第51話 終わりを告げる者

 ロキとプロフェンの必殺技によって天高く吹っ飛ばされたコルドは、数時間の気絶の後意識を取り戻していた。


「痛たた。なによあれ。急に目の前が真っ暗になったと思ったら勢いよく吹き飛ばしてくれちゃって! ばら撒いた菌も回収し損ねたし、ほんと最悪!」


 懲りぬコルド。

 かたかが災害級と侮っていたための油断だ。


 油断さえしなければ遊び相手にもならないと本気で思っている。


 けど同時に失った菌も多く、それを取り戻さないと本調子になれないと言うのもあった。


 使徒コルドは風邪を司る龍。

 数千年間、病や死を司ってきた。


 多くの患者から摂取した菌はどんな対象の肉体にも瞬く間に吸収され、繁殖する。


 この時代において誰も対処法をみいだせなかったから竜としての地位もそれなりに高かった。


 だから菌を滅するワクチンが完成してることを知らない。


「そうだわ! 予定にない村を汚染しちゃいましょう!」


 名案だ。後で怒られることはわかりきっているが、このままではプライドが許せないと赴いたのは目と鼻の先にある男爵領の抱える街の一つ。

 ボツ=リヌスだった。


 コローニャ国の中でも一番菌の繁殖力に優れたこの街なら数日で本調子に戻るはず。そう思ったコルドは冒険者ギルドに向かう先で意識を失った。


【保菌量:0/6垓】


 残り6垓しかなかった菌が一瞬にして死滅したからである。


 アスターの置き土産だ。

 ルークの分体、これが街を龍の手から守っていた。


 本来なら8恒河沙もの菌を保有していたコルドは、肉体を維持すらできずそのまま無に帰した。



 ◇



 それを察知したコロニアが、バファリンにたどり着くとそこはあまりにも無惨な惨状が繰り広げられていた。


「菌が一つもない!? そんなバカな!」


 まるで空気中の狙った菌だけ滅する対抗策が発見されたとでもばかりに狼狽える。


 流石にこれは400那由多ほどの菌を持つコロニアも躊躇する。


「どうして? どうして街にいるだけで僕の保菌量が減っていく?」


 何かの攻撃か? と焦るコロニア。


「あれ、君は?」


 そこで現れたルークは偶然だね、とばかりにペットのウサギと散歩していた。


 ルークが近づけば近づくほど勢いよくコローナの中の菌が減っていく。


 那由多ほどあった菌がいつの間にか兆まで落ち込んでいるのを考えれば恐るべき滅菌力だ。

 そこまできて真の敵をようやく理解する。

 コルドがやられた相手は九尾ではない。今目の前にいるあどけない少年だ。


「そうか、君が僕たちのカウンターッッ!!」


「???」


 なんのこと? と首を捻るルークに対しコロニアは「騙されていたよ」と警戒を強めた。


 会話してるうちにも菌はみるみる減っていく。

 回収どころじゃない。


 このままだと回収されてしまうのは自分の方だ。


 教会の最高傑作として生み出されたコロニアは新人でありながらすでに三つの国を落としている。


 見た目こそ幼いが極悪なのだ。

 そんなコロニアが、ルークを前に後退った。

 恐怖を感じたのだ。


「君がコルドを倒したのは知ってるよ! なんて酷いんだ、尊敬してたのに!」


「ええと、君と一緒にいた子? 僕まだ紹介してもらってないから知らないんだけど。倒すも何も僕はこの子と一緒にお散歩してただけだよ?」


「しらじらしい嘘をつかなくて良いよ。もう僕たちが聖龍教会の関係者だって知ってるんでしょ? 街を守るために脅威を取り除くのは別におかしくないからね」


「???」


 何を言ってるの? と本当に理解が追いつかないと言う顔。


 え、本当に気付いてないのか?

 コロニアはうっかり自分が口を滑らせたことを自覚し、ヤケクソになりながら本性を表す。


 肉体を菌で一瞬で覆い尽くし、ルークに取り憑いた。


「君の滅菌力と僕の繁殖力で勝負だ!」


 コロニアが叫ぶ。


 ルークだったものはついには抵抗しきれずに地に伏し、これで憂は消えた。


 随分消耗したけどこれで邪魔をするものは居なくなったと立ち上がるコロニアの前に現れたのは……


「あれ? 君は。パブロンに出かけてるはずじゃ」


 さっき葬ったはずのルークだった。

 今度は頭が二つある子犬のお散歩中だった。


 その子犬はちょっとムカつく顔をしている。

 まるでコロニアを滑稽だと嘲笑っているかのようだった。


「なんで????」


 渾身の力を放ったはずだった。

 失った菌は多く、手に入れた菌は少ない。


 それでも脅威の感染力で抗った二戦目。


「ふーッ、ふーッ、ようやく始末したぞ。どうだ、参ったか!」


 これで安心だ。そう思った矢先に現れる第3、第4の刺客。


 手元に残されたのはただ一本の髪の毛のみ。

 なのにあの滅菌力だ。


 本体は一体どれほどの滅菌力なんだ?

 そう考えたら寒気がした。


 飼い主を失ったウサギと子犬がコロニアを可哀想な奴、と憐んでいる。


『お前、まだやるのか? もう勝負ついてるだろ』


『うん、正直相手になってないよね?』


 喋った。いや、念話だ。


 知恵のある獣特有の小慣れた会話が余計にコロニアを余計に惨めにさせた。


『僕に土をつけて得意になってるつもり?』


 ならば同じ言語でわからせてやる。

 教会にはまだまだ恐ろしい菌をたくさん保有してある。


 コロニアはそのうちの一つに過ぎないのだ。

 だから自分が死んでも人類は教会に怯えて暮らすしかない。


 そう脅した。

 そうしたらウサギが何もわかってないなと言う体で首を横に振る。


『何言ってんだ? お前うちの生活圏に入ってきただけで勝手に自滅してるんだぞ? 戦ってすらいない。うちのあるじはただこの街で暮らしてるだけだ。それで「レベルアップ美味しいです」ぐらいにしか思っちゃいねぇよ』


「なっ!? なんだと! 龍だぞ! もっと怖がれよ!」


『実際に龍の姿見てないもんね』


『だな。余裕綽々で手を抜くからこうなるんだ。九尾すら手懐けた手腕、舐めちゃダメだろ』


「くっ!」


 本体がいないのに、コロニアの肉体はじわじわ形を保てなくなっていく。


 それは分体のロキやプロフェンもルークのスキルを使えるからだ。


 ここで分体を殺しても一時凌ぎにしかならない。


 本体は別にいるからだ。


(ああ、ヒーティ。君はこっちに来ないで。本国に伝えるんだ。僕たちのワクチンが居ることを)


 絶命する瞬間、パブロンに残してきた聖龍教会の神官へと祈りを告げる。


 しかしその願いは叶うことなく、商人がパブロンに大量に持ち込んだ毛皮(分体)の移動中に死滅してしまう。


 毛皮の流通が活発することによって町中から肉体を蝕む菌がいなくなったのだ。


 人型でもない毛皮にも、ルークのゴミ拾いは発動した。


 それを本人が知ることもなく、その毛皮で作られたコートを羽織ったものは、武器は錆びず、病気にもならないと大絶賛。


 価値以上に人気になり、今や引っ張りだこの修復師として名を馳せることになるのだが、それはまた別の話。


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