第二話 トーダイ受けるぞ!!
予備校を設立することを決意してから、俺はずっと準備してきた。資金を集め、空き家を探し、トーダイ志望の獣人や戦士がいないか探し回った。学業と両立しながらだったから思うように進まず、準備には一年もかかってしまった。
そして、トーダイの三年生になった春。ようやく予備校の体裁を整えた俺は、二人の生徒を迎えることになった。その生徒というのは――
「ちゃーす!!」
「あの、お願いします……」
戦士のリュージと、獣人のカモネだった。
リュージはおちゃらけた男の子だ。「トーダイ行ったらモテモテって聞いたっす!!」とのこと。動機はともかく、やる気はありそうだな。こう見えて有名な戦士の家系らしく、両親が箔をつけてやりたいとの思いで送り出してきたそうだ。
カモネは犬と合わさったタイプの獣人で、控えめな女の子だ。「私でも、トーダイに入れるんですか……?」といった感じで、リュージと違ってかなり不安がっている様子だ。彼女は貧困家庭の出身で、両親は魔族の家に住み込みで働いているそうだ。貧困を脱すべく、一縷の望みをかけて親戚中から金を集めて俺の予備校に送り込んだそうだ。
「二人とも、よくぞ俺の予備校に来てくれた。これから一年かけて、君たちをトーダイに合格させてみせよう」
「でもせんせー、トーダイってすげ~難しいんでしょ?」
「小さい頃から勉強してないと、とても無理だって聞きました……」
二人は口々にそう言った。たしかに、トーダイに入るのは難しい。毎年多くの若者が受験するが、受かるのは数割程度だ。
「君たちの言う通りだ。たしかにトーダイってのは難しい」
「じゃあ一年で受かるわけないじゃないすかー!!」
「そんなの、無理に決まってます……」
ブーブーと文句を言う二人に対し、俺は首を横に振った。
「それは違う。一年でトーダイに受かった人間が君らの目の前にいるぞ!」
「「えっ!!??」」
「いいか、トーダイってのは簡単に入れるんだ!!!」
***
このジュケン帝国に転生してすぐ、トーダイという存在を知った。どうやら筆記試験さえ突破すれば入学できるらしいという噂を聞き、俺は目指すことにしたのだった。とりあえず入学試験の過去問を手に入れ、見てみたのだが――
「いけるぞ、これ……!!」
俺は合格を確信した。トーダイの入試科目は、歴史学、国語学、測量学だ。それぞれ配点は三百点、三百点、四百点で合計は千点。合格点は六割ほどだ。
転生したばかりの俺にとって、この帝国の言語や歴史は全く分からなかった。当然、そのままでは入試を突破することは出来ない。が、俺は「測量学」の配点が高いことに目をつけた。
歴史学はどうやら一つの話題について千字で論述させる形式らしい。歴史は全く分からないから、広く浅く勉強しておいて部分点を稼ぐ戦略でいくことにした。
国語学も同様だ。過去の文学作品から抜粋したのを読まされて、それについて論述する形式のようだ。最低限の文法知識しか知らない俺にとってこの科目はキツイ。単語だけでも必死に覚えて、数十点だけでも部分点をもぎ取ることにした。
そして測量学だ。トーダイの入試においてこれが最難関科目とされているらしいが、過去問を見て俺は驚いた。なんと、前世界の高校数学レベルの問題しかないじゃないか!しかも基本問題ばかり!!測量学というわけで三角比の問題が多いが、日本の大学受験を突破したものなら満点を取るのも難しくない。これは得点源になる。
ってなわけで、俺は歴史学が百五十点、国語学が三十点、測量学が四百点満点の合計五百八十点で入試を突破した。どうやら合格最低点に近かったらしいが、受かってしまえばこっちのもんってわけだ。
***
俺は自分がトーダイに受かった経緯を説明した。二人は真剣に聞き入っていたが、聞き終わると顔つきが変わっていた。
「トーダイって、そんなんで受かっちゃうんすか!!」
「なんか、意外といけそうに思えてきたかも……!!」
今の二人にとって、まずトーダイ入試に対する恐れを消すことが重要だ。ビビっていては受かるものも受からない。
「そうだろ、そうだろ!? お前らがトーダイに受かるのだって、難しくないんだ!!」
「「はい!!」」
「お前ら、トーダイに行きたいか!?」
「「行きたいです!!!」」
「よし、それなら作戦会議だ!! お前らに合わせた受験戦略を練ってやろうじゃないか!!」
「「はい!!!」」
こうして、俺と二人の予備校生活が始まろうとしていた。空き家の一階を教室に改造し、二階の部屋は二人の寮代わりに使っている。豪華とはいえないような設備だが、これだけあれば十分だ。
待ってろよ魔族ども、お前らの思うようにはならんからな……!!
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