第40話 探索者としての人生
「それじゃ……つけてみるぞ」
「ああ……」
春重は八十七階層で見つけた
「……何も起きませんね」
固唾をのんで二人を見守っていた真琴が、首を傾げる。
桜子の話では、効果を発揮した腕輪はすぐに砕け散るとのことだったが、待てど暮らせど何も起こらない。
名前:十文字桜子
種族:人間
年齢:24
状態:命令実行中
LV:145
所属:NO NAME
HP:3244/3244
SP:3561/3561
スキル:『太刀(LVMAX)』『鑑定』『精神耐性』『緊急回避(LVMAX)』『索敵(LVMAX)』『反応速度向上』『直感』『
「……変わってないな」
「マジか……」
春重は肩を落とす。
「きひひっ! 支配者の力がそんなちっぽけな腕輪でどうにかなると思ったのか! バカじゃのう!」
「……こいつ、斬ってもいいか?」
刀に手をかける桜子を、春重と真琴が全力で止める。
いや、春重自身、薄々分かってはいたのだ。この力は、呪いなどではない。この世の理よりも、さらに上の力ではないかと。たとえるならば、システムハックに近い。
「……使えないと分かれば、ここにはもう用はない。外に出ようか」
「なんだか、久しぶりな気がしますね」
「何日もこのダンジョンにいたんだし、そう思うのも仕方ないな」
苦笑いを浮かべながら、春重と真琴は、いまだ睨み合っている桜子とエルヴァーナを連れて、九十層にある脱出ポイントへ向かう。
台座の上に青白い魔法陣が広がっているこのオブジェクトこそが、ダンジョンの外にワープできる装置である。もちろん、これもどういう原理かは分かっていない。
「……これ、エルヴァーナも一緒に外に出られるのか?」
「さあな。何か命令しておいたほうがいいんじゃないか?」
「確かに」
春重は、エルヴァーナに対して『ここに取り残された場合、自分の足で新宿ダンジョンを出ろ』という命令を下す。当然、エルヴァーナは極めて嫌そうな表情を浮かべた。
「我に命令するな! 不快じゃ不快じゃ!」
「駄々をこねるなって……よし、行こう」
こうして四人は、脱出ポイントの上に立つ。
するとすぐに魔法陣の光が強くなり、四人の体を飲み込んだ。
「ん……?」
やがて光が収まると、そこは日に照らされた地上だった。
数多の冒険者、そしてN新宿駅が見える。
「そ、外だ……!」
真琴が歓喜の声を上げる。
その次の瞬間、転びそうになるほどの地響きが、彼らを襲った。
「あー、我が外に出たからか」
三人と一緒に外に出たエルヴァーナが、自分の巣である新宿ダンジョンを眺めながら、そう告げた。
新宿ダンジョンは、主を失ったことで崩壊のときを迎えていた。辺りは騒然としており、パニック状態になっている。
ダンジョンが崩壊したということは、最深部にいるダンジョンボスが討伐されたということ。現状国内最強パーティであるアブソリュートナイツですら、最深部にはたどり着いていないわけで、他に到達報告もない以上、この新宿ダンジョン崩壊は多くに人々――――いや、日本という国において、対処が追いつかない非常事態であった。
「これ、一応俺たちが攻略したってことになるのかな」
「なるんじゃないか? ギルドに報告すれば、報酬がもらえるかもな」
「でも、ボスを倒したって証明ができないよな……」
「ああ、そうか。じゃあ、こいつの腕でも斬り落とすか?」
「だ、ダメだ桜子……!」
桜子は、やたらとエルヴァーナを目の敵にしている。
現状、もっともレベルの高いエルヴァーナに対し、彼女は対抗意識を燃やしていた。いつかひとりでもこのレベルのモンスターを倒せるようになる。それが今の彼女の目標である。
「どうでもいいが、我は腹が空いたぞ」
殺意を向けられていることを知ってか知らずか、エルヴァーナの腹が盛大な音を立てる。
「お腹空いたって……モンスターって、空腹とか感じるんですか⁉」
「そりゃそうじゃろ」
「で、でも、ボスって自分のテリトリーから出られないんですよね? 食事はどうしてたんですか?」
「知らん。我がテリトリーから出られるようになったのは、意思を持ってからじゃ。それからはテリトリーの近くにいる魔物を片っ端から食らっておったわ」
「……なるほど」
九十層以上に住むモンスターを片っ端から食らいつくすなんて、こんなに可愛らしい外見をしていても、やはり中身は最強のモンスターというわけだ。真琴はそれを再認識して、顔をひきつらせた。
「とにかく! 我は肉を所望する! ハルシゲ! さっさと連れてけ!」
「ちょっ……肉って……」
エルヴァーナに腕を引っ張られた春重は、真琴と桜子の顔を見る。
「……そう言えば、俺もなんか腹が減ったな」
春重がそう言うと、彼女たちは顔を見合わせて笑った。
「そうだな。私も腹が減った」
「私もです! せっかくですし、打ち上げでも行きませんか? 手に入ったものは、そんなに多くないですけど」
確かに、春重たちが今回の探索で手に入れたものは少ない。
それでも、ひとつの大きな難関を、全員の力で乗り越えることができたのだ。
彼らの心は、達成感で満ちていた。
「はははっ、よし、焼肉でも行くか」
「せっかくですし、穴熊さんも誘いませんか?」
「いいね、それ」
春重は、仲間と共に崩壊していく新宿ダンジョンをあとにした。
ダンジョンとは何か。
モンスターとは、探索者とは、スキルとは何か。
そして――――支配者とは何か。
謎は深まるばかり。しかし、それでも彼らは戦う。
すべては、サラリーマンという人生を失った代わりに手に入れた、探索者としての人生を歩んでいくため。
山本春重(38)の伝説は、まだ、始まったばかりである。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
『あとがき』
これにて一章完結となります!
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【一章完結】スキル【万物支配(ワールドテイム)】に目覚めたおっさんは、ダンジョンで生計を立てることにしました~無職から始める支配者無双~ 岸本和葉 @kazuki
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