第2話 地獄の蓋

泣き叫んでもここには犬畜生は来ないし、無言で居ても死神は居ない。楽園ではないか?ここは人の業が成した神の領域。


嗚呼ベドォラ……ヴァルハラよ。排水溝に溜まるクソのヌメリくらいにクソなこの世界より地獄のほうが程よく醜くて過ごしやすいとは……我々人類は如何にして生きていけば良いのだ?


今やこの恐怖こそが我々の生き甲斐。だからもっと……もっと…………


「地獄の蓋まで来たか悪魔共……待ち侘びたぞ。10000年越しの復讐。果たさせてもらおうか!!」





***





惑星47h48g。呼称、ヘルサイド。ホムンクルスでないと活動出来ない程の凶悪な環境だが、その環境が今や我々に味方してくれる天使になっていた。


複雑な森林構造は敵部隊に罠の設置を不可能にさせ、こちらの静止軌道上からの絨毯水弾爆撃によって大多数の敵部隊を破壊した。


迷路のような森林地帯の構造上、中に居た敵部隊は撤退が遅れてしまうはずだ。これによりこちらの部隊が数的有利となる。


降りる際も対空砲火を受けなかったのがそれを裏付けるものになる。地上に降りると静止軌道上の艦隊との連絡は途絶える。ここからは部隊ごとの部隊長が現場の指揮を取ることになる。開けた大地に罠を仕掛けるなり拠点を設営するなり好きにできるわけだ。


「909番隊ジェネレーター熱量再計算。オブジェクトD7へ移動完了後周辺の偵察の為に散水の陣を取る。各機400mを保て。アテンション、Go」


『『『『ラジャー』』』』


周辺の地形はほぼ開けている。1度障害物に身を隠し、そこから散開して周辺を警戒しながら一旦安全地帯を設営したい。そう考えてオブジェクトD7へ移動してみたが、足元の圧力が何かを押し潰したような異常値をしていた。下部カメラを見てみるとそこにはやはりと言うべきか死体があった。


「そうか、爆撃とはいえ水弾だもんな。蒸発してるわけないか」


環境がかなり乾燥しているのもあって通常の爆撃では森林火災を発生させてしまうため行えなかった。水弾による爆撃で草木を地面に押し潰すような事をしたのだ。摩擦係数は変えたが圧力は変えてなかった。


後で変えないとなと思いながら更におかしい事に気が付いた。


そうだ。押し潰したのだから更に押し潰しても圧力は変わらないはすだ。だから確か普通の圧力値設定にしたはずだった。


「全機停止。すぐさま警戒を厳に――」


オブジェクトD7への接近をやめて警戒を始めようとしたその瞬間だった。


オブジェクトD7が爆発した。爆破物が仕掛けられていたみたいだ。停止があと少し遅れていたら木っ端微塵だっただろう。


「全周警戒!!」


いや、違う。


「散開しろッ!!」


すぐさま散開し、その場から退避した。居た場所からは弾丸が飛び出して空中へ噴水のように散らばっていった。


やはり、足元に潜んでいた。いや、生きていたのだ。どういう原理かは知らないが地下に機体を隠していた?オブジェクトD7へ接近することを見透かした上で……なんてやつだ。


弾丸が飛び出た所へHEAT弾を連射。すかさずB4手榴弾を投擲。


「なにをしている!!敵だ!!木っ端微塵にしろ!!我々を罠に仕掛けようとした罪人の処刑だ!!殲滅だ、殲滅しろ。一匹残らずこの場からダスナァ!!!!」


『り、了解!!アルファ2、攻撃開始!!』


すぐさま攻撃が始まる。最初に攻撃を仕掛けたのはアルファ2。そこそこやれるやつだなと再認識した。


「グレネードランチャーへHE、着爆弾。照準甘く!!移動したい所へ撃て!!」


ドスンッ


アサルトライフルの下部に取り付けたグレネードランチャーから榴弾が飛び出し地面へぶつかる。すると爆発しその場を抉り取った。


(地雷は無い。そこまでは考えていなかった?相手は何か変な所で未来を見てるような気がする。違う、相手は何処かに情報を集結させてる。そこから指令を受けた上の計画。オブジェクトD7の爆破か。二段構えせず呑気に構えていた所悪いが、少し情報を引き出したくなってきたな。)


「敵の殲滅はやめだ。捕らえろ」


そうして銃撃を受けそうになった箇所へ近付いたその時気が付いた。地雷を敷設のだと。


アラート。レーダー照準。見る暇もなく回避を選択した。それが幸いし、ミサイルを避けたようだ。


『て、敵歩兵部隊確認!!方位されています!!』


地雷を敷設しない事での警戒を弱め、中心部に敵部隊を掻き集めてからの二度目の攻撃。歩兵を出した所を見るに最後の砦のようなものだろうが、上手く嵌ってしまったということか……


『し、しま――』


一人がミサイルを感知できず死んだ。奇襲攻撃に避けきれたのは3機。全員修羅場を潜った素人ばかりか。


「チャフ展開。フレア投擲後KARAKUSA起動。ここを離脱する」


チャフを展開し、フレアを上空に投擲。KARAKUSAという光学迷彩を起動させ離脱を開始した。


敵部隊の真上を跳躍して範囲外へ逃げ切った。


「クソ!!あの野郎避けずに見たな。最悪の死に方だ……死神を見て死ぬなんて……クソ!!クソッタレガ!!」


正直あの野郎、この部隊に配属されたばかりだったからよく面倒を見ていたやつだ。この日の戦場が初戦だった。


だが、仕方が無い。これが戦場だ。ブルジョア共の快楽の為にこうやって命が散っていく。そんな賭け事なんだ。

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航空機1機で戦艦やれるなら苦労しねぇわクソ!! デルタイオン @min-0042

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