空高く、霧雨は舞う

七瀬瑠華

第1話

 雨が舞うとは、どういうことだろう。気持ちの高ぶった状態?よくわからない質問を道徳の時間にぶつけられた。しかも、この質問について考えるのが今日の課題らしい。辞書にも載ってないし、スマホで調べても出てこない。世の中、そこまで甘くない。


 自分で意味を定め、辞書に刻むのが俺のしないといけないこと。


 ピロリン、とスマホに通知が入る。ソシャゲの新イベントのお知らせだった。このゲームをとことん遊んでいる俺にとっては、一分一秒がランキングに大きく響いてくるため、早速ゲームのアイコンをタップして起動し、ロードを待つ。


「ふんふんふ〜ん」


 鼻歌を歌いつつ、ロードを持っていると、今度はパソコンの方に通知が飛んできた。頼むから同時に通知飛んでこないでくれ、忙しいと思いつつ、通知欄に目を向ける。


「今暇?」


 チャットアプリでそう送ってきたのは、ゲーマー友達でクラスメイトの北神楽瑠依きたかぐらるいだった。


「暇してる」


 とだけ送って、通話をかけた。

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 ゲーム界の女帝と呼ばれた“霧雨”こと私、北神楽瑠依は、パソコンの前で布団にくるまっていた。ずっと体調が優れなくて、部屋から出たのなんて多分ニヶ月前の学校の登校日くらい。逆に言えば、このニヶ月は自分の好きなソシャゲに熱中していた。マルチ推奨のイベントもあって、友達の“狂輝”こと佐野将輝さのしょうきと一緒に遊んでいた。

 今日も


「今暇?」


 とLINEを送った。十秒くらい待つと、すぐに返事が返ってきた。


「暇してる」


 という四文字の後、通話がかかってきた。普段もそうだが、やっぱり緊張する。


「も、もしもし」


「瑠依おつかれ〜、今日何する?」


「あ…じゃあFPSやる」


「あーい」


 今下の名前で呼ばれた…?初めてだよ、下の名前で呼ばれたの。嬉しいのか、涙が零れてくる。でも、そんなことを思ってる暇なんてない。早くゲームを起動しないと…

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「そっち一人行ったよ」


「ん…倒した」


 やはりゲーム界の女帝は違うな。流石の実力すぎる。二時間くらい通して遊んでいるが、未だに負け無し。俺の調子も抜群に良かったが、もう日付が変わった深夜一時。明日も学校なので、寝ないと体が持たない。


「ごめん、俺そろそろ寝る。明日学校だし」


「…分かった。明日は私も行く、から」


「おお。…から?」


「迎えに来てほしい…」


 消えて無くなりそうな声で、そっと俺に伝えてくる。


「いいよ〜、八時頃行くね」


 そう言ったところで通話は切れた。分かった、とだけ返事がきた。


 朝、瑠依の家に迎えに行くと、制服姿の瑠依が出てきた。ブレザーを綺麗に着こなして、膝くらいまでのスカートから伸びる脚はスラッとしていて美しい。モデル体型と呼ばれる体型をしたいた。やっぱり、こういう人が美しいとされるのか。

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 正直、将輝にはごめんと思った。私からの我儘なんて彼にはずっとぶつけてきた。しかも、全てを受け止めてくれて、私のことを誰よりも知っている。でも、お別れになる。また泣いてしまった。最後くらい楽しめよ、と私に言い聞かせる。

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 昼飯は屋上で食べると言われた。なんとか寝ずに授業を受けきって、屋上のドアを開けた。


「何やってんだよ」


 瑠依はフェンスの上に立って、グラウンドの方を向いていた。


「ごめんね、将輝。ばいばい」


「ちょ…瑠依!?」


 涙を零していた瑠依が目を閉じて、体が浮いていた。俺は本能的に走ったが、間に合わなかった。俺にできることは救急車を呼ぶことだけだった。


 瑠依は身体が激しく損傷していて、永眠した。そんな知らせを受けたとき、涙が止まらなかった。家に帰って、部屋に閉じこもろうとした。ショックが大きすぎる。机を見ると、見たことないスマホと一通の手紙があった。


 将輝へ


 ごめんなさい。本当にごめんなさい。一生出会えなくなるのは辛い。でも、私の精神ももう限界。霧雨として、私と遊んでくれてありがとう。北神楽瑠依として仲良くしてくれてありがとう。ずっと狂輝も将輝もずっと大好きだった。空高いところへ舞ってこの世を去ります。


 今まで、ありがとうございました

     

           北神楽瑠依・霧雨より


 少し前の道徳の授業での「雨が舞う」の言葉の意味は、きっとこういうことなんだろう。霧雨が死ぬこと。瑠依の気持ちに気付けなかった俺も俺だが、霧雨が死ぬことを予言した先生は一体何者なんだろう。







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空高く、霧雨は舞う 七瀬瑠華 @NanaseRuka

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