第95話 いやー、きみたち口ほどにもなかったねー

 ひたすら赤い髪の女子をボコボコにしちゃってる。

 相手はほっぺが大きく腫れているし鼻血が出ているし口の中も血だらけだ。私、自分が誰かと喧嘩をしているのだけでもびっくりなのに、こんなにも傷つけてしまっていることにも驚いているよ。


 また私のパンチが綺麗に入ってしまった。赤い髪の女子を遠くに殴り飛ばしてしまう。

 もう挑まないで欲しい……。私に勝てないのはじゅうぶん分かっただろうし。

 赤い髪の女子がちょっと苦しそうにむせてるね。


「げ、げほっ、げほっ……」

 あれ、むせながらアイテム空間から何かを取り出したよ。あ、剣だった。

「うがあ! うぎゃあ!」


 もはや日本語を喋る余裕もないのだろうか。怒りと憎しみにまみれた奇声みたいなのを発しながら、剣を私に投擲してきたんだけど……。もはや哀れというかなんというか……。


「ていうか、刃物はいくらなんでも――」

 ……避けたら私の後ろのギャラリーに当たっちゃうじゃない。

「危な過ぎでしょ!」


 私は避けながら剣の柄や鍔をしっかりと両手でつかんだ。そしてつかんだ剣を地面に捨ててしまう。

 げげっ、そうしている間に赤い髪の女子が私との距離を詰めていた。凄く低い姿勢で野生の獣みたいに素早く走り込んでくる。


「死ねえええええっ、ザコ女ああああああっ!」

「うわわわわっ!」


 ちょっとびっくりした。私のお腹に頭から突っ込んできたよ。しっかりお腹に入ってしまったけど、なんか軽かったから踏ん張ることができた。


「死ね! 死ね! 死ね!」


 ぎゃああああああっ。猫みたいにひっかき攻撃をしてくる。こんなのもう喧嘩でもなんでもない。この人、花の女子高生であることを完全に捨ててしまったよ。人間ってそこまで無様になれるものなんだ。


「もうー、そろそろ終わってよ……」


 私は赤い髪の女子の肩を突き飛ばしてから、相手のお腹に深くパンチを入れた。

 さすがにきいたのか、赤い髪の女子は数歩後ずさってから尻餅をついた。そして、息を整えるように「はあっはあっ」と言い出す。あと「うおえっ」って言ってよだれをだらだら流し始めた。


 私の勝ちだろうか。いや、まだか。この結果を良しとしない赤い髪の女子の仲間たちが動き出すようだ。


「ちょっと、無様すぎでしょー。なにやってんだよー。みんなで加勢するよ」

「ったく、面倒だな」

「3人がかりで囲んでボコボコにすんぜー」


 相手は3人か……。さすがにちょっとしんどいかな……。体力的にはいいんだけど、全員をボコボコにすると私のメンタルが凄く疲労してしまいそうだ。


 でも、しっかりと戦わないと私が殴られてしまうからなー。めんどいなー。

 あ、姫華さんが3人の前に立ちはだかってくれた。


「おーっと、ストップだよー。これより先に行くのなら私が相手になるよ」

 3人が一斉にムッとする。


「はあ? 何様のつもりなわけ?」

「つーかさ、あんた3対1で私たちに勝てるとでも思ってるの?」

「その綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしてやるぜ!」


 姫華さんがやれやれと言いたげな態度を見せた。


「あ、そういえば思い出したぞー。きみたちには大きな借りがあったじゃーん。私にモンスターをたくさんけしかけたこと、忘れてないからね。よーし、借りを返すぞー。ボコボコにしてやんよ! さあ、どっからでもかかっておいで!」


 あ、ギャラリーがもの凄く盛り上がった。「やったー! あの美人さんも戦うのね!」「おっぱいでっけー!」「綺麗な人を応援するぞー!」「服がぜんぶ破けた方の負けってルールでお願いします!」「いいぞいいぞ、盛り上がってきたー! 可愛い方、頑張れー!」などなど、いろいろと思い思いに盛り上がっている。


