第53話 もふもふカフェ、オープン!
貰った魔道具は、腕に巻きつけるタイプのものだった。
金を贅沢に使っていて、それを彩るように宝石が散りばめられている。
見ただけで値打ちものとわかるが、それの本質が全く別のところにあるなんて気がつかない。
これがお家かぁ、となんとも信用できない。
コエンさんから騙されてるんじゃないか?
僕は一度更地になった雑木林跡に腕輪に力を解放することを決意した。
で、現れたのは別荘だ。
うわ、想像してたよりずっと豪華だ!
僕の実家より大きいんじゃない?
「こんなのをポンとくれるギルドなんてあるのね?」
「まぁくれるって言うんなら持らっておこうぜ?」
トラネとキサムが室内を覗いておっかなびっくりした。
どう見てもお貴族様の豪邸だ。
平民には敷居が高すぎると居心地悪そうにしている。
「この広さはちょっと落ち着かないよね?」
「だねー、宿くらいの狭さの方が落ち着くって言うか」
「やめろトラネ。自分たちが一生貧乏なのを想像しちゃっただろ?」
「事実じゃん」
「ぐぬおー」
切り捨てるトラネにキサムが頭を抱えてカーペットの上でのたうち回る。
普段クールなのに、トラネとセットだと途端に小物になるよね、キサムって。
「まぁ、アタシが住むには少し手狭くらいかしら?」
九尾状態のインフィなら手狭だろうね。
ツインヘッドベヒーモス状態のプロフェンならしゃがんでも屋根から突き抜ける。
犬小屋にもならないが、そこは伸縮専用の分体を置いておけばいいか。
ここ最近ぶちぶち抜くから円形脱毛症になりつつある。
生え代わりが早いから気にしないようにしてたけど。
「いっそここでお店でも開いたら? そうだ、もふもふカフェとかどう? あたし給仕するよ?」
「俺たちらしいな。ルークには飯の腕がある。ブラッシングなら任せろ」
「え、お店を開くの? 流石に商業ギルドに許可取らなきゃダメじゃない?」
「ルークなら大丈夫だって! 救国の英雄なんでしょ?」
「何もしてないうちに終わったからそうやって持ち上げられてもピンとこないんだよね」
「確かに俺たち何もしてないもんな」
「それを言われると弱いよねー」
と妙にその事実から目を逸らしながら商業ギルドへ。
そのままザイムさんの元まで案内されて。
「ふむ、店をやる?」
「ダメですか?」
「いや、全然問題はない。むしろこの街に店を置いてしまっていいのか? 私から言うのもなんだが、この街に縛り付けてしまうことになるぞ?」
そうか、まだザイムさんはあの腕輪の事を知らないからそう思うんだ。
僕たちは顔を見合わせて、とある人物から託された腕輪の所在を明かすことにした。
「それは……王家の至宝。そうか兄はそれを君に託したのだな?」
「オレノーさんから共に世界を見せて欲しいと言われました」
「ならば私からは反論出来ないな。この町で店を開くなら自由にして良い」
「良いんですか?」
「むしろ命の恩人だ。何を拒む必要がある? それに君達の実績ならばケチをつける者達は出てこないだろう。それにこの街にも癒しは必要だ。冒険者ギルドで独占していたようだが、店としてなら私にもチャンスがある。そうだろう?」
ザイムさんの手が何かをモフるように蠢く。
もしかしてモフりたかったのかな?
「あの、ロキで良ければモフります?」
「今は執務中だ。だからその機会はオープンまで取っておこう。ああ、そうだ。入り用のものがあったならこれを見せなさい」
そう言って受け取ったのはブローチだ。
鷹の意匠があつらえてある。
「これは?」
「商業ギルド公認のシンボルみたいなものだ。胸につけてるだけで、商人からの覚えがよくなる。それとこれは君が毛皮修復師であると証明するためのものだ。合わせてつけておきなさい」
毛皮のマークに糸と針が縫が記されるシンボルだ。
わざわざ僕のために作ってくれたんだ。
見た目からは判断できない優しさに、僕はほっこりする。
「あの、ありがとうございます! 僕絶対に楽しいお店にして見せます」
「ああ、私も楽しみにしてるよ」
案外あっさり許可が通ってしまったので、流れでどんなお店にするかを商品を決めながらまとめていく。
結論。何も決めずに買い物をすると、無駄なものを不必要に買い込むことになる。
当たり前だよね、だって何も決めてないんだもん。
一度持ち家に帰ってから方向性を決める。
何をやりたいか?
来てくれたお客さんに何を提供するかだ。
もふもふと一緒に遊べる、お世話する。
それだけでいいのか?
