第94話 キャットファイト
赤い髪の女子が上半身を起き上がらせた。視線だけで私を殺せるんじゃないかってくらいに殺意まんまんで睨みつけてくる。
「てっめえー。私は寸止めするつもりだったんだぞ。良い度胸してるじゃねーか!」
怒り爆発って感じで立ち上がって指の関節をポキポキ鳴らした。そしてダッシュして私に襲いかかってくる。
「低レベルザコ女が調子に乗ってんじゃねーぞ。格の違いってやつを見せてやるよ!」
ギャラリーが一斉に盛り上がった。「いいぞー、やれやれー」とか「キャットファイトって初めて見るわー」とか「私は黒髪の子が勝つ方に賭けるわー」とか「酒を飲みながら観戦してぇわ」とか「服をぜんぶ脱がされた方が負けのルールで頼むー」とかそんな感じの盛り上がり方だ。みんなダンジョンに来てるだけあって戦いが大好きっぽいね。
「私が勝ったらポーションをぜんぶ出せよ。買い置きもぜんぶだ。あと迷惑料10万ポンだからな!」
「……喋ってると舌を噛むよ」
ジーッと相手を観察する。
モンスターよりもぜんぜん迫力がない。それに動きが単純で分かりやすい。
私の左のほっぺに右ストレートがくるね。力いっぱいのやつだ。
「ほいっと」
私は華麗に避けて相手のほっぺにパンチを入れた。ゴンッと鈍い音が響く。私のパンチって鈍器か何かだろうか。重たくて力強い感じだった。
「こ、このっ!」
姿勢を低くして私のお腹にパンチを入れて来た。避けようと思ったけど反応が少し遅れてしまった。
「うわわわっ」
びっくりした。お腹にパンチをもらっちゃった。でも、ほとんど痛くなかった。
今のって思い切りやってたよね。あまりにも弱くてなにこれって感じなんだけど。……あー、もしかしてだけど、私たちってけっこうレベル差がある?
私は一歩引いてから勢いをつけて左のこぶしを相手のほっぺにえぐりこんだ。赤い髪の女子はまたけっこう吹っ飛んでいた。
しかし、今度はすぐに立ち上がってまた襲いかかってくる。
「調子に乗りやがって!」
うーん、また右のストレートかー。なんかもうめんどうくさいな。
私は中学のときに体育の授業でやらされた柔道の授業を思い出した。背負い投げって確かこんな感じでできたっけ。
赤い髪の女子の腕と襟のあたりをつかんで、相手の身体を私の腰に乗っけた。そして土に叩きつけるように投げてしまう。
ドシーンと大きな音が響いた。
うおおおおおおおおおおっ、とギャラリーがわいた。あと、赤い髪の女子のショーツが見えたらしい。赤だった赤だったと喜んでるギャラリーがいた。そんな派手な色のを穿いてたんだ。凄いなぁ。
「な、なんで私がこんな……。何か格闘技でもやってたのかよ。じゃないと低レベルザコ女がこんなに強いわけがねーよ」
地面に仰向け状態の赤い髪の女子を見下ろす。
「別に何も習ってない。このダンジョンでずっと一人で、命がけでモンスターと戦ってきただけだよ。……もしかしたらだけど、その鎧が邪魔なんじゃない?」
そんなのを装備して安全に戦ってるから、日頃のモンスターとのバトルに緊張感がカケラもなくて強くなれなかったのかもね。
いつも命がけで戦わないと絶対に強くなんてなれない。しかもこの人って、いつも四人で行動してるんだよね。きっとぬるま湯につかるようなバトルばっかり経験してきたんだと思う。
私みたいにたった一人で命がけの戦いをしてきた人から見たら、この赤い髪の女子は戦いにかける気持ちが甘すぎる。この赤い髪の女子が相手なら百回戦っても百回とも私が勝つと思うよ。
赤い髪の女子が激怒しながら立ち上がった。眼光鋭く私を睨んでいる。
「納得いかねー。絶対に納得いかねーよ。泣くまでお前を殴り続けるからな!」
しかし、鎧は脱ぎ捨てていた。
「こんな重りがあったから動きがトロくなってたって分かったぜ。こっからが本番だからな」
いいぞー、もっとやれー、ヒューヒューとギャラリーがどんどん盛り上がってしまった。
赤い髪の女子が私を指差した。
「いいか、地味な黒髪のザコ女! 私はレベル40もあるんだぞ! 同じ時期にダンジョンに来たやつの中では最強なはずだ! だからお前が私に勝つのは絶対に不可能なんだからな!」
うっわー。私、レベル51だよー。そこをまず勘違いしてたんだ。自分の方がレベルが上だと思ってたんだね。
しかも、私にはクエスト前に食べたダンジョンフォーク料理のステータスアップ効果が残ってる。月夜のナイフの攻撃アップ効果だって加算されてるよ。
そんな私にたかだかレベル40の人じゃあ、絶対に歯が立たないだろうね。
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