ミリしらで麻雀を遊ぼう。

「なんかさあ。こんなもの見つけてきたんだけど」


 ステラがいかにもなケースを持ってきました。

 開けてみると、四角い牌がずらりと並んでいます。


「これは……麻雀セット……?」

「初めて見ました。すごいですー」

「まーたJCに似つかわしくないやつが来たなあ」


 よからぬ遊びが始まるのではないかと、コミカはすこぶる心配でした。

 心配をよそに、ステラはにやりと笑います。


「既に勝負の舞台は整っているようだな」

「わあ。雀卓になってるー」

「なんでぇ!?」


 ユルルが無邪気にきゃっきゃしていますが、コミカは仰天して目を丸くしていました。

 気が付けば、みんなが囲っている机がものの見事な麻雀卓に変わっていたのですから。

 きっとご都合主義ふしぎなぱわーが働いたのでしょう。


「せっかくだし、やってみる……?」

「はーい。ルール知ってる人ー?」


 ステラの挙手に、みんな次々と首を横に振りました。

 大人の遊びを知らない(基本は)いい子たちなので。


「もちろん知りません」

「右に同じく」

「実は私も知らないんだな。これが」

「……なんでみんな私の方を見る。知るわけないでしょ!」


 じっと熱い眼差しを向けられたコミカは、腕をぱたぱたしました。


「なんだ。だーれも知らないじゃん。終わりじゃん」


 これで終わりかとがっかり半分、安堵も半分のコミカでしたが。


「とりあえずー、適当にやってみます?」

「ええ? 知らないのにどうやってやるのよ」

「やれば、わかるさ」

「遊び方を即興で考えていくのか。面白そうだな」


 ステラは生来のノリの良さで、にやっとしてました。


「じゃ。適当に、広げてみよう」


 クリエが率先して、バラッとテキトーに牌をバラまいてみます。

 整然と並んでいたものがひっくり返って、色々な柄が露わになります。

 みんな最初に目を惹かれたのは、ごっつい漢字の書いてあるやつ(萬)でした。


 🀇🀈🀋🀍


 ステラが首を傾げます。


「お菓子かしの菓?」

「似てるけど違うと思いますねー」

「マン、だったと思う」


 クリエがうろ覚えの知識を披露します。


「じゃあこれはー、いちマンとかにマンとか読むんですねー」

「おそらく」

「クリエは賢いな!」


 ステラがクリエをよしよししました。クリエ、まんざらではありません。

 コミカが別の牌をつまみ上げました。


「ならさ。この丸描いてあるやつ(🀛)は?」

「わからぬ」

「そっかぁ。クリエでも知らないか」

「シンプルにいちマル、にマル、さんマルという感じでよろしいのでは?」

「なんか単純過ぎる気がするけど、わかりやすいからそれでいいか」


 ステラもコミカも納得しました。

 それから目線は、なんかこんな感じのやつに移ります。


 🀑🀒🀕


「これは――ボーンだな」


 ステラが確信に満ちた顔で断言しました。


「かつて人の骨を削り、牌に見立て遊んだという……」

「呪われしゲームかよ」


 コミカがやんわりとツッコミを入れます。


