい! この間の○-1観たか!?」
「観たけど。何をそんなに息巻いてるんだねキミは」
興奮しきりのステラに、胡乱気な瞳を向けるコミカです。
幼馴染はよく知っています。こういうときのステラは大変めんどくさいのです。
「見せ算ってあったじゃん! あれ私、もう大っ爆笑しちゃってさあ!」
「いや。滑ってたやつじゃん」
「人の笑いは、それぞれ」
「レベルの高さは感じましたねー」
「まあそーだけどさー」
個性を尊重するクリエと、何やら分析的なユルル。そう言われるとばつの悪いコミカさんですよ。
そしてステラちゃん、興奮が止まりません。
「そ・こ・で! そこでなんだよ! せっかくだし、私たちも新しい計算作っちゃおうぜ! ステラ算! ステラ算!」
小学校低学年くらいわくわくいっぱいなアホステラを、コミカは呆れた目で見つめます。
「まーた始まったぞこいつ」
「あのう。ユルル算も作っていいですかー?」
「おう。いいぞ! 作ろう作ろう!」
「クリエ算……うん。悪くない響き」
「えー。みんなノリ気じゃん。私だけ仲間外れなのー?」
コミカ、絶望的な雰囲気が出てまいりました。
「てかさ。これ旬過ぎて何年かしたら伝わらなくない!? 大丈夫?」
「わたしたちはー、そんな些細なこと気にしなくていいのですー」
「どうせずっと、中学生だし」
「メタいな!」
とうとう頭が痛くなってきたコミカですが、こういう流れのときは勝てないので諦めました。
「しゃーない。いいよ。付き合ってやるよ!」
「そうこなくっちゃ! 愛してるぜ。相棒~♡」
「わーもう! そうやってすぐくっつくなー!」
「眼福」「ですねー」
結局仲良しこよしなステラとコミカです。クリエとユルルは成分を補給しました。
「で、新しい計算なんだけども。私、バカなんで! すぐには浮かびません! ひとまず任せたっ!」
「いきなり人任せかーい!」
コミカのチョップがステラのおでこに直撃します。地味に全然痛くないレベルで優しかったりします。
「わたしー、一つ浮かびましたー。
「ん。聞こう」
心なしか、クリエの目が期待しています。
ユルルは弾む声で述べました。
「ユルル
「え。そもそもいきなり対象が人なの!?」
「1の理由を聞こうじゃないか。ユルルさん」
ステラ、超楽しそうです。ずっとアホの顔をしています。
「己を顧みることで、自己愛を再確認するからですねぇ」
「あ、そういう系なんだ」「哲学的」
「で~、ステラ
「なぜに増えたし」
「だってぇ。二人は愛し合っているので、子供が生まれるのですよー」
「愛の、奇跡」
「いや、私たち女の子同士だからね! いくら愛し合っても子供とかできないよ!?」
「フッ。そんなに欲しいなら。コミカの赤ちゃん、産ませてやるよ」
「お前もテキトー言うな! え、私が産む方なの!?」
色々想像してしまい、思わず赤面してしまったコミカですが。
「わああー♡」
「ほらぁ! ユルルが変なワールドに飛び立っちゃったじゃない!」
「むしろ私が産んでやってもいいぞ」
「はああー♡」
「尊い」
「お前らー、帰ってこーい!」
コミカが全員にビシッとチョップを入れると、ようやく全員我に返りました。
ユルルさん、永遠に頬緩みっぱなしですが。
「おいしかったです~」
「ユルル算、それがしたかっただけよね」
「はい」
「この上なく澄んだ瞳で言い切ったぞこの人」
満足したユルルさんに、こりゃ勝てないと思ったコミカでしたが。
今度はクリエが、何か浮かんだようです。ほくほくしています。
「こほん。では、僕からも。
「厨二っぽいの来たな」
「厨二、ですから」
「あなた中一だけどね」
「ようし! 聞かせてくれ! お前の算を!」
ステラちゃん、目がキラキラです。この世の星をすべて集めたような輝きです。
「まず。1
