アビリティアチルドレンズ-闕序の燈-
宮島織風
地下二階からの始まり
西暦2046年、人類は戦っていた。海の底から現れた怪物「レトキシラーデ」と。彼らの圧倒的な物量とその巨躯により人類は瞬く間に劣勢に立たされた。
しかし、そこに光妙があった。「海護財団」それは彼らの前に立ちはだかるべく、日本の九州出身の研究者により建てられた。
我々の希望であったライラック艦隊、その一隻である「LA15ミライ」がその乗員4名の初陣と共に機関暴走に伴い爆発四散した。僕の幼い弟子達の船だ。
これは、少し上手くいったと思ったら蓋を開けたらそれ以下だった世界な気がしてならないのは、果たして何故なのだろうか。
………
数日前、八丈島沖。海護財団第3機動艦隊が並んでおり、LA15ミライ及びLA38ゆうぐもを筆頭とした艦艇が迫り来る敵を迎え討とうと構えている。
「興一さん、戦闘境界面に入ります!」
「光隆、初陣…絶対に生き残るよ」
「手が震えてる、大丈夫か、光音?」
「も、勿論。この船と、貴方を信じる」
「掛瑠…気持ちの整理は付いた?」
「全然、と言ったら嘘になる。でも祐希、やるしかないんでしょう?」
頼もしいと感じた。彼らは僕が育てた、大切な宝刀なのだから。だけどそれを、僕は…。
「みんなを、護るんだ!」
退避させる時間を作るために、艦隊が全滅してからも2隻で真正面から20万を超える敵を相手にした。死屍累々の海域を、更に埋め尽くす大海嘯。
それを陽電子砲や、その他の兵器で薙ぎ払った。でもそれでも、間に合わなかった。
僕は彼らに脱出をせがんだ。
「君たちがこれ以上、本部海域にいる必要は無い。自爆シーケンスに巻き込まれる前に逃げろ!」
「いいえ、間に合いませんよ…」
敵の懐奥深くまで、敵をLA15は…僕の弟子達は蹂躙し、されども包囲攻撃を受けていた。
「光隆、いなくなっても…一緒だよ!」
「当たり前だ、光音!」
「兄さん、祐希…ミサイルが尽きました」
「掛ちゃん、まだここに…ペイル級が何隻がいる、それを敵に飛び込ませて!」
最後の最後まで必死に戦い、そして…LA15ミライとその乗員4名は船ごと殉職した。
……………
……
「あ、目が覚めました!興一さん!」
目が開く。ここは何処かと分からない、だけど小さな空港のロビーであるように思えた。そしてナースが興一さんと呼ばれる人間を呼びに行った。
「良かった、兎も角は無事だったんだな」
その興一さんと呼ばれる人と、ナース…吉野琴子と書いてあったその人は自分を見て胸をなで下ろしていた。
「君の前で弱音を吐いてしまった事、申し訳ない。僕の名前は弓張興一、生徒を守れず自分だけ生き延びてしまった…愚かな先生だ」
先生…どう見てもこの人、良いところ中学生に思える様な容姿をしている。だが、彼の独白が妙に頭の中に残る。
そう思うのも束の間に、自分も挨拶をしようと思った。でも、思い出せない。
「あ、あの…」
「そうだった、君の名前を聞いていなかった。何という名前なの?」
「それは…思い出せなくて」
横の、琴子さんは彼に私を任せてこの小さい空港の様な施設に並べられた布団を見て回っていた。
「ここ、何処なんです?」
「伊豆大島…と言っても分かるかな、神奈川県の下にあるちょっと大きな島。この間怪物の襲撃に遭って、君はそれに巻き込まれ漂流していた。それで緊急施設としてこの空港を借り上げてヘリで救助した人を、搬送したんだ。」
突然、頭痛がほとばしる。あの爆発に、そして名前が思い出せない4人の子供の顔が浮かぶ。髪の毛が黒色で蒼い眼をした少年、白髪で目が紫の少女に、同じく白髪で目がオレンジの少女、そして緑色の目をした少年。
「あ、あの…その人たちに、彼らは含まれますか?」