「ではツーボーン、スリーボーンということでー」


 ユルルが嬉しそうに手を叩きます。呼び方が決まっていくのが楽しいようです。

 そしてコミカ、気付きます。


「おかしいな。ワンボーンがどこにも見当たらないが?」

「あちゃー。欠けちゃってんのかな。お父さんのを黙って借りてきたもんで」

「黙るな」


 いつものいちゃいちゃの裏で、ユルルがきょとんとしています。


「このMが2個くっついてるみたいなのは?」


 🀗


「ダブルマック」


 クリエが直感で命名します。


「マジでその名前だったらマックおごるよ」


 コミカが呆れて溜息を吐きました。


 🀀🀂🀁🀃🀅🀄


 ステラはいつの間にか漢字牌を並べてにらめっこしています。

 気合を入れて。


「とりゃあ! 東西南北トウザイナンボク! ハッ! チュウ! ……中ってなに?」

「そもそもこれ(🀅)がよくわかってないですー」

「あのさ。これの読みハッでいいの? だいぶアホじゃない?」

「だって知らんもん」


 全員の期待を込めた視線がクリエ様に注がれました。

 クリエはちょっと考えて、一言。


「クリエにもわからないことは……ある」


 今のところ正答率25%です(作者調べ)。


 🀆


「おや。何も描いてないのもあるみたいだけど?」

「これは……シロ」

「犬みたいな名前」


 コミカ、思わず笑ってしまいました。


 🀐


「最後にこいつだが。とりっぴーでいかがでしょう」

「そこは鳥じゃないんだ」

「だってかわいいじゃん」


 これで一応すべての牌を洗ったわけですが。


「あと、サイコロと。変な棒が、ある」

「点棒って言うんだっけ? これをやり取りして集めるゲームなんだってさ。お父さんから聞いたよ」

「なるほど。これが、点棒……。ケチだから拾っちゃダメと、聞いたことがある」

「どういうこと? 集めるゲームなのに、集めちゃダメなの?」

「しらぬ」


 クリエがどや顔で答えたので、コミカはこれ以上追及できませんでした。


「赤い丸だったり、黒い丸だったりが付いてるんですけどー」

「何が何点なのか、さっぱりわかんないな!」


 ステラはからっとしていました。

 コミカが頑張ります。


「丸一つにつき1点なのかね?」

「ではこの赤い丸一つの子は、1点ですね」

「5点も、ある」「なぜか2パターンあるな」

「あと妙に強そうな棒があるが」

「丸がひ、ふ、み……九つありますね」

「9点? そんな中途半端なことある?」

「……1,5,9。4ずつ、上がっている」

「天才か」


 クリエの気付きに、ステラは無駄に感動しています。

 若き天才の一撃で、すべては解決したように見えましたが。

 黒丸が2列に4個ずつ並ぶ仲間外れがいるのに気付き、コミカは頭にハテナがいっぱい浮かびました。


「じゃあこれは、8点? なんで8点?」

「……わからない」

「そっか」「悩ましいですねー」


 人類(JC)の叡智にも限界が訪れかけた、そのとき。

 ステラに電流走る――!


