第52話 あっけない結末
厄災を迎え討つ!
そんなクエストを受けてから早三日。
待てど暮らせど一向に現れない厄災に、僕とコエンさんは暇を持て余していた。
「来ませんねぇ、厄災」
「来ない方がありがたいんだがなぁ」
ギルド内の談話室にてロキ達のブラッシングをする。
分体総出でやっている。
ずっとブラッシングさせてもアレなのでたまに散歩させたりして、息抜きもした。
自主的にお散歩に行きたいって言い出したのでお散歩コースはロキ達に任せた。
「まぁ外が騒がしくなったらお出ましだろ」
「一応対応策はいくつか考えておいてます。僕の分体がいる限りは食事に混入しても拾えるようにアレからも二重、三重に分体置きましたからね、バッチリです」
「この街は平気かもしれんが、他の街が心配だよ」
「え、相手は九尾の処分を名目に動いてるんですよね?」
「他の街も狙うんですか?」
僕はそんな意味のないことをする必要があるのかと目を丸くする。
「言ったろ? あいつらは存在自体が厄災なんだ。いるだけで周囲に菌をばら撒く。菌の集合体が人の形をとってるだけだ。移動するだけで人や獣に付着し、数を増やす。その総数で本人が強くなるんだから積極的にばら撒くだろう。要はレベルアップだな」
「嫌なレベルアップ手段ですねぇ」
「そう言う意味ではばら撒いた病原菌を根こそぎ拾ってレベルアップするルークも大概だ」
「僕だって病気にはなりたくないですからね。体に悪いものは積極的に拾っていきますよ」
ここ最近のレベルアップでものすごく強くなったと実感している。
ただし拾えるゴミが増えただけで僕自身はサポーター以外の何者でもない。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
ルーク
<スキル:ゴミ拾いLV50>
スキル使用回数:500回
☆スコア:370.80
★スコア:100.00
△スコア:30.00
<ゴミ認定/★スキル>
埃
錆
油汚れ
カビ【熟成調理】
根枯らし蟲【養分抽出】
キノコ胞子
メタンガス
ヘドロ
老廃物【疲労回復】
ノミ
寄生虫
ニガミ草
カンミ草
イキリ菜【勇猛の歌】
ポイゾ菜
キリキ草【精神集中】
ザザム草【鎮静の歌】
ヒリング草【癒しの光】
レッドムーン草
チバシリ葉
ゴブリン
ボア
グレートボア
ブラックグリズリー
ブルホーン
レッドプランター
マンドラゴラ
スライム片【伸縮】
ブラックベアーの血【看破】
アースドラゴンの粘液【浮遊】
サンドローパーの体液【吸い寄せ】
ロキの抜け毛【魔力付与】
ソニンの抜け毛【毛糸制作】
プロフェンの血
プロフェンの抜け毛
プロフェンの角
ルエンザの抜け毛【分体】
インフィの抜け毛
シルバーフォックスの血
★ラビットソウル【獣神化/ロキ/ソニン】
★ベヒーモスソウル【獣神化/プロフェン】
★獣神融合
△風邪
△ノロ
△コロナ(β型)
△ボツリヌス┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
と、こんな感じ。
ものが増えるたびにステータスに変化が見られた。
☆と★。
それにもう一つ、△。
これは病原体を指す。
流行病の細胞をゴミ認識したら勝手にそっちに分類されちゃったんだよね。
ステータスを流し見しつつ、ソニンを抱っこしてほっぺをウリウリしてるところへ、外に散歩に行ってたロキとプロフェンが単独で戻ってきた。
あれ? 僕の分体は?
『終わったぜ、あるじ』
『あるじー、厄災やっつけたよ!』
よくわからないことを言うロキ。
プロフェンに至っては舌を出して駆け寄りながら胸に飛び込んできた。
かわいい。
じゃなくて。
「厄災をやっつけたってどう言うこと?」
「ム、聞き捨てならんな。厄災を討伐したとはどう言うことだ?」
「えと、この子達がどうも厄災を消滅させたとかなんとか言ってます。お散歩に行かせた僕の分体はどうしたの?」
『尊い犠牲だった』
この言い方、ルエンザに送った言葉と一緒だね。
つまり僕は厄災と相打ちしたってことかな?
でもロキはわかるけどプロフェンにつけた分体も居ないのはおかしいよ。
尊い犠牲なら一人で十分だよね?
『あるじが体を張って僕達を守ってくれたんだ!』
お散歩中の僕の分体がそんな行動するかぁ?
