第97話 イベントクエストの後日談
素肌の上にジャージを着て外を歩くことにだいぶ慣れてきたかなー。なんてことを考えながら私は家に帰ってきた。
ジャージを脱いで素肌を晒す。ああ、開放感……。ショーツもポイッと脱いでしばらく開放感にひたる。
少ししたらお風呂が沸いた音が聞こえてきたから、私は着替えを用意してお風呂に入った。
「あー、シャワーが気持ちいいー」
戦ったあとのシャワーは爽快感抜群だよ。鼻歌を口ずさみながら私はお肌を隅々まで丁寧に洗った。
あー、そういえば、私はスタイルを姫華さんに褒められたっけと思い出す。
「う~む……、鏡を見ても何も自覚はわかないな……」
なんていうかこう、きみはいったい色気をどこに忘れてきちゃったのって心配したくなるようなスタイルだと思う。比較対象が姫華さんのスタイルだからいけないんだろうか。
姫華さんはもっとこう乳房のアピール感がとんでもなくて……。女の私でも目を奪われる感じだったんだよね。
「いつかなってみたい。あんなスタイルに」
なぜか倒置法っぽく言ってしまった。まあいいか。姫華さんの裸体を思い出しながら髪を丁寧に洗った。
湯船に入ってからは、しばらく何も考えずにぼんやりする。
「ふへ~……。脱力感、最高~……」
うちのお風呂がもっと大きければいいのになー。なんて贅沢かー。
いつかポーションを売ったお金で大きなお風呂がある素敵な家を建てられたらいいな。大人になってもダンジョン通いを続けていたら、そのうち買えるかなー。
「あといつかでいいから、姫華さんと一緒にお風呂に入りたいー」
一緒にダンジョンでかいた汗を流すんだ。きっと素敵な時間になるよねって思った。
もっと姫華さんと仲良くなれたら。いつか――。
私はスマホを手に取った。今日戦ったデッドアドベンチャラーの情報でも調べてみようか。
「ふむふむ……。なになに……。デッドアドベンチャラーはイベントクエスト限定のモンスターだ。元々は幽霊みたいに浮遊して徘徊するだけの弱い骨モンスターだが、死んだ冒険者の武器防具を拾うと大幅にパワーアップすると報告があがっている」
元々は弱いんだ。倒すのに苦労したなぁ……。
「さらに調査班によると、デッドアドベンチャラーは武器防具を所有していた冒険者の記憶を読み取っているそうだ。そのためか戦い方や人格が死んだ冒険者とうり二つになっていることが多いという調査結果が出ている」
凄く戦い慣れしてたよね。立ち回りがやばいなんてものじゃなかったよ。
もう少し詳しく見てみると、そもそもダンジョンって夜になると亡霊系のモンスターがちらほら出てくるんだそうだ。デッドアドベンチャラーはその亡霊の一種なんだって。中にはガス状のもいるとか。怖いなあ。
「えーと、続きはと……。ふむふむ……、デッドアドベンチャラーは個体によって戦い方が違うため、明確な攻略方法は存在しない」
へえ~、そうなんだ。
「場合によっては、信じられないくらいに戦い慣れしている動きを見せてくる個体もいる。そのため攻略推奨レベルはあまりあてにならない。特にソロの場合は攻略推奨レベルを10以上は必ず超えた状態で挑むべし」
あー、分かる。私が戦ったデッドアドベンチャラーも隙がなくて強かったよね。特に魔法を不意打ち気味に使ってくるのは本当に焦ったよ。
戦いのことを思い出したことで、ひんやりとした感触を思い出してしまった。デッドアドベンチャラーに斬られた感触だ。なんだかイライラしてきた。身体から闘争本能が湧き上がってくる。
うわー、またダンジョンに行きたくなってしまったな。
落ち着け、落ち着くんだ、私――。ここは家のお風呂だ。くつろぐ場所だ。闘争本能を剥き出しにする場所じゃないんだよ。
気持ちを落ち着けて攻略情報の続きを読んでいく。
「上述した理由から、がむしゃらな力押し戦法でデッドアドベンチャラーに挑むのは推奨しない。しっかりと準備をして人数をかけて、個体ごとにじっくりと攻略法を練って時間をかけて戦うのがいい」
うん、私もそう思う。デッドアドベンチャラーは強すぎるもん。攻略を諦めた人が多いって聞いたし、無理はしない方がいいんじゃないかな。
私はスマホを水のついてないところに置いた。そして両手を伸ばして、うーん、と伸びをする。
「デッドアドベンチャラーの魔法、かっこよかったなぁ。私も覚えてみたいな」
あと、爆弾が有効だったし、これからも常時何個かは持ち歩こうと思う。
