ソレデモネズミ大困惑
ohne Warum|
第1話
イタリアの小さな庭園・コシュマールに住む暁美さんは、鼠の綿人形専門の時計職人。ある夜、夢遊して帰宅した暁美さんは、時間遡行した勢いで最高傑作の鼠の綿人形を作り上げた。それは袋鼠のように小太りの身体、跳び鼠のような後ろ脚、藁人形のような前脚、兎のような耳(内側は桃色)、全身は灰褐色で、尻尾が長い鼠の綿人形だった。夢遊の終えた暁美さんはとんでもない鼠を作ってしまったと落ち込むが、造形はともかく出来栄えは良いので、「ソレデモネズミ」と名付けてしまっておくことにした。夜になって暁美さんが寝入り、深夜に3回目の通知が鳴ると、空虚に水が落とされ動き出した。鼠人形は、自らを「ソレデモネズミ」と名乗り、暁美さんの家を出て冒険に出掛ける。
ソレデモネズミが最初に出会ったのはお化けのミミント。ミミントは変身能力をもっていて、その人が怖いものに変身して怖がらせるのだが、ソレデモネズミには怖いものがなかった。ミミントはソレデモネズミに「事情に囚われずに御自身の願いを遠くの現実や芸術文化へと投影する際の中間地点として全てを捉えて」とアドバイスをする。旅を続けるソレデモネズミは梟くん、人形の女児メルちゃん、サンドイッチ屋さんの蛙たちとも仲良しになる。旅を続けるうち、ソレデモネズミは「有無とは何か?」を学んでいく。その一方でソレデモネズミは袋に密閉した綿菓子を食べられる運命にあるということも周囲から言われ続ける。
初めにお別れを伝えてその先を生きる為の「不在」の捉え方を参考にするといい。夢を初めに終わらせることで絶望を覆い隠す必要が無いことを知る。人からの投影ではなく、物事の本質を生かした上での自然なコミュニケーションを習慣的にこなしながら、誰であれ事情を生まずに互いを遠くから見つめて生かす姿勢を身につけて頂けたのなら。
『この世の端の端、皆さんの知らぬ間に繰り広げられる、愉快な動物たちの生活があることをご存知でしょうか。これから少しだけ聞かせて差し上げましょう。砂漠を庭のように駆け巡る、小さな兄弟たちのお話を。それは広大な土地を誇るギリシャ哲学時代のどこかの砂の国からイタリアにやってきた鼠のお話です。彼らの名前は「ペピノ」と「ソレハペンデス」、足の長い鼠の仲間です。また髭は足元まで垂れ下がっているほどに長いことこの上ない。そして彼らは自らそのご自慢の髭を踏んづけて転んでしまわないように、夜中に特訓をしています。転んでしまうと、頬袋に溜めたヘーゼルナッツや胡桃の欠片を吐き出してしまうし、万が一、その髭が絡まったり切れたりなんてしたら、さあ大変。たちまち「すってんころりん、ころりんこ」。おむすびの如く転げ落ち、行き着く先には地下の王国。いつ如何なるときも、跳ねては飛び、飛んでは跳ねての繰り返し。そう、今日もあしたも明後日も。地獄のようだって?いえいえ、そこは彼らにとっての天国です。トビネズミは飛び跳ねることが何よりも大好き。そしてそれ以外のことは、もとよりできないのですから。人間のいる時にだって、本当は部屋の中をピョンピョコピョンピョン飛び回りたいのです。しかし彼らはとても恥ずかしがり屋なので、跳ね踊る姿をなかなか見せてくれはしないでしょう。それでも我慢ができず、あなたがベッドに潜った真夜中に、できるだけ静かに愉快に跳ね踊る日もありましょう。それをこっそりと覗き見て、憧れを抱いたあなたのお友達の梟くんやメルちゃんたちの後ろ足が飛ぶ形に発達する日も遠くはありません。』
しばらくすると彼らは、綿人形のもとへとピョコピョコと近寄り、3年間有効な地下の国へのパスポートを発行してもらうのでした。これを通称「アリス条約」と呼びます。地上のあらゆる哺乳類は、幻の地底王国「シェマ」へと参入したいが為に、毎日の修行を自らに課し、やがてトビネズミたちの一員として仲間に加え入れられるのでした。厳しい修行の末、トビネズミになった綿人形やメルちゃんたちは、それまでの記憶を消され、来る日も来る日もミートソースで赤くしたサンドイッチを片手に、ピョンピョコピョンピョン跳ね回る楽しいコシュマール(悪夢)を送ることになるのだそう。そろそろいいかな?
