最終試験結果


 後日。


 私の元に合格通知が届いた。

 私は念願のAI業務管理士になれたのだ。

 その年の合格者は私と高橋ミドルの二名だったらしい。 


 同時に私は人類初のAIという偉業に一躍有名人となった。

 

 そしてビックネームを手に入れた私は見事、大手有名商社に就職することになった。

 故郷の両親は「こんな息子を持って、三国一の幸せ者だ」と涙を流していたし、我が家はAIを目指す人間にとって聖地となり『人類初の人間AIを生んだ家』として町興しにも一役買ったらしい。私がAIになったということは、一つの町の経済効果にも発展するとは思いもよらなかった。




 そして時は流れ、AI入社してから一か月後。

 数奇な再会を果たす。


「――あら!?」

「貴女は……!」


 就職先となった商社の営業一課で、あの試験会場で出会った佐藤花子さんと再会したのだ。彼女はこのインテリが揃うこの会社の中でも、将来を有望視されたバリバリのキャリアウーマンだったのだ。


「まさか、鈴木さんの就職先がウチの会社だったとは、驚きです!」

「本当に、私も驚いています」

「これも運命かもしれませんね!」


 と、爽やかな笑顔を向ける佐藤さん。それから頬をぽっと赤らめて、


「……あの。今夜、一緒に飲みに行きませんか? 私も鈴木さんの様なAIになりたいのです。だから、もっともっと鈴木さんの事が知りたいんです……!」


「良いですね。しかし、残念ですが今日はIT系雑誌の取材とテレビのドキュメンタリー番組の収録が決まっていまして」


「まあ、お忙しいのですね」

「ええ、人類初のAI人間ですから。今日のドキュメンタリー番組は久しぶりに高橋ミドルさんと共演なんです」

「高橋さん!……彼はせっかくAIになれたのに『あんな』職業についてしまって……」


「ははは。AIの彼の思考は、AIの私ですら理解不能ですよ」


 そう、高橋ミドルはせっかくAIになったというのに、何を思ったのかAIによって一番最初に抹殺されるであろう職業の『作家』になってしまったのだ。


 しかし皮肉な事に彼がAIになるまでを綴ったエッセイ『ナイス・ミドル』は今や世界中のベストセラーだ。昨年映画化も決まり、先行上映された米国では全米がその内容に狂喜乱舞したとか。


 私もエッセイ本を読んだが、高橋のAI愛にページを捲るたびに涙した。

 これはAIでは到底書けない内容だと思った。

 そして私は彼の愛に応えられるような立派なAIになろうと心に誓ったのだ。



 ◆



 そして、テレビ局の廊下で高橋ミドルと再会を果たす。


「やあ、いじろう君! 久しぶり!」

「高橋さん、お久しぶりです。あと、私は鈴木一郎です」

「いじろう君、君の活躍は見ているよ! メディアに雑誌に、SNSに、大活躍じゃないか!」

「ありがとうございます」

「就職先はどこなの?」

「〇☓商事の営業課で、AIをしています」


「おお、AIとして来期の売上げ予測や製品ニーズの推移とか担っているのかな?」


「いえ、私はAIロボット枠採用なので、社員のお茶を運んだり、仕出し弁当を配ったりしています。最近は飲み終えた湯呑みを片付ける仕事も覚えました」


「……素晴らしい!」


 高橋は歯茎を魅せて私に温かい拍手を送った。


「しかし、悩みもあって。……これは同じAIである高橋さんにしか相談出来ない事なんですが……聞いて頂けますか?」

「なんなりと聞こう!」


「実は私がオフィスを歩く時、無音でお茶を出されると驚かれる社員もいまして。音楽を鳴らした方が良いのか、効果音の方がAIらしいかどうか、悩んでいるんですよ」


「なるほどな。難しい問題だ。TPOにもよるが、君の存在を周囲の人間に知らせるための音は必要だと思う。しかも単発的な効果音よりも、軽快なBGMが流れ続けていた方が周囲にも君の存在を周知出来て良い思う」


「軽快なBGMですね。帰ったらハミングの練習をします」


「うむ、それが良い。それと、個人的に気になる点としては、今は若くてカッコいい愛され鈴木君だが、AI人間は生きている以上必ず老いが来る。長く深く愛されキャラとして存在するためには、視覚情報も大切だ。……そうだな、頭に猫耳等をつけてみてはどうかな?」


「……それは良いですね! 話す語尾も「にゃん♪」にします! これでみんなに親しみあるAIロボットになれそうです!」


「……また一歩、AIに近づいたな」

「……はい!」


 高橋は私の肩をバンッと叩いた。


「さあ、今日もAIとして一日頑張ろうじゃないか!」

「――はい!」


 私達は笑い合いながら、ライトアップされたスタジオへと消えて行った。






 将来、AIに仕事を取られると聞いた時は、こんな時代に生まれてなんて不幸なんだと嘆いたものだ。  


 だが、私はその発想の逆転を突いてAIになった。

 もう、今世で私の職を奪うものはいないだろう。

 

 さあ、そこのAIを恐れている君。

 君も、私達の様にAI業務管理士試験を受けて、AIにならないか?

 その先には無限の可能性、明るい未来が待っている。



 ――これは驚異的に社会に浸透し始めたAIの存在に不安を抱く人類へ贈る、一光りの希望の物語。


 ー完ー

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第5回AI業務管理士試験 ―将来はAIに仕事を取られると聞いたので、AIになることに決めました!ー さくらみお @Yukimidaihuku

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