 完全にアウェイなことに私の嫌いな3人はイライラしたようだ。それぞれ大剣とロッドと斧を構えた。そして、ひとりの「いくぞ!」ってかけ声で一斉に攻撃を開始する。


 3人がかりも卑怯だけど、武器ありってもっと卑怯じゃない? 姫華さんは素手で戦うつもりみたいだし。


「姫華さん、私も手伝います」

「あ~、大丈夫大丈夫~。そこで見てて~」


 姫華さんは振り下ろされた大剣をひらりとかわした。そして、まるで舞いでも踊るかのように身体を回転させながら、相手の側頭部に強烈な蹴りをお見舞いした。


「うわああああああああああああっ!」


 大剣を手放して女子が吹っ飛んだ。地面を転がっていく。

 ギャラリーがますます盛り上がりをみせた。美脚だ美脚だと盛り上がってる。


 次に斧を持った女子が攻撃をしかけてきた。

 姫華さんがひらりと斧をかわして、相手の女子のお腹にパンチを深くねじこんでいた。


「ご、ごほっ……」


 相手の女子が力なくその場に崩れていく。斧がからんからんと土に転がっていた。

 最後はロッドからの魔法だった。


「死ねえええええええええええっ!」


 姫華さんの上半身を丸ごと燃やしてしまいそうな炎が飛んできた。やっぱり魔法っていいな。かっこいい。


「んー、まいったな。魔法は反則も反則でしょ。避けたら他の人に当たっちゃうじゃん。……まあ、しょうがないよね。よっこらせと」


 あ、姫華さんが足下に崩れている斧使いの女子の脇を持ち上げた。そして盾代わりにする。斧使いの女子が見るからに真っ青になっていた。大絶叫をあげたところへ魔法が飛び込んでくる。


「ぎゃあああああああああああああああああああっ!」


 うわー、同情はできないけどとても可哀相なことになってる。

 魔法使いの女子が憎々しげな視線で姫華さんを睨みつけた。


「最低! 鬼! おっぱいお化け! 悪魔! おっぱいお化け! 年増女! おばさん! おっぱいお化け!」


 おっぱいにコンプレックスでもある人なんだろうか。3回も言うなんて……。

 姫華さんがイラッとしていた。


「だーれが年増よ。私たちはたった1歳しか違わないでしょーが!」


 叫びつつ、姫華さんはダッシュして渾身の右ストレートを魔法使い女子に入れていた。かなり手加減なしだった。


「痛ーーーーーーーーーーーーーい!」

「あとね、たしかに私はおっぱいお化けだけどさ、人に言われると頭にくるんだよね!」


 姫華さんは地面に倒れた魔法使い女子の両足を持ち上げて、その股間に自分の足の裏を押しつけた。


「ヒッ!」

 そして姫華さんは足の裏で魔法使い女子の股間をぐりぐりし始めた。


「ああーっ、あああーっ! ちょちょちょちょちょっ。私、女の子だから。女の子だからそういうのはちょっと!」

「なーに言ってるのかなー。ダンジョンはジェンダーレスだよ。いやー、残念だったね。ロクでもないことをするとね、こうやって必ず痛い目が返ってくるんだよ。さあ、いっぱい後悔するといいよ。それー、ぐりぐりぐりぐりー」


 で、電気あんま……。女の人もあれをやるんだ。男子たちだけのプレイだと思ってたよ。


「ああああああああああああああああああああっ。公衆の面前でやることかあああああああああああっ。この変態年増女がああああああああああああああああああああああっ!」


 ごめんなさい。笑っちゃいけないけど、ちょっと面白かった。あと、ショーツがピンク色でけっこうきわどい感じで色っぽかったです。

 ギャラリーたちが「おおおおおおおおーっ!」と色めき立つ。男性も女性も喜んでるね。

 姫華さんは嬉しそうだ。


「あっはっはっは。それみたことかー。いやー、きみたち口ほどにもなかったねー。3人がかりでこの程度かー」

「あああああああああっ。ああああああああああっ。あああああああああああああっ!」


「この程度じゃあ、デッドアドベンチャラーの攻略推奨レベル85にすら勝てないぞ」

「うううううううううっ。あばばばばばばばばばっ。ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬっ!」


「これにこりたらもう悪いことはしちゃダメだぞ?」

「うぐぐぐぐぐぐぐぐっ。……けっ、誰が年増女の言うことなんか聞くかよー」

「ほお?」


 姫華さんが電気あんまの威力をあげたようだ。


「うぎゃああああああああああああっ。ストップストップ! お嫁に、お嫁に行けなくなっちゃうから!」

「表情を見るに、けっこう良い感じになってきてるように見えるけど?」

「それ勘違い! 絶対に勘違いだから!」


 しかし、ドMなのかなんなのか、魔法使いの女子はまんざらでもない表情を見せ始めていた。

 って――。横から何か飛んでくる気配がした。見てみたら、ギョッとしてしまった。私の顔に赤い髪の女子の足の裏が迫っていたからだ。これは跳び蹴りだ。


「よそ見とは余裕じゃねーか!」


 反射的にサッと避けた。そして足首をつかむ。そのままぐるぐるっと回って赤い髪の女子を振り回す。

 あ、ちょうど起き上がりそうな大剣女子を見つけた。そこに向かって赤い髪の女子をポイッと投げ捨てた。二人が大激突する。


「「うわあ!」」

「紗雪ちゃん、ナイス~! こっちはもうちょっとかかるみたいー」


 相変わらず電気あんまを続けてる。


「う、嘘でしょ。踏まれすぎて何かが漏れそうなんだけど!」

「あらあら、可哀想にねぇ」

「くっ……。くっ……!」

 魔法使い女子は心の底から悔しそうにしていた。



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