第25話 ゴミ設定【ギスギの花粉】【ギスギの樹液】

 暖かくなり、肌着が薄くなった頃。


 僕たちの生まれ育ったところとは大きく環境の異なる現象が起きた。


 それが雨季。


 水瓶をひっくり返したような土砂降りが実に数週間も続くと言うのだから大変だ。


 雨季中の外出クエストは推奨されてないとかで、冒険者達はランクに応じて街のクエストを持ち回りしている。


 普段戦闘で食べているもの達は、暇そうにギルド集まってカードゲームに興じている。


 そこにお酒でも入ればケンカにでもなりかねないが、僕がいるのでなんとかなっていた。


 今や僕のゴミ拾いはLV5。


 五人分の僕が手を繋いでぐるっと回れるぐらいの距離のカビとアルコール成分を飛ばしている。


 入れ食い状態だ。僕はただ座ってるだけなのに、☆スコアを伸ばし続けている。


「しかしあれだな、暇だな」


 兄さんがカードをいじりながらボヤいた。


「何よ、勝てないからって僻み?」


「負けが混んでますもんね、リーダーは」


 ウチのパーティは兄さんとミキリーさんがバリバリの戦闘組だ。

 

 だからバトル以外のクエストには興味が向かず、ここで管を巻いている。


 さっきから負けが込んでるからか、なおさら機嫌が悪い。


 僕はソニンをブラッシングする。


 ウサギは構造上、吐き出すことができないのでグルーミングするとお腹を壊すそうだ。

 なので毛繕いをブラシでしてる。


 雨季は毛が濡れるので外に出るのは嫌なのだそうだ。


 嗅覚も制限されるし、雨の音で聴覚も働かない。

 モンスターに取っても嫌な気候という話である。


 後で兄さんにロキの毛繕いして貰おうかな?


 ソニンだけするのはロキに悪いし、自分で毛繕いって普通に難しいからね。


「大変だ! 大雨に乗ってギスギの花粉まで水路に混入したって話だ」


「なんだって!?」


 ギルドでカードゲームに興じていた冒険者達が慌て出す。


「何か困り事かな?」


「わからん。だがビジネスの匂いがする」


 兄さんが目を光らせて椅子から勢いよく立ち上がった。


 変なところで嗅覚が鋭いんだから。


 ギルド内の冒険者から詳しく話を聞いたところ、ギスギは木材として建築物や薪として有能で、この街でも多く活用されているんだそうだ。


 しかし雨季に花粉が飛び散って、それが少しでも粘液に触れると、目や鼻が大変な事になるのだそうだ。


 勿論それは花粉として飛んできた場合だ。


 今問題となっているのは、水路への混入だった。


「水路に入るとどんな問題があるんですか?」


「まず顔を洗う水が、汚染されていますよね? それで顔を洗うことを想像してみてください」


 僕たちはまだ体験したことはないのでうまく想像できなかったけど、説明してくれた受付のお姉さんが心底嫌そうな顔をした。


「顔は最悪どうでもいいんです。問題はお湯として浸かった時の方です。服の中から込み上げるむず痒さ。中身を取り出して洗いたくなるあの感じを全身で味わう! 地獄の始まりだわ!」


 この街の水路は近くの山から引いてきているそうで、そのまま街の下流へと続くのだが街に止まる時間が長く、混入は生活基盤全てを覆すほどの地獄が待っていると力説された。


 つまり一大事ということだ。


「ルーク、こりゃ恩の売りどころじゃねーか?」


「まぁ、僕達も困る案件だし? クエスト次第なところはあるよね」


「まぁな。それはそれとして掛け合うだけ掛け合ってみようぜ」


 兄さんはクエストが出る前に自分たちなら解決できるということをギルド側に売りつけるべく口を回した。


 僕の売りは、リフレッシュのスキルとテイマーぐらいしか認知してないギルドは、新手の詐欺じゃないかと警戒を強めている。


 そんなうまい話があるのなら、もうとっくに解決しててもおかしくないはずだとその目が物語っている。


「兄さん、兎にも角にも説明より前に証拠を見せるべきだと思うんだよね」


「本当に、取り除けるのですか?」


「僕のスキルがそういうのに特化してるんですよ。汚染した水の元まで案内して貰えますか?」


「蛇口を捻れば出るわ。待ってて、直ぐに持ってくるわね」


 受付のお姉さんは奥に行った後、コップを持って戻ってきた。

 僕はゴミ拾いのスキルを発動する。


 ┏━━━━━━━━━━━━━━┓

  ◎汚染された蒸留水

  カビ【対処可能】

  ギスギの花粉【必要スコア☆20】

  ギスギの樹液【必要スコア☆30】

 ┗━━━━━━━━━━━━━━┛


「行けそうか、ルーク」


「うん、大丈夫。ただ花粉の他に樹液も溶け込んでるね。これも取っちゃっていいのかな?」


「花粉以外も? 樹液って言うのは普段流れるものなのか?」


「いえ、伐採した木々は専用の職業の方々が厳重に管理してます。樹液そのものはそこまで害はないんですが……確かに混ざってるとなるとおかしな話ですね。どう致しますか、マスター?」


「まずは花粉被害をどうにかしてくれるか? 樹液の方についてはこちらで調べる。もしこれが自然災害でなく、人災だった場合は街全体に対する敵対行動として厳しく処分する必要があるからな」


 なんか花粉被害以外の事件が出てきちゃったぞ?


 樹液も一応回収して、選択から外せばいいかとコップの中から除去する。


「終わりました。もう飲んでも大丈夫です」


「もう、か?」


「何かしたようには見えなかったが」


「俺が試してやるよ」


 いつの間にか現れたオレノーさんが、受付のお姉さんの手からコップを奪い取り、躊躇なく飲み干した。


「ちょ、オレノーさん!?」


「プハ! うまい!」


「直ぐに処置をしないと大変な事になるぞ!」


「大丈夫だ、ステータスに状態異常が記されない。これはもう綺麗な水だ。なぁ、坊や?」


「一体どういうカラクリだ? そこのハンターラビットの件は飲んだ。しかしこっちの目視できない花粉除去となると話は変わってくる」


「ルーク、どうする?」


 迫るギルドマスター。兄さんは僕の前に出て、秘密を共有すべきかを聞いてくる。


 僕は頷いて、ゴミ拾いのスキルを開示した。


「なんと、任意にゴミを選択して拾い上げるスキルがあると?」


「オレノー、知ってるか?」


「いや、聞いたこともない。未確認のスキルだ」


「だがこの効能、出るところに出せば飼い殺しにされるぞ?」


「だろうな」


 なんだかおっかない顔を突き合わせながら怖いお話をしている。


「言っとくが、弟を手放す気はないぜ? 権力で無理やり取り上げるってんなら、オレ達はこの街を出ていく」


「待て、話を急くな。俺達は帝国軍人じゃない。そもそも恩人を売るつもりなんてない。お前達には随分と世話になってる。帝国が差し出せと言ってきたら、俺たちが盾になってでも秘匿するさ」


「その言葉、どこまで信じられるんだ?」


「そうだなぁ、俺がこの帝国の第二皇子だって言えば少しは信用してくれるか?」


 え? オレノーさんが皇子様?

 あまりにも想像からかけ離れた人相すぎてびっくりした。

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