「わかった。クリリンだよ!」

「はっ!」「おでこの、てんてん……」


 みんな、世界の真相に気付いたような顔をしました。


「クリリンのことかーーーっ! って言いながら台に叩きつける」

「いつ使うのそれ!?」

「なんかしょうもないやつが出て、怒りが湧いてきたとき」

「絶対本来の使い方ではない気がするんだけどなあ~」

「では、クリリン棒ということでー」


 ユルルが満足そうに仕切っています。


「一応、これで。全部見たかな」


 クリエがうんと頷きます。


「で、結局これはどう遊ぶのかい?」


 ステラがわくわくしています。次は遊び方ですね。

 まず先陣を切るユルル。ゆるそうな感じで提案します。


「同じやつが揃ってたらやったねー。ダメだったら次の人ー」

「それってただの神経衰弱じゃん!」

「ふむ。確かにもうちょっと工夫が欲しいな」


 コミカのダメ出しに、ステラも同意します。

 クリエがおずおずと手を上げます。


「僕、雰囲気は知っている」

「あ。まだ僕キャラでいくんだ」

「仕方ない。区別。世界とは、そういうもの」

「いやよくわからんし」


 ふと全員、何かに見られているような気がしましたが。初回ではないためみんな忘れています。


「まず、点棒を同じにする」

「そりゃそうか。全員スタートは平等だもんな!」


 ステラが割とどうでもいいところで感心しています。

 クリエの手によって、以下がそれぞれに配られました。


 1点棒が4つ。

 5点棒(タイプA)が1つ。

 5点棒(タイプB)が2つ。

 9点棒が1つ。

 そして、クリリン棒が5つ。


 しめて28点+5クリリンが各々の持ち点となります。


「そして牌を、じゃらじゃらする」


 四人の手によって、卓の真ん中で牌がじゃらじゃらされていきます。しっかり混ぜられています。


「なんか儀式っぽいな。これ」

「私もそれ思った」

「ん。気持ちを込めてじゃらじゃらするのが大事と、聞いた」

「そうなんですねー」


 みんなでやっていれば、割と何でも楽しいユルルです。


「十分に混ざったら。山に分けて配る」

「牌は見ちゃダメなんだよね?」

「ん。ゲーム性がなくなる」


 みんなの手で、牌が裏側表示で綺麗に取り分けられていき。

 山が4つできました。横一直線に並べると収まらないので、2列組にしています。


「「…………」」


「で、ここからどうするんだ」


「「…………」」


 全員、微動だにできず。


「ロンって言葉は、聞いたことありますよー」

「わ、私もそのくらいは知ってるぞ!」

「ここから先は、未知の世界」

「うーん。とりあえず、1つずつひっくり返して取ってみるか」


 みんなが動けないときは、ステラが率先するのが役回りです。


「こほん。では言い出しっぺの私から」


 🀐


「っしゃ。ねえねえ。これ当たりっぽくない!?」

「わあ。初手とりっぴーですね」

「1点」


 クリエが点棒を投げて渡しました。


「いい感じのだったら、投げて渡す」

「なるほど……」

「ご祝儀システムなんだねー」


 コミカ、何もわかってないのでツッコめません。


「私も」「わたしもどうぞー」

「お。さんきゅ」


 ステラの持ち点が31+5クリリンになりました。


「順番どうします?」

「時計回りでいいんじゃね?」

「異議なし」「同じく」


「では、次はわたしですねー」


 ユルルがそわそわしながら、最初の牌を引きます。


 🀌


「ろくマンか」

「ちょっと弱いかなあ」

「また今度、ということで」

「ううぅ」


 クリリン棒を掴みかけましたが、まだ慌てる時間じゃないわとぐっと堪えました。


「じゃあ私の番ね」


 コミカが引きます。平常心です。


 🀄


「微妙なの来ちゃった」

「僕はパス」「わたしもパスで~」

「んー。でも私はチュウ好きだからあげちゃう!(1点)」

「た、耐えた」


 コミカ、1点ゲットとなります。


「最後は、僕」


 🀗


「ダブルマック……」

「まさかそいつを一発で引き寄せるとは……!」


 ステラが戦慄しながら、2点を投げ渡しました。


「これは2点」「2点ですね。ダブルだけに」

「よし」


 みんなからご祝儀を頂き、ちょっとほくほく顔のクリエです。


 こんな感じで、ゆるっと点棒のやり取りご祝儀をしながらゲームは進んでいくのですが。


 🀊


「えーん。また弱いですぅ」


 ユルルは嘆いています。イマイチ調子がよくないようです。


 牌の数が揃ってくると、次第に役っぽい何かが出来上がっていきます。

 ステラが一発、快活な声を張り上げました。


タン!」