自分が何故その質問を出したのか、分からなかった。でも知りたいと希求した。すると興一さんは、目を少し背け、口を開けた。
「相浦光隆、松浦光音、松浦祐希、相浦掛瑠。四人はLA15と言う艦艇になり、勇敢に戦い、そしてその艦の暴走により爆発して果てた。」
空いた口が塞がらなかった。自分と同じくらいの子供が、戦い、そして壮絶な死を遂げてしまったのだ。そしてその子供達が自分にとっても何故か大切であったと思えるのは何故だろうか。
「君の名前は、恐らく諫早イオリ。彼らと共に5人目の生徒となる筈だった。だけど、君のご両親とも連絡が途絶えてしまった。」
自分の名前、実際に聞いても思い出せなかった。そして自分は少年だと思っていた。しかしその紅茶色の、長い髪の毛を見て思った。自分は、女性であるのだと。
「気持ちの整理が付かないか。僕もだ、せっかくのホームグラウンドが消し飛んだんだから。この伊豆大島が、海護財団の予備施設になってる。だから一応の復旧を、今急いでいる」
実際に、彼に連れられて島を車で走ってみる事にした。要塞の機能なんて到底果たせない様な、小さな島に思えたがそこかしこに物騒な車両や兵器が並んでいるのを見てそれを実感せざるを得なかった。
「着いた、波浮港」
「漁港、ですかね?」
「本当なら、彼処に敷島と呼ばれる巨大なメガフロート…と言うより実態は浮遊人工島が浮かんでいた。でも、LA15暴走の余波で…」
その殆どが消え去ってしまった、そう言う事なのだろう。彼から大切なものを奪い去ったのは、レトキシラーデと言う存在である事を自分に教えてくれた。
「君のご両親と連絡が付くまで、この島に居るといい。さてと、元町港に居る僕の船に案内するよ」
再び彼の車に乗り込み、何処かへ向かう。2日前に発生したその悲惨な出来事のあらましを、そこで聞かせてくれた。
レトキシラーデと呼ばれる怪物が、ハワイを陥落させた。守将であった戸次了も殉職、その勢いでミッドウェー、そして巨大メガフロート“敷島”への侵攻を許してしまった。
本来、そこへ転校するはずだった自分は船に乗っていた際にその化け物の投擲した槍により海に投げ出され漂流していたらしい。だが持っていたペンダントに、例の四人と映るショートカットの自分が居た。
その例の四人は、自分より先に学校に転校していた。だがその裏で、その軍艦をたった4人で操る素質を持っていたらしい。
聞いてて頭が痛くなる話だが、自分は彼らと会うのを楽しみにしていた様な気がした。だが彼らは居なくなった。大量の敵と、その要塞を道連れにして。
自分や、恩師、そして彼らのもう一人の幼馴染である松浦景治を逃す時間稼ぎをして、機関暴走を起こし自滅したとの事だ。
「何か、彼らは誰かのために頑張る人…だった様な気がします、だからそんな選択が選べたんだと思います。」
「そうだな…僕が、先に彼らを親元から引き込んでしまったのが不幸の始まりだったかもしれない。少々家庭に難があって、それで…」
もしも自分と一緒のタイミングで、彼らが敷島に転校していたら。彼らと笑い合えただろうか。思案する暇が、車内に重い空気を醸し出させる。
元町港、伊豆半島が遠くに見えるこの港。かつてより拡大された様で、旧港(旅客用)と新港(海護財団予備施設用)があり、司令部がそこに設置されていた。
「景治司令、復旧の目処は…?」
「見ての通りだ、佐世保と室蘭で艦を今大量に作らせている。それの到着は早くてひと月後、それまで君の守護を頼らざるを得ない。波浮港に君の為の家を用意した」
この、頼りになるのか分からない彼の肩が何かを背負っているのは確かであった。だが、2つ疑問があった。この景治司令もまた年若い存在であり、こんなのが総司令官とは訳が分からなかった。
