第93話 良い度胸じゃねーか!
私と姫華さんで一緒にダンジョンから帰ることになった。
誰かと一緒に帰るって何年ぶりくらいだろうか。少なくとも中学校時代はなかったと思うから小学校以来かなぁ。
幸せな気持ちで露店エリアを出る。そして、ダンジョンの出口へと向かう。
そのときだった。私の幸せな気持ちをぶち壊しにするイヤな声が聞こえてきてしまった。
「あ、クラスメイトみーっけ。なあ、ちょっといいかー。なあおーい。そこの黒髪の暗いやつー」
……きっと私のことだけど無視しよう。名前を呼ばれたわけじゃないし。
「おい。おいってば。なあ、聞けよ。ったく、めんどうくさいな」
うっわー。正面に回り込まれてしまった。赤い髪のクラスメイトだ。西洋風の鎧を上半身に身につけているね。武器は槍。腕には盾が装着されている。すかさず武器防具を確認するあたり、私ってけっこう戦い慣れしてきたのかもしれない。
しかし……、はあ……やれやれだ……。
この赤い髪の女子は、以前レッドゾーンに私を置き去りにしたうちの一人だね。
あー……、私の後ろの方から他の三人も近づいて来ていた。うわあー、イヤだー。めんどうくさいー。
「……ふう。あなたが呼んだ相手って私のことだったの?」
「あからさまにイヤそうにすんなよな。ていうか、聞こえてたのに無視してやがったのかよ。相変わらず性格がワリーな」
「黒髪なんて日本にはいっぱいいるし、私のことだなんて分からないでしょ。それに名前を呼ばれたわけでもないし」
「ワリー。名前はまだ覚えてないんだよ。地味なクラスメイトの名前なんて後回しにするタイプだからさ。ま、夏休みまでには覚えるわ」
はあ……。名前すら覚えられてなかったんだ。
あーでもまあ……、それはお互い様か。この人の名前ってなんだったかなー。いやー、思い出せないなぁ。
まあ名前なんてどうでもいいや。早く会話を終わらせよう。じゃないと幸せな今の気分が台無しだよ。
「で、私に何の用なの? ただ嫌味を言いに来ただけ?」
「まさか。そんな暇人じゃねーよ。ポーションをもらいに来たんだよ。私にくれ。な?」
「はあ?」
まるでくれるのが当然だとでも言いたげに私に手を差し出してきた。
「あなたにあげるわけがない」
そもそも私のポーションはクリエイト中だ。どのみち今はあげられるのがひとつもないんだよね。
「はあ? つまりまた大金をむしりとるってことかよ」
「そんなこと言ってない」
「まあだけどさ、今回は前と違ってレッドゾーンじゃないよな。この広場でのポーションの販売価格が相場になるってわけだ。というわけで、ちょっと色を付けて1000ポンってところでどうだ?」
「売らない」
「……じゃあ、2000ポン」
「売らないってば」
「……5000ポン。これ以上はダメだぞ」
「たとえ100万ポンでも売らないよ。諦めて他の人を頼って」
「はあ? 調子に乗ってんのか? 地味なザコキャラのくせにさ!」
赤い髪の女子が激怒している。そんな親の仇みたいに睨みつけなくてもいいと思うんだけどな。
って、うわっ、赤い髪の女子が槍を思い切り振りかぶった。これ、絶対に私の首を狙ってる。
いっきに私の闘争本能が高まった。
殺らなきゃ絶対に殺られる。このダンジョンで私がイヤというほど学んできた弱肉強食という自然の摂理で頭がいっぱいになった。
「私が欲しいって言ったんだからザコキャラは素直に出すものを出せよな。それが弱肉強食のダンジョンってもんだろうが!」
槍の穂先が私の首に迫ってくる。
私は反射的に最低限の動きでその槍をかわした。そして槍の柄をつかんで引っ張り、赤い髪の女子との間合いを一気につめた。
私の右手のこぶしが赤い髪の女子にめりこんでいく。
あ、ついグーで殴っちゃった。やば……って思ったけど、よく考えなくてもこぶしを引っ込める理由が特に思いつかなかった。まあいいや、このままこぶしを振り切っちゃえ。
「ぐぎゃああああああああああああああああああああっ!」
うわ、変な声を出しながら赤い髪の女子が吹っ飛んでいったよ。どれくらい飛んだかな。3メートル以上は余裕で飛んだと思う。4、5メートルくらいかな。
私のパンチってこんなに強かったんだ……。ちょっと前までおとなしい女の子だったからびっくりなんてものじゃなかった。
赤い髪の女子の槍は私の手に残ってる。
簡単に武器を手放すものじゃないんだけどな……。まあいいか。指導する必要もないし。あんな人の槍なんていらないからポイッて遠くに投げて捨てておいた。槍投げの選手になれそうなくらい遠くに飛んだよ。ダンジョンの壁の方まで転がっていった。
「きゃ~っ。紗雪ちゃんかっこいいぞ~!」
姫華さんに可愛い声で褒めてもらえた。
ていうか、あれー? なんだかギャラリーができてるぞ。大人も学生さんも女子も男子もたくさんいらっしゃる。
そしてギャラリーの人たちは口々に感想を述べていた。「今のすげー良いストレートだったなー」とか「おとなしそうなのに凄い闘志だったわねー」とか「俺は一番おっぱいの大きいねーちゃんが好みだ」とか。あれ、最後のは姫華さんのことだし、ただのセクハラ発言か。
ざわざわし始めたので、周囲の人たちが興味を持ってしまった。続々と人が集まってくる。
なんだか大ごとになってきたかもしれないな……。
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