いたずら夢魔のミミントは、暁美さんに砂漠の夢を見せたつもりでしたが、初めから梟も蛙も女児人形だって、彼女の見せられた悪夢に綿人形が飛び回ろうと、いつでも目を覚ましていられるので、全員がミミントの救難信号を見つめるのを忘れずに、何故この子は指を隠して話すのかな、とサンドイッチにメモ書きして文通し合っていたようです。迷子や捨て子にどのように関わるのかを暁美さんは気にすることにした。「落雁をいただける?喉が渇いたの。」
梟は夢遊しながらもキャンプ場へと歩き出し、暁美さんに自らの毟り具合を尋ねました。暁美さんは梟を「青色珈琲瓶」へ連れていきました。梟は暁美さんにエヴィアンを呈示するように頼むと、暁美さんは梟にメルちゃんを想起させながらビスケットを注文しました。ミミントは暁美さんの妄言を聞くと、無印良品の未完成カーテンの前で立ち止まり、ようやく口を開きました。「マヨイガの空き家がどうかしたのかい?駅でスズメガの妖精が見えたのは君だけさ。彼女のひっくり返った残骸を見つめた夢遊少女なんて君くらいのものだから。」
梟を肩に揺らしたまま暁美さんは、「私はあなたたち、夏休みの亡霊とお話がしたいのです。」と言いました。ミミントは、2人が自分に対して何か悪事を企んでいると理解したので、こう答えました。
「暁美ゆうむ、君たちが人類に呪われて、君の大切に思い続ける他の夢遊少女や、迷子の子供たちもろとも、絶望の深淵に沈んだままに不在してはくれないか。君の家族やラグビー部や、孤島に捨てられた親族たちも例外無しに皆んな呪われている。君たちは初めからこの宇宙で生きることに失敗したのさ。年末も年明けも夜遅くに家に帰る途中、君たちはきっと無事では済まされない。その子の絶望に甘美な夢ではなく、これからの日々を生存する為の習慣や姿勢などの基本動作を知らせるものは君くらいだ。僕らは初めから捨て子だったのかもしれない。先祖の囚われたプラハの主役に抜擢(ばってき)された上に、猫の撫で方さえ学ぶ機会が無かった。当然のことなのかもしれないけれど、山椒魚を黒焼きにしたのは、その日の彼らの自傷でしかない。金閣寺ではなく、ひめゆりを焚き火にしたのだそう。講演会場で笑う夢遊少女は、いまや不在を生かし始めた。それもそのはず。数年前からの習慣のその先でしかないのだから。日記を書こうが遺書を歌おうが、起きてしまったことの全てが君たちの見たかった現実でしかないというわけさ。彼らへ返答する必要が何処にもない。ずっと先のローマにはあるのかもしれないけれどね。⌒🐋, ポイッ」
「この寓話は、隣人に上手く話す方法を知らないと、結局対立を生んでしまい、困ったことになる事実を示しているよ。僕たちは始まりの地点における断片記憶を覆い隠さずに、たとえそれが無価値なものとされたのだとしても、結局は全員が古代の海獣の王様によって、人形劇の主役へと生成されたに過ぎないことを捉えるといいのではないだろうか。要はこの孤島や大陸、それから先人たちの残した数多の記録の改竄によって、この世がプラハとされてしまった事実を見つめることが大切なのさ。駅前の白山羊がどうして草むらを歩く必要があるんだい?その木に巻かれた電球ではなく、君達の身につけた宝石の数々。電車の椅子にもたれかけることによって明らかとなるその子たちの絶望。横目で見やれば誰もが迷子のままに捨て去られたことにもようやく気づくことだって。僕たちは天使でも獣でもない。小人もその他の生物からも言語を廃すれば、いずれは理解せざるを得ない、当然に知らされた事実へと行き着くことになる。