確かに喜ぶ人は多いだろう。
しかしこの広さを活かすのなら……
僕達の獣魔以外の来客も想定して。
なら僕達の提供するサービスは……
「もふもふカフェ!?」
「それってトラネのアイディア通りか?」
「ううん、トラネのカフェはうちにお客さんを呼び込み、ロキやソニンなどの餌&人間用のご飯の提供だったでしょ?」
「そうだね!」
「でも僕のは少し違う。むしろ他のテイマーの居心地のいい場所にしたいと思ったんだ。その分の食事も頑張るし、この場所に留まり続けるわけでもない」
「まぁ、そうね。そういえばテイマーって他にも居るんだっけ?」
「バファリンじゃ見かけないだけで居るには居るな。ロキやソニンクラスとなるとそうそう見かけないが」
「プロフェンクラスもなかなか見かけないよねー?」
「わうん!」
トラネの腕で一声鳴くプロフェン。
そりゃ太古の遺跡の門番をテイムできる人はそうそういないでしょ。
まず懐かないって言うか、懲らしめるのも骨って言うか。
僕の腕の中でロキが胸を張る。こら、張り合わないの。
これ以上増えたら大変なのはこっちなんだぞ?
お世話の手が足りるっちゃ足りるが、分体の僕を連れ歩くのは大変だし、兄さん達は別行動中だし。
「おう、ルーク! 帰ったぞ」
「あれ、兄さんどうしてここが?」
雑木林近くの屋敷に突然現れた兄さん達。
「表が騒がしかったぜ? モンスターが寄り付かねーからってここに家を建てようって奴は一人しか思いつかねぇからな」
「それが、僕?」
「もしくはそいつ」
兄さんが僕から目を逸らしてフィニアを差す。
フィニアは不機嫌そうに兄さんを見返した。
「おぉ、怖。まぁそんな訳でオレノーさんが居ぬ間は高ランク冒険者である俺たちが抜擢されたって訳」
「あれ? 兄さん達のパーティってそんなにランク高かったっけ?」
「お前が除隊したから元のパーティに戻ったんだよ。もう俺の世話は必要ないだろ? サーカスは閉店、ゼリエース復活だぜ!」
兄さんの前のパーティ名そんなだったんだ?
知らなかった。あの頃の僕は何も知らなかったからね。
だからそれまで積み重ねてきた実績を手放して僕を迎えて新しいパーティを一から作ると言った時は驚いた。
まさかオレノーさんクラスのランク保持者だったとは。
「いや、元のランクはDだぞ? あとはこいつのおかげかな?」
そう言って見せてくれたのは、僕がお守りで持たせたロキ人形だった。
「これ持ってるだけで失敗がすげー減った。ミスってもリカバリが効く。状態異常にならねぇ、なんでこんなところで躓いてたんだってくらいスルスルランクが上がった」
「えっ?」
僕そんな効果載せてないよ?
「アスターさんの実力じゃないと?」
「俺の実力にこいつが加わって最強になった。だからルーク、今の俺があるのはお前のおかげなんだ」
僕の頭に苦労の跡が見えるごつごつとした手が置かれる。
ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられて、僕はそれを受け止める。
「痛いよ、兄さん」
「おっと悪い。お前はもやしだからなぁ」
『力仕事は俺の仕事だからな』
ぴょいんと跳ねるロキがアピールする。
「そうだったなぁ。と言う訳で何か困ってることあるか?」
「実はね……」
「ほう、店か」
僕は兄さんにお店を開きたい旨をアピールし、それからあっという間に作業は進んだ。
家を出てからいろんな街を歩いた。
そこで立ち寄った店や、受けて感動したサービスなどを並べていく。
そこで僕にもできそうな仕事を優先して。
「では私がビラを書きますよ」
「あたしビラ撒きしようか?」
ストックさんがお店のビラを書いて、ミキリーさんがそれを巻く仕事を引き受けてくれる。
そして店を出すと決めて一週間もしないうちにお店はオープンした。
「皆さん、お待たせしました! もふもふ
カランカランとベルを鳴らし、改装された室内に人が溢れた。
まずは受付を通って最初にもふもふと戯れることができるエントランス。
お迎えしてくれたのはロキとソニンの分体だ。
人数に対して圧倒的に数が足りないので分体で数を誤魔化した。
そしてイートインコーナー。
そこでは獣魔用の食事と、人間用の食事ができる。
セットでの提供、またはペット用の二択を選択できるようにした。
これはザイムさんみたいに時間を縫って癒されたい人向け。
思った以上にそっちの売れ行きも多い。
ザイムさんもこっそり来てくれた。
冒険者ギルドの職員さんもちらほら見かける。
割とシャレにならないくらい見かけるけど、業務回るの?
僕が気にすることじゃないけど、ちょっとだけ気になった。
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