プロフェンはかわいいけどたまによくわかんないことを言う。
ひどく興奮していて、幻覚でも見ていたんじゃないかと思うほど。
興奮し過ぎて僕の顔はプロフェンの涎まみれになった。
「見回り終わったわよ、ってそっちのが帰ってきたのなら報告は必要ないかしら?」
フィニアとルエンザがお散歩から帰ってきた。
ロキやプロフェンが散歩に行きたがった後に、何か思うところがあって出かけたのだ。
「はいはーい。プロフェンちゃんはあたしと一緒にいましょうね」
「くぅん」
僕から引き剥がすようにプロフェンを強奪するトラネ。
ナイスだよ。その隙に僕は自分の顔を拭く。
別に汚くはないけど、このままじゃ前が見えないからね。
「いや、報告はしてもらう。どうも抽象的過ぎて内容がチグハグだ。フィニア君が何を見て何を確信したのか教えてくれ」
「じゃあ順に説明するわね」
こう言う時に人化できる九尾は強い。
感情で喋らないので、人への説明が上手なのだ。
別にロキみたいなタイプもプロフェンみたいなタイプも人間にはいる。
けどそう言う人ほど状況説明には向かない傾向にある。
僕に至ってはいつも状況に置いてけぼりを喰らうので、やれることをやることにする。
ロキの語る武勇伝を聴きながら、ブラッシングをするとそれが本当に自分のしたことなのかわからなくなってくる。
だってどれも拡大解釈され過ぎてて僕っぽくないんだもん。
「神官の消滅をこの目で見たと?」
「ええ、間違いないわ。多分パブロンにも少し入るから復活してるとしたらそこは注意が必要かもだけど、この辺にはいないわね。いても近寄らないと思うわ」
そう言って、フィニアが僕を横目で見る。
「なぁに?」
「なんでもないわ。ルークに倒されたって言っても誰も信用しないでしょうねって」
「ハハハ、街の英雄がまだこんな幼い坊やだと言っても国の貴族達は納得せんだろう。それにこれを国に知られても困る。そこでルークには二つの選択肢をやろう」
「選択肢、ですか?」
「ああ、自分が厄災を倒したと、事実をそのままに受け取る権利と、別に厄災なんて来なかった。全てを無かったことにする権利だ」
「つまり僕次第で事実を捻じ曲げるってことですか?」
「捻じ曲げるのとは違うな。だって誰も被害を受けてないんだ。今なら疲れが出て少し寝込んだで済ませられる。ことが大きく慣ればなるほど自由が効かなくなるもんさ。英雄視というのはいいことばじゃりじゃないからな」
「オレノーさんが冒険者になろうって思ったきっかけみたいなもんですか?」
「王族ほどしがらみに雁字搦めでもないが、概ねそうだ。何せそんな偉業を果たした相手を国外に取られたくないから、あの手この手で籠絡してくるぞ。地位を与え、土地を与え、お嫁さんを与えられる。未来永劫この地で暮らせ、だなんて要求してくるな」
「うわぁ」
人によっては一つの頂点。
けど、今の僕には窮屈な環境。
自分でお金を稼げるようになるのは一つの到達点ではあったけど。僕は……
「ごめんなさい。そう言うのはちょっと息苦しいです。僕にはこの子達の面倒を見る義務と、あとはまだまだ外の世界を見てまわりたい欲があるので」
「分かった。オレノーが来たらそう伝えとく。これからは毛皮修復師としての期待だけ受け取ってくれ。それとギルドからこいつも渡しておこう」
「これは?」
話が丸まって、これでおしまいだと言うところで一枚の用紙が目の前のテーブルに置かれた。
「土地と一戸建ての権利書だ。こいつがギルドから出せる精一杯の感謝の証だな」
「おうち! そそそ、そんな! 貰えません」
いきなり話が大きすぎるよ。
僕は胸の前で手を左右に振りながら否定する。
「まぁ話は最後まで聞け。救国の英雄がいつまでもこんな場所で作戦会議というのも花がない。それとこの土地にはびっくり機能があるのさ。とある魔導具師の作り上げた持ち運びが可能な土地と聞いたらどう思う?」
「普通に驚きます」
「だろうな。本来ならこれは帝国の王族にしか手に入れることができない代物なんだが」
「なんでそんなものがギルドにあるんですか?」
「とある王族が持ち込んだ品だな。金がないからこれで融通してくれないかって手放した品だ。あいつもルークが持ってるって知れば許してくれるだろう」
あ、それってオレノーさん?
「黙ってもらっちゃっていいんでしょうか?」
「あいつももうこっちに戻ってこれないからな。あいつの代わりに一緒に冒険に連れていっちゃくれねぇか?」
「そう言うことでしたら。まだ他の街が厄災種の脅威に怯えているかも知れませんし、僕の力はそう言うのを取り除くのに向いてますから」
「頼むぜ、救国の勇者殿?」
「そんなたいそうなものでもないですし、まだこの街にいますけどね?」
「ああ、こっちとしてはいつまでもいてくれていいぜ。Cランクまでは世話見てやる」
じゃあ、ずっとだ。
僕達Cランクになる気がないからね。
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