次に、この興一さんの守護とやらが何なのか。記憶を失った自分だが、その頭はこの状況下でも次々と疑問を発見しては答えを見つけれないでいた。
「取り敢えず、都姫さんが君の家の事は仕切ってくれる。人事はイズナがやってる、太平洋奪還艦隊として江迎の大友さんが向かって来ている。手駒が揃うのに、2週間だ。」
「分かりました、さてと…」
「その前に」
「何ですか」
「彼…女は、どうするの?」
年端もない子供を保護したとは言え、自分の家で暮らさせる訳にも行かない。そう考えた興一は、琴子に任せようと連絡をかけた。
「興一さん」
「食い気味に、どうしたの?」
「チョウナちゃんが、起きました」
「…カンナと、陸唯はまだ行方不明だが不幸中の幸いだ。君の妹分は、生きているそうだ。空港に戻ろう」
伊豆大島外周を、いつの間にか一周して空港に戻っていた。そこには、自分と同じ紅茶色の髪の毛をした少女が立っていた。
「お、お姉ちゃん!」
「チョウ、ナ…だっけ?」
「だっけって、自分の妹の事…忘れたの?」
「わ、忘れ…はい。ごめんなさい」
ぽこぽこ叩かれてしまった。だが、自分の事を姉と言ってくれたと言う事は、彼女もまた親元を離れてこの島に転校しに来たのだろう。
「と言う事で、二人を頼む」
「あ、はい…分かりました、弓張興一戦時特務中将」
………
自分たちは、琴子さんの家に転がり込んだ。彼女には兄の秀喜が居るらしいが、彼は上司を上手く嵌めてレトキシラーデを最低限の犠牲で迎撃したと、新聞の切り抜きが机の上に置いてあった。
「琴子さん、これ…」
何やらそれが気になったのか、チョウナが指差して琴子さんに聞き始めた。すると、何やら話してくれた。
「兄の秀喜、卑怯者とか言われてるけどあの上司は不正とかやってたから…割と胸がすうってした人が多いってさ」
スーパーには何も並んでおらず、配給として乾パンとお水、そして粉ミルクが入っていたものを渡されていた。そして散乱していた。
私たちは自分たちのスペースを確保すべく、琴子さんの許可をもらいそれらを片付け始めた。その間、家主の琴子さんは何やら書類をよく読んでいた。
「吉野琴子軍曹を少佐として、特命特殊能力者育成担当官に任ずる…か。先生になる事を、こんな形で叶えちゃうなんて」
その独白には、何やら渋いものがあった。聞くと、彼女は先生になりたかったが他の専門科目との兼ね合いから諦めねばならなかったと言う。
「ともかく、二人とも…これから宜しくね」
「お願いします」
「お、お願いします」
「さて…取り敢えずご飯にしよう、軽くだけど心得はあるよ」
そう言いながらも、琴子さんは弟子2人にちゃちゃっとカップ麺を応用しプランターで育てたニンジンなどを茹でて入れた、特製ラーメンを出してくれた。
「おお!」
「一つだけ彩りを足しただけでも、少し違うかも!」
「ほら、手を合わせて?」
「いただきます!」
その温かみに、自分は感謝した。その汁は温かくも、熱すぎずに絶妙な加減であったと思う。スープもまた少し、魚介から取れる出汁をふんだんに活用している醤油ラーメンであった。
「お、おいしい!」
「生きてきて、ここまでジャンクで…でもここまで良いと感じるものは無かったかも」
「そう、ならよかったよ!」
こうして、この日の日は暮れた。自分にとって、地下二階からのスタートになったこの日。自分のいろどりは、果たして何で作られるのだろう。
アビリティアチルドレンズ-闕序の燈- 宮島織風 @hayaten151
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