「繋げるってこと?」
「違う。5
「なるほど……。一番奥から一桁、手前から一桁ずつ取って並べていくんですね?」
「ん。ユルル、正解」
「定義はわかったけど。妙にややっこしいなあ。何に使うの?」
「ここからが、本番。76
「奥からだから、最初は3で、次は7で……」
ステラが答えに辿り着き、はっとしました。
「37564。みな○ろし……!」
「こわいですぅ」
ユルル、露骨にぶりっ子していますが、みんなきっとわかっています。何とは言いませんが。
「悪趣味なの!?」
「それを知る者だけが、真相に辿り着く」
クリエ、会心のどや顔です。守りたいこの顔。
「第二問。670
「5、6、3――
「具体例が一々物騒なのなに!?」
コミカの嘆きは、完全にスルーされます。
「第三問。0260
「
「ふえぇ」
「だから物騒なのやめよう!?」
「犯人に気付かれず、メッセージを、仕込める」
「すげえな! 天才か!」
ステラがいたく感動し、クリエをわしゃわしゃしています。クリエは嬉しそうです。
「自分が死ぬ前提なの悲しいよ!?」
根が純粋なので、コミカのツッコミが迷子になっていました。
そしてステラ、満面の笑みで。
「するとあれか。154
「言わせねーよ!?」
すんでのところで、親友の暴走を止めたコミカちゃんでした。
「うおっし! それでは、真打ちステラちゃんのステラ算といきますか!
「お。ついに言い出しっぺが」
「待ってましたー」「聞こうか」
みんなの注目集まる中、ステラは元気よく叫びました。
「1
「しょうもな」「センス、0」「がっかりですぅ」
「うああああーーーー! 知ってたっ! だって全然いいの浮かばなかったんだもん!」
盛大に頭を抱え、ぶうたれてしまったステラをコミカは慰めに行きます。いつものことです。
「まあまあ。ステラがおバカなのはわかってたよ。ハードル上げ過ぎちゃったね。よしよし」
「うん。ぐず……コミカぁ~」
思いっきり甘えるステラを受け止めるコミカお姉ちゃんです。
「これが、コミカ
「いつ見てもいいものです~」
***
それからも知恵を出し合い、あーでもないこーでもないと色々な新しい計算を考えてみたわけですが。
ステラはぼちぼち根を上げていました。
「うあー。中々画期的で面白い計算は浮かばんもんですなあ」
「本職の方って、やっぱり面白かったんですねえ」
(こくんこくん)
「そりゃ、プロの人と女子中学生じゃあね」
発起人が飽きてきたので、そろそろお開きかというところ。
そこで目敏く気付きます。
「そういや、コミカだけまだ一つも言ってなくないか」
「思った。一人だけ言わないのは、ずるい」
「ですですー」
三人から非難めいた視線を浴びて、狼狽えるコミカですが。
というより、どうにもばつが悪そうです。
「うーん。や、ちゃんと考えてたんだけどね。4算しか浮かばなかったんだよ……」
「からあげ4?」
「ちゃうわ!」
この日一番キレのあるツッコミを見せたコミカですが、やっぱりもじもじしています。
「まあ。言ってみ」
クリエが促したので、ようやく決心が付いたようです。
「じゃ、じゃあ言うよ。こうね。みんな集まって。肩組んで」
手招きに応じて、みんな素直に肩を組んでくれました。
4人の輪ができます。
やや躊躇ってから、コミカはぼそっと言いました。
「これからも4人ずっと一緒だよ? なんつって」
「「…………」」
「な、なんだよ。そんな見つめんなよ。恥ずかしいじゃんか」
「優勝」「優勝ですー」「文句なし」
「ううぅ。素直に喜ぶなよぉ。照れるじゃん……」
ぷいと真っ赤に顔を背けながら、しかしまんざらでもないコミカなのでした。
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