けっこう良い経験になったイベントクエストだったな。私、このイベントクエストで冒険者としてだいぶ成長できた気がするよ。
△
翌日、眠いばっかりの授業が一段落して、お昼休みの時間になった。
私は教科書とノートを机でとんとんとして、高さを揃えてから机の中にしまった。
「やっほー、千湯咲さーん」
「あ、鳶崎さん」
黒髪ロングで眼鏡が似合う鳶崎さんに話かけてもらえた。私の眠気がどこかに飛んで行ったよ。
「千湯咲さんってさ、昨日のイベントクエストはやったの?」
「うん、やったけど」
「クリアした?」
「どうにかね」
「え、すご」
ぱちぱちぱち、と音は出なかったけど可愛い拍手で祝福してもらえた。
「あれって強いモンスターしか出なかったんでしょ? よく倒せたねー」
「大変だったけど、私は一人じゃなかったから」
「お? ということは白銀先輩と一緒にダンジョンに行けたんだね。おめでとう~!」
ぱちぱちぱちってまた可愛く祝福してくれた。鳶崎さん、良い人だ。
あれ、鳶崎さんが教室の後ろの方に視線を送ったね。そっちの方には私をレッドゾーンに置き去りにしたひどい人たちの席がある。私はあまり見たくなかった。
「あの人たちはクリアできなかったみたいだよ」
「へえー」
苦戦してるのは知ってたけど、あのあとけっきょくクリアできなかったんだ。姫華さんに教えてあげようって思った。
「夜遅くまで粘ったあげく、クリアできなかったんだって。それで精根尽き果てたとかなんとか――。だからみんな今日休んでるんだって」
「え、お休みだったんだ」
私は後ろを振り返った。たしかに席には誰もいなかった。そういえば今日、一回も声を聞いてないなって思った。
……でも、本当にただのお休みだろうか。昨日、生徒会長経由で暴力問題が学校に報告されて、謹慎とかになったんじゃないかな。でも友人には謹慎って言うのが恥ずかしくて、イベントクエストを攻略できなかったんだってことを言い訳にしちゃったとか。その線が濃厚かなー。
「まあ、なんでもいいか」
「ええ~……、千湯咲さん、もう少しクラスメイトに興味を持とうよ」
そうは言われても嫌いな人たちだからなー。名前も覚えたくないし。
「私は鳶崎さんが仲良くしてくれれば、それだけでじゅうぶん幸せだから」
「へ――? あ……うあ……えと……その……、わ、私も千湯咲さんと仲良くできて幸せだよっ」
あ、あれれ……? 鳶崎さんの顔が真っ赤になっているぞ。告白か何かと受け止められてしまったんだろうか。
それでもまあいいか。鳶崎さんは嬉しそうだし。
あ、鳶崎さんのお友達が教室に来てしまった。
「あ、ごめんね。私、お昼に行くから。また話そうね」
「うん。私もお昼にするよ」
今日はまだパンを買えてない。だいぶ遅くなってしまったけど、美味しそうなのを買えるといいなって思う。
あれ、私のスマホが珍しく振動したんだけど。
何かと思えば、姫華さんが『ダンジョンに行ってくるでござる』ってメッセージを送ってくれていた。あと、剣を持ってるうさぎのスタンプを貼ってくれた。
私は『うらやまー』って返しておいた。その返事はしばらく帰ってこなかった。ダンジョンに入ったら電波は届かないからね。
私もそのうち、お昼にダンジョンに行くくらいにダンジョンを好きになる日が来るんだろうか。そうなれたらいいなって思いながら教室を出た。
さあ、放課後にダンジョン攻略をめいっぱい楽しむために、いっぱいエネルギーを補給するぞー。
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ここまで読んでくださってありがとうございますー!
第2シリーズまで無事に書ききることができました。お楽しみ頂けていたらとても幸いでございます。
続きについてですがストックがほぼ無くなってしまったため、きりのいいここでいったん連載はお休みにしようと思います。
ここから紗雪が主人公らしくぐんぐん成長していく予定ですが、あんまりムキムキにならず花の女子高生らしく頑張って欲しいですね。
それにしても、ああ、カクヨムコンの結果が気になる……。
それでは、また会う日まで~ノシ
女子高生のダンジョンライフ ~ポーション作りはとっても楽しいです~ 天坂つばさ @Tsubasa_Amasaka
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