第三話 模試、やろう!!

 二人が予備校に入った次の日。俺はトーダイで魔法学の講義を受けていた。あのキーゼルとかいう嫌なオッサンにまたお小言を言われながら、どうにか乗り切った。すべての講義が終わると俺は荷物をまとめ、予備校へと向かった。


「二人とも、お待たせ!!」


「待ってましたよ、せんせー!!」


「あの、こんにちは……」


 教室に入ると、二人が出迎えてくれた。俺は早速、鞄から冊子を取り出して二人に手渡した。


「せんせー、何すかこれ?」


「トーダイの入試問題をもとに作った模擬試験だ。お前たちに今からこれを解いてもらう」


「「ええっ!?」」


「ペンを持ったら、開始!!」


 二人は慌ててペンを持ち、解答を開始した。とりあえず、今の二人とトーダイとの距離を測らなければならない。現時点で何が出来るのか、何が出来ないのか。一年後に合格点を取るには、それを知る必要があったのだ。数時間後、二人が解き終わったのを採点してみたのだが……


リュージ:歴史学・五点 国語学・三十点 測量学・〇点

カモネ:歴史学・三十点 国語学・七十点 測量学・〇点


 ……思ったより酷いが、収穫もある。まず、二人とも国語学で一定の点数を取れていることだ。


「君たち、意外と読み書きが出来るんだな」


「両親が教えてくれたっす」


 なるほど、トーダイに送り出そうと思うくらいなのだからリュージの両親は教育熱心なんだな。戦士の家系にしては珍しいな。


「カモネは?」


「お屋敷の本を、こっそり隠し読みしてたので……」


 どうやらカモネは、住み込みで働いていた屋敷で読書をしていたらしい。体が小さいから、主人に隠れて本を持ち出してもバレなかったのだろう。


 しかし、模試の結果が悪かったのはたしかで、二人は思ったよりも落ち込んでいた。せっかく昨日二人のやる気を引き出したのに、これでは意味がない。


「お前ら、もう諦めたんじゃないだろうな?」


「「えっ??」」


「俺は今の成績を見て、受からないなんてこれっぽっちも思ってないぞ」


「でもせんせー、合格点は六割なんでしょ? 全然足りないじゃないすかー!!」


「わたし、あと五百点取らないといけないの……?」


 またも文句を言いだす二人。ここはひとつ、自信をつけてやらないと。


「お前ら!!」


「「!?」」


「お前らの得意なことは何だ!!」


「オ、オレは気力と体力なら負けないっす……!!」


「私、本を読むことなら負けません……!!」


「じゃあまずはリュージ!! お前にはこれをこなしてもらう」


 俺はそう言って、リュージの前に分厚い紙の束を置いた。


「……? せんせー、何すかこれ?」


「俺が受験生時代にまとめたこの国の歴史だ。広く浅くまとめてあるから、初学にはぴったりだ」


「ええ!? これで基本ってことすか!?」


「そうだ。歴史学は知識さえあれば適当に記述しても部分点が来る。まず知識を集めろ」


「無理っすよこんな量!!」


 嫌がるリュージに、俺はそっと耳打ちした。


「あのな、トーダイに入ればいっぱい女の子が寄ってくるぞ。掲示板にな、結婚の申し込みがいっぱいくるんだぞ……」


「オレ、勉強します!!!」


 無駄に素直で助かった。ちなみに今のは嘘だ、俺がトーダイでそんないい思いをしたことは一度もない。とほほ。


「次にカモネ、お前だ」


「は、はい……」


「お前は本を読んでいたようだから、コイツと違って知識はある。だが点数に結びついていない」


「そ、そうですね……」


「ついてこい」


 俺は教室の奥にある部屋に彼女を連れて行った。そこには大量の本が詰まった本棚と、小さな机が置いてある。


「わあ、本がいっぱい……!」


「そうだ、数千冊はある。古本屋を駆け回って集めたものだ」


「すごい、でもどうするんですか……?」


 俺は大量の白い紙をどんと机に置いた。


「え、これ何も書かれてないですよ……?」


「そうだ、カモネ。お前は毎日ここにある本を読んで、その紙に内容を要約しろ」


「え?」


「そこにある本、全部だ」


「ええっ!?こんなにたくさん!?」


「そうだ、お前に足りないのは文章を書く力だ。知識を論述する力がつけば、自ずと点数は上がる」


「でも、こんなには……」


 カモネもなんだか嫌がり始めた。


「カモネ、もっと本が読みたくないか?」


「ええ、まあ」


「トーダイに行けば、附属図書館が使い放題だぞ」


「え?」


「こんな本棚なんかめじゃないくらい本がたくさんだ。文学、哲学、歴史、科学。読み放題だ」


「そ、それはいいかも……」


「だったら、頑張って勉強しないとな」


「は、はい!!」


 二人の動機に合わせて、やる気を出させる。簡単なようで難しいが、やる気は無いよりあった方がいい。とにかく、まずは二人に手を動かしてもらわないとな。


 そんなこんなで、二人の受験勉強が始まった。強引というか荒業というか、まともとは呼べないような勉強方法だが、一年で受からせようと思ったらやむを得ない。頑張れ、リュージにカモネ……!!

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異世界予備校 獣人と戦士はトーダイに行け!! 古野ジョン @johnfuruno

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