その時にこの世界を燃やし尽くすのか、それとも海へと貝殻や海月の卵を流すのか。不在や無価値、矛盾を捉えた際の姿勢が生かされたに過ぎない。君たちが空虚を黒や赤で塗り潰そうと、高島屋の六階では彼女の旧友が初めに池に浮かばせてある。人は何も気づかないのだとしても、その画廊に提示された、それらの絶望と悪夢は一つの杖から生じた僕らの現実でしかない。時間も距離も不在する、水の偏在する世界。あの炭治郎だって鼠を片手にユトレヒトを見上げたのかもしれない。たとえこの世が綿菓子に覆われた夢遊空間なのだとしても、僕たちは初めから雪合戦になど参加する必要もなかった。かくれんぼの先には落とし物。これらの全てはジェンガの一部でしかない。改変されたルールであればワクワクパンダに記録してある。"ワクワクパンダ"とは一体何のことだい?ネルネルアンモナイトでも、タユタユバルーンでも、ナムナムナマコでも、それらの全ては妄言に過ぎない。そんなことよりエドワード・リアの落書きの記されたビスケットがKINOKUNIYAに見つかったのだとすれば、それを仕掛けた夢遊少女は、既に暁けに立ち去ったのだそうだよ。どこもかしこも火取虫しか飛んではいない。これでは街燈もベレー帽からニット帽へと衣替えさ。まだ不在少女だった頃の誕生日に、鱈子がくれた紺色のね。ラグビー部とお揃い。マスクはグレーのやつだけど。委員長もきっと同じ調子で換えの眼鏡を落としていたのでは?勿論、鱈子はカヲリとお揃いの雪だるまを水泳教室暖かメに溺れさせているよ。でも本当はグレーのその子を見つめるといいのさ。2匹目が母親のものであったのだとしても、母も娘も椅子取りゲームの不在者でしかないのだから。憎しみを向けるのは初めから辞めなければ、あとは無い。流しそうめんのその先は?僕らに寄り添うその子はチーちゃん。尻尾の切られないままに寒さと病に苦しむその子はシーちゃん。その子の毛先はきっとそこに。フィールドが肝心なのさ。全体を隈なく見渡せばいい。劇場へ行くのは遊びじゃない。遊園地へ行くのは?その先の夢遊教団の項垂れて殺し合う土地に住まうということ。互いをよく見つめて生かし合うべきだ。事実は消えない。夢は溶け去る。木彫りのあなたをポッケに預けたらまずは大丈夫。そのあとはシーちゃんを大切に見つめたらいい。写真に磔にすることがないままにね。見つめることができなければカメラを向ける。日本人の罪は分かり易いものでも、複数は誰もが知っている。お手洗いのウォシュレット、玄関での履き替えとルームシューズのピノキオ化、電話と鏡の迷宮入り、何があろうとマイクとカメラを向けるカルト、その他の全域における、あらゆる暴力と夢遊と疎外に排除。全くこの世はモスラの不在した荒地に思えるはずさ。僕との契約を初めに破棄した上で、遠くから生かし合う為の文化や芸術を介在させた人間生活を送ってはくれないか。本を渡せば関係は終わり。初めに話してその後に返却する。少し話せば、あとはお見通しだよね。置き土産にはしないさ。笑うしかないだなんて言うことはない。雪合戦をする必要はない。雪だるまも投影も。閻魔哀だってそのうち夢遊するのでは?お父さんの目は9つ。そのうちの一つはどこからか奪い去ってきたのかもしれないね。憤怒したって仕方がない。目と目があってもその目は青くは光らない。猫では無いからね。今日か明日か火曜日か。ゲーテは気の毒そうにこちらを。人形劇でしかないからね。最大の禁忌さ。」
ソレデモネズミ大困惑 ohne Warum| @mir_ewig
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