第96話 キャットファイトの終止符を打つ者

 あれ、誰かがギャラリーの中から出てきたよ。ショートカットの女子生徒だ。どう見ても私よりも年上の人だと思う。


 ……っ。うわ、ちょっとゾッとした。あの人、めちゃくちゃ強いと思う。私はかなり警戒した目で見てしまった。自然と間合いをとってしまう。

 その女子生徒は私と目が合うとかっこいいスマイルをくれた。そして、姫華さんに近づいて、姫華さんの肩に手を置く。


「白銀ちゃん、そろそろこのへんでいいんじゃないかな?」

「え? まだぜんぜん満足してな――」


 あ、姫華さんが絶句していた。声をかけてきた女子生徒を見て、あからさまな感じにイヤな人に会っちゃったな~感を出している。


「げげげっ、生徒会長!」


 あ、そうか生徒会長さんだ。そういえば入学式のときに登壇していたのをなんとなく思い出した。


「いやー、ずっと見ていたよ。ずいぶん派手に暴れてたね」

「ど、どこから見ていたんですか……?」

 と聞きながら、姫華さんは電気あんまをやめない。


「ぎゃああああああああああああっ。も、もう解放して。お願い。お願いします。本当に、本当にゆるくなってるから。なんか本当に漏れそうだから! トイレに行かせてええええええええええっ!」


 魔法使い女子の悲鳴には生徒会長は耳を貸さないようだ。


「一番最初から見ていたよ。ということで、あとはこのボクに任せてくれないかな。きみとそちらの一年生ちゃんの悪いようには決してしないからさ」

「いえ、せめてこの子が何かを漏らすまでやらせてもらっても――」


「やめてくださいっ。人として何かが終わっちゃうと思うんで、それだけは勘弁してくださいいいいいいいいっ」

「彼女もそう言ってることだし。ね?」


「はあ……。何かが終わるところを見てみたかったのに。まあ、残念だけど続きはまた今度かな。今度またやらせてね?」

「この鬼畜年増女めえええええええええええええっ!」


「続けて欲しいってこと?」

「あああああああっ! 嘘です。あなたは天使様です。よっ、大天使。世界一の美女!」

「しょうがないなーもうー」


 姫華さんが魔法使い女子を解放した。


「や、やっと解放された……。あっ、やば! 気を抜くんじゃなかった――」


 魔法使い女子は大慌てでぺたん座りをして、スカートを伸ばすようにして股間のあたりを隠した。はたして何かを漏らしてしまったんだろうか、それともギリギリのところでセーフだったんだろうか。私、すっごく気になります。

 姫華さんがすっきりした表情で私に手を振った。


「じゃあ、紗雪ちゃん、私たちは帰ろっか」

「はい。生徒会長さん、あとはよろしくお願いします」

 生徒会長さんは「任せて」とはっきりと言ってくれた。

「さて――」


 生徒会長さんが強者のオーラを爆発させるようにしながら、私の嫌いな女子たちに近づいて行く。鋭い目つきで四人を殺すような感じに見下ろしている。


「最初からずっと見ていたよ。きみたち、物をたかって暴力を振るうなんて人として論外だと思わないか。この件は教師と相談して、しっかりと罰を与えさせてもらうからね」


 四人ともゾッとしていた。


「さあ、四人とも、せいぜい誠実な態度をとることだね。もう気がついてると思うけど、ボクは白銀ちゃんよりもずっと強いよ。少しでもボクに舐めた態度をとったら容赦しないからね――」


 私は生徒会長さんたちに背を向けた。出口に身体を向ける。

 誰かが重傷を負う前に止めてくれる人がいて良かったよ。これであの嫌いな人たちが少しは更生されるといいな。


 ギャラリーたちが満足した様子を見せている。

 いいものを見れたわーって感じの会話をしてるね。解散モードになり始めた。ダンジョンフォークの屋台でお酒を買って、今の戦いをみんなで語り合おうぜみたいな人たちがいるね。なんだか楽しそうだ。


 そんなギャラリーたちの中で一人、まるで恋する少女みたいにキラッキラな瞳で私に熱い視線を送ってくれる女の子がいた。制服を着ているからどこかの学生さんだと思う。

 私と目が合うと、その子は凄く嬉しそうにしていた。


「あ、あの! すっごくすっごくかっこよかったです! 私が知ってる人の中であなたが一番かっこよかったですよっ」

「え……。あ、ありがとうございます」


 よく分からないけど、愛想笑いを返しておいた。


「お? 紗雪ちゃんのファンかな。紗雪ちゃん、手を振ってあげようよ」

 姫華さんが私の手首を持ってパタパタ手を振らせてしまった。

「ああああっ、姫華さんっ、これは私のキャラと違うと思いますっ」

「えー? そんなことないよー。ほらほらー、あの子、昇天しそうなほど喜んじゃってるしー」


 学生さんは天国に上ってしまそうなほどの幸せな表情で、私の一億倍かわいい感じに両手を振り返してくれた。


「か、かわいい」

「本当に、本当に一番かっこよかったです!」


 学生さんは両手を揃えてぺこりとお辞儀をした。そして嬉しそうに広場の奥へと走って行ってしまった。走り方まで可愛い女の子だったな。

 あらら、照れちゃったかなー、と姫華さんが言う。私は後ろの姫華さんを振り返った。


「姫華さん、私の戦う姿ってそんなにかっこよく見えたんでしょうか……」

「私から見てもかっこよかったよー。可愛くて強い女の子って最強に魅力的だと思うよっ」


 そ、そうなんだ。嬉しいな。

 姫華さんにそう言ってもらえたことが嬉しいし、さっきの学生さんに褒めてもらえたのも嬉しかった。さっきの学生さん、姫華さんに引けを取らないくらいに目を引く美少女だったからなー。


 姫華さんと出口に向かって歩いて行く。

 歩いていると、さっきはかっこよかったわよとか、嬢ちゃんたちツエーなーとかいろいろと声をかけてもらえた。慣れない感じでくすぐったかったけど、けっこう嬉しかった。

 モンスターを倒したときとはまた違うすっきりした感じがあったよ。



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