第92話 お二人の相性が良いんだと思います
私と姫華さんはデッドアドベンチャラーが使っていた武器と防具を拾い上げた。
「紗雪ちゃん、別のエリアに移動しよっか」
「ここじゃダメなんですか?」
「ここは私たちの思い出の場所だし。炎の魔法でお花畑がちょっとね……」
あ、なるほど。お花畑の大半が焼け焦げてしまっている。
「たしかにここはあまり良くないかもですね」
私たちは花が綺麗にたくさん咲いているエリアへと移動した。
そして端っこの方に行って、私の持っているスコップで地面を掘った。
地面に開けた穴に私たちは防具を置いた。そして上から土をかぶせる。最後に剣を二つ、上から刺した。即席だけどお墓の完成だ。
私たちが戦ったのはモンスターだけど、武器とか防具はどこかの冒険者さんが本当に使っていた物だから――。だから静かで綺麗なところに埋めてあげようって姫華さんと決めたんだよね。
二人でお墓の前で祈りを捧げる。私よりも姫華さんの方がだいぶ長い時間お祈りをしていた。
姫華さんがすっきりした表情で顔を上げた。
「よし、お墓づくりはおしまいっ。こんなにやってあげたんだから静かに眠れるでしょ」
「とても良いことをしたと思いますよ。姫華さんって凄く良い人です」
「えー、そんなことないよ。化けて出られたら超イヤだから、仕方なくやってあげただけだもん」
いやー、私だったらお墓は作ってあげる発想は出なかったよ。姫華さんは本当に優しい人だと思う。
こんなにも優しい姫華さんに祈ってもらえたんだし、ダンジョンで死んでしまった名前も知らない冒険者さんはきっと成仏できるんじゃないかな。
姫華さんが振り返る。私も振り返った。お花畑には巨大なカタツムリのモンスターとかが来ていた。
「紗雪ちゃん、帰ろっか」
「はいっ」
△
スライムを倒したり薬草を引っこ抜いたりしながら、私たちは広場へと帰ってきた。
まずはマルタさんのお店に行って服の修繕をお願いした。今回はダメになった服が多いからけっこうな出費になってしまったよ。とほほ……。
そろそろダンジョン用の服や防具でも検討しようかな。可愛くて動きやすくて、もしも修繕することになってもそんなにお金のかからないのってあるんだろうか。真剣に探してみようかな。
でも、ダンジョンって着替えるところがないからなー。学校で着替えたくても場所がないし。学校はそもそもダンジョンに行くのは禁止してるからね。不良な人たちは平気で更衣室で着替えたりしてるけど、私は不良じゃないからなー。
姫華さんやリルリルさんと今度じっくりと相談して――。
「あーもう!」
ひゃあ! びっくりした。女子が喧嘩を始めたような怖くて大きな声が近くから聞こえてきたよ。
いったい誰だろうと思ったら、私をレッドゾーンに置き去りにしたイヤな人たちだった。
「ちょっとー。怒るなよー。ただでさえみんなイライラしてるんだしー」
「うっせーな。しょうがないだろ。だって95レベルだぞ、95レベル。なんで一番強いのが当たるんだよ」
「そんなの言ってもしょうがないじゃんー。冷静さを欠いたら負けだぞー」
「んなこと言われてもさー」
「とっとと装備とアイテムを整えようよ。私たちならもう一回チャレンジすればやれるよ」
「そうそう。期限は今日中。まだまだチャンスはある」
「なんか勝てる気がまったくしないんだよなー……」
「勝てる勝てる。ただ、ポーションが品切れになってないといいけど――」
「それは大丈夫じゃね? もしも売ってなかったら、そこらへんにいる同級生にでも譲ってもらうだけだし。みんな喜んで協力してくれると思うぞ。なにせ私たちは学校の人気者だからな」
私には気がつかずにどこかの露店へと歩いて行った。なじみのところだろうか。とりあえずポーションを揃える感じかな。……人気者っていったい誰のことを言っていたんだろうね。あそこまで自惚れられるのは才能だよ。私は絶対にポーションをあげないぞと心に強く決めた。
あの人たちの会話から察するに、きっとデッドアドベンチャラーに負けたんだろうね。デッドアドベンチャラーの攻略推奨レベルは65~95のランダムだ。それの一番高いところに当たってしまったのなら、そりゃあ苦戦するだろうしイライラもするよね。
私はなんとなく姫華さんを見た。
姫華さんが勝ち誇った表情になっている。あの人たちの会話をしっかりと聞いていたみたいだ。
私たちは二人でにやけ始めた。
「むふふー、紗雪ちゃん、やったじゃない。これは私たちの完全勝利だよっ」
「えへへー、なんかそうみたいですね」
「ざまーみろって感じだよね」
「日頃の行いってやつですね」
「うんうん、日頃の行いが悪いと、こういうところでしんどい思いをすることになるんだよね」
二人でニコニコして歩いて行く。そのニコニコな表情のまま、リルリルさんの露店にやって来た。
「紗雪さん、先輩さん、お帰りなさいー。あれー、お二人ともすっごく良い笑顔ですねっ」
私は少し前のめり気味になった。そして笑顔を見せる。
「はいっ、リルリルさんのおかげでデッドアドベンチャラーに勝てましたよっ」
「おおっ、それは良かったです。さすが紗雪さんと先輩さんですね。私がここで見聞きした情報によると、デッドアドベンチャラーに勝てずに帰ってくる冒険者の方がけっこう多いようでして……。とても心配していたんですよ。しかも、勝てなかった方たちは諦める選択をすることが多いようで……」
「え、諦めてしまうんですか? 報酬が良いのにもったいないと思いますけど」
「きっと報酬に目がくらんでしまって、無理してクエストを受注してしまったんだと思います。格上と戦って平気で勝って帰ってくるのって紗雪さんくらいのものですよ」
「へえー。私ってけっこう頑張ってる方だったんですね。でも、姫華さんも格上に勝っちゃうタイプですよ」
「つまり、お二人は相性バッチリってことですね」
私もそう思う。デッドアドベンチャラーを倒せたのだって二人で頑張ったからだし。
「どうでしょう。これからしばらく二人でタッグを組んで行動してみるのは。私から見ますと、お二人はとても良い相棒になりそうですよ」
姫華さんの反応が早かった。
「私、賛成~。命の恩があるのもあるし、私は紗雪ちゃんについていく覚悟はできてるよ」
「え、え、ありがとうございます。私は姫華さんが良いのなら何も異論はないです」
「じゃあ、紗雪ちゃんと私でタッグ結成だね~」
「ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」
私は手を揃えて丁寧にお辞儀をした。
「紗雪ちゃん、ちゃんとしてるなー。私のところにお嫁に来るのかと思っちゃったよ」
実際、そんな気分かもしれない。
「でもね、お嫁さんに行く覚悟なのは私の方だからね。だって紗雪ちゃんは私にとって王子様みたいな人だから。ということで、こちらこそふつつか者ですが何卒よろしくお願い申し上げますね」
リルリルさんが祝福の拍手をくれた。まるで結婚したみたいな気持ちになってしまった。
タッグ……。タッグかー。いいなー、タッグって響きは。私はぼっちだったから人と一緒になるのはずっと下手だったけど、まさかダンジョンでこんなに素敵な人とご一緒できるようになるとは思わなかったよ。短期間だけかもしれないけど、本当によろしくお願いしますって感じだよ。
姫華さんは心から嬉しそうにしてくれている。嬉しすぎたのか私に抱きついてきてくれたよ。ぎゅーっとしてもらえた。
やっぱりダンジョンって良いな。私はますますそう思ったよ。
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