 🀚🀜🀞🀠


 ガッと端に牌を寄せ、不敵な笑みを浮かべます。

 牌はバラバラですが、2の倍数というお気持ちが出ています。


「え。なにそのムーブ!?」

「なんかこう、端にがっとやってたのを何かで見たのよ」

「どういう意味があるのよ!?」

「や、カッコいいじゃん」


 ダメだこいつ。

 何度思ったかわからないことを幼馴染のコミカは思いましたが。

 しかし言われてみると、微妙にキマってる気がしなくもなくて。漫画とかで見たのかしら。

 そして何より。


「3点」


 クリエの評価が高い。

 これにはコミカもぐぬぬ、と戦慄します。

 たかがゲーム。されどゲーム。楽しみつつ、永遠のライバルには勝ちたいものです。


567ごろっち!」


 🀔🀕🀖


 すかさずコミカが反撃します。

 雰囲気とノリでハッタリをかまし、ミリしらでクリエから2点を勝ち取ります。


「トライ!」


 🀑🀑🀑


 逆襲のステラはツーボーンを3つ揃え、黄金の正三角を成しました。

 触れた者の願いを叶えそうな空気が微粒子レベルで漂います。


「どうよ」

「正三角形、だと……!」

「くっ。これは、強い……!」

「むむむ。さすがですねー。ステラ先輩」


 🀈


「あーん。また弱いよぉ!」


 ユルルはしくしくしています。心なしか、嘆き節が大きくなっているような……。


「東西南北」


 🀀🀂🀁🀃


「とりっぴーの、舞」


 🀐🀐


 クリエは手堅い役柄で、着実にポイント稼いでいきます。

 ステラもコミカもバチバチですが、相手のいい感じには出し惜しみをしません。


 🀏


「ふぎぃぃぃぃ!」


 ……横の方で、何かの化けの皮が剥がれていっているようですが。


 ここで、コミカが会心のガッツポーズを見せます。


「きた! スクエア! スリーボーンのスクエアよ!」


 🀒🀒🀒🀒


 勝ち誇ります。トライよりも数字も牌の数も上。完全に完璧に上を行っています。


「ぐ、ぐうう……!」


 ステラは打ちひしがれてしまいました。


 🀇


「クリリンのことかーーーーーっ!」


 ついにキレてしまったユルルは、手にしたクリリン棒を力いっぱい卓のど真ん中へ叩き付けました。

 何しろ、彼女だけずっと点が入っていないのです。緩いキャラはいったんどこかへお出かけです。

 ただあんまり勢いよく投げたものですから、クリリン棒は卓をバウンドして、コミカの方向へ飛んでいき――。

 見事、彼女が構成したスクエアの中に突き立ってしまいました。


「これは……トウ!」


 ステラの瞳に輝きが戻ります。今度はコミカが頭を抱える番でした。


「しまったああああ! クリリン棒でスクエアが封印されてしまった……!」

「ククク。これで再度一歩リードだねぇ!」

「まだよ。負けないもん!}


 ステラとコミカの激しい凌ぎ合いは続きます。


「シローフォー!」


 🀆🀆🀆🀆


 ステラが犬を四匹揃えれば。


「なんの! 中中發チュウチュウハッ!」


 🀄🀄🀅


 コミカが即座にカウンターで打ち返します。


「メガマック」


 🀗🀗


「やるな」「やるわね!」


 さりげなくクリエもポイントを稼いでいきます。


「七五三!」

「北の大地!」

「……夜露死苦」


 各々が秘術を尽くし、ご祝儀も仁義もあり放題の熾烈な戦いは加速していきましたが――。



「ロン」



 底冷えするような魔女の一言で、唐突にそれは終わりを迎えます。

 みんな一斉に凍り付き、わなわなと震えながら、そちらを見ました。


 ――闇のオーラを放つユルルが、そこにはいました。


 今まで誰にも相手をされず、良い柄も出ず。

 よほど悔しかったのでしょう。地味に泣き腫らした痕があります。


 人を○すんじゃないかというほど、げに恐ろしい気を放っていた彼女ですが。

 みんなの注目が集まるとはたと我に返ったようで、のほほんとした顔つきに戻っています。

 そして恐る恐るといった感じで、彼女は申し出ました。


「あ、あのう。これ、何点なんでしょうか」


 🀇🀇🀇🀈🀉🀊🀋🀋🀌🀍🀎🀏🀏🀏


「うおおいっ! なんかよくわかんないけどめっちゃ綺麗だねっ!」

「対称性」「Oh。ビューティホゥ……」


 三人が三人、これは盛大にお祝いしなくてはという雰囲気になりました。


「ステラちゃんねえ、10点くらいあげちゃう!」「うーん……もう一声! 12点!」「おめっと(間を取って11点)」

「わーい。点数いっぱいだあ。えへへ」


 こうしてユルルは、大逆転優勝を果たしたのでした。よかったですね。

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