第91話 イベントクエストを達成して

 あああ、指が震える。震えまくる。

 どうやら血を流し過ぎたみたいだ。HPがみるみる減っていく。私のHPはあと7になってしまったよ。


 震える指をどうにか制御して、アイテム空間からポーションの入った瓶を取り出した。


「うわわわっ、落っことしちゃいそう」

「だ、大丈夫? 瓶を持ってあげようか? 私、紗雪ちゃんならいつでも口移しで飲ませてあげるからね」


 姫華さんの唇に視線が誘導されてしまった。

 ぷるるんとしていて、魅惑的で、口紅を塗ったみたいに鮮やかな色合いをしていて……。正直、何度でもあの唇を堪能したいと思ってしまう。


 で、でもダメだ。

 だって、私、まだまだ元気だし。身体中の血が足りなくて青ざめたりしてると思うけど、こんな程度の負傷くらいで姫華さんに甘えるわけにはいかないよ。


「ま、まだ大丈夫です」

「えー、残念ー。私は紗雪ちゃんに口移ししてあげたかったなー」


 私は瓶を両手で持って思い切りよく飲み始めた。顎を上に向けて、ごくごく、ごくごく、勢いよく喉の中にポーションを流し込んでいく。


 ちょっと豪快に飲みすぎただろうか。かなりの量がほっぺや顎を伝って制服や上半身に流れてしまった。私の乳房や胸の谷間、それにお腹やスカート、太ももがどんどん濡れていく。


「ごくっ、ごくっ、ごくっ……」


 あああ~、来た来た来た~。気持ち良い~。最高~。これ以上に美味しい飲み物は世界中のどこにも絶対にないと思うよ。

 心も体もスッキリしていく。活力がどんどんみなぎっていく。生きている喜びを感じる。うわ~、斬られたところが熱い~。こんなの絶対にやめられないよ。


「ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごっくん……」

 いっき飲みだ。ぜんぶ喉に流し込んだ。


「ぷはーっ! 最っ高! 超美味しかった~!」

「いやー、紗雪ちゃん、良い飲みっぷりだったね!」

「これ大好きなんです。姫華さんは飲まないんですか?」


「私、そんなにダメージを受けてないんだよね」

「言われてみると確かに。私ばっかり斬られましたもんね……」

「うん。ごめんね、本当は私が敵を引きつけられればよかったんだけど」


「いえ、弱い方を狙うのは戦いの鉄則ですから。姫華さんの強さはきっとモンスターから見ても明らかだったんですよ」

「いやいや、紗雪ちゃんも強いからね。レベルだけを見たら差があるけどさ。そのレベルだってきっとすぐに私に追いつくと思ってるし」


 レベル差かー……。それは私にとっては大きな悩みかもしれない。

 私はこれからも姫華さんと一緒に冒険をしたいんだよね。となると、なるべく早くレベル差をなくした方がいいと思ってる。ずっと守ってもらうのは申し訳ないし。


 姫華さんがアイテム空間からうさぎのリュックを取り出した。その中から白いタオルを取り出す。


「紗雪ちゃん、拭いてあげるね」

「うわ、すみません」


 改めて自分の状態を見てみる。ひゃ~、お腹が丸見えになっちゃってる。胸の谷間も大胆に見えてしまってるよ。

 私はブレザーとブラウスを広げてブラジャーの状態を確認した。真ん中から真っ二つになってるね。


「上に着てるのはぜんぶ修繕コースだ……。あ、スカートもだった。太ももが丸見えだし。タイツはどうしようかなぁ」


 とりあえず私は上半身に着ているものをぜんぶまとめて脱いだ。私の乳房や背中が完全に外気に晒される。


 ああ……、すーっとする。気持ちがいいー。開放感がたまんなーい。

 姫華さんがちょっとびっくりして目を丸くしていた。


「わ、紗雪ちゃん、大胆」

「別に私の身体なんてどこにも需要がないですし」

「そんなわけないじゃん。超可愛いんだし」


 姫華さんがジロジロと私の乳房を確認する。そんなにじっくり観察されると羞恥心が湧いてきてしまう……。私のなんてぜんぜん良くないと思うんだけどな。


「……紗雪ちゃんって、こんなに着痩せするタイプだったんだ。大きさも形も100点満点だし。桃色が可愛くてすっごくうらやましいなー」


 私って良い感じだったんだ。自分ではよく分からないな。

 姫華さんの視線が胸部から下の方にいく。


「可愛いなぁ。ウエストもちゃんとくびれてるし。ヒップから太もものラインも絵に描いたみたいに綺麗だし。紗雪ちゃん、ちょっと美少女偏差値が高すぎじゃない?」


 褒められ過ぎて恥ずかしくなってしまった。顔が熱い熱い。


「び、美少女偏差値って。私をそんなに褒めてくれるのは姫華さんだけですよ」

「それは絶対にないでしょ。絶対にみんな紗雪ちゃんのことは褒めてくれるよ。だって紗雪ちゃんって本当に可愛いからさ」


 姫華さんが私の身体を優しく拭いてくれる。

 これは凄くどうでもいいことだけど、タオルがとんでもなく柔らかくてびっくりした。姫華さんの家って絶対にお金持ちだなーって思った。

 あと綺麗な女性に身体を拭いてもらえるって贅沢な体験だなって思ったよ。


「はい、終わり。綺麗になったよ」

「姫華さん、ありがとうございます」


 私は一度深呼吸をした。お花畑の花の香りが身体の中に吸い込まれていく。気分爽やかだ。そして私は思わず素直な気持ちを口にしてしまった。


「はあ……、なんだかこのまま冒険したい気分だな……」

「おっぱい丸出しで?」

「いえ、姫華さんの前なのでさすがにブラジャーくらいはつけたいですけど……。いや、それでもダメですね。ちゃんと服を着ないと。私は何を言ってるんでしょうね。あはははは……」

「んーん、大丈夫だよ。私もその気持ちが分かっちゃう人だからさ」


 共感してもらえてしまった。

 姫華さんが私を安心させるようにニカッと笑ってくれた。つられて私も薄い笑顔を返した。


 花の女子高生なのに、なんて危ない会話をしているんだろうか。私たちって、ちょっと野生に帰りすぎかもしれないね。人として大事な一線を越えてしまう前に、そろそろジャージを着ておこうっと。


 アイテム空間からジャージを取り出して、私は素肌の上に着た。ボロボロのスカートとタイツも脱いで下もジャージを穿いたよ。

 なんだか最近、ジャージでいることが多くなった気がするな。上下ジャージ姿で電車に乗って家に帰るのは恥ずかしいんだけど、服はこれしかないから我慢するしかないね。


 姫華さんもジャージを着たようだ。ブレザーが燃えてしまったし、ブラウスもところどころ燃えて穴が開いていたからね。

 これでイベントクエストは終わり。ちょっと寂しいし、何か忘れているような――。


「あ、そうだ。肝心の報酬を確認してなかった」


 しっかりと報酬の2万5千ポンが入っていた。あとアイテム空間には月夜のナイフが入っていたよ。


「月夜のナイフ、ゲットできてる! 所持してるだけで本当に攻撃+20だ」

 姫華さんも確認していた。


「わ、本当だ。これはめちゃ嬉しいね。紗雪ちゃん、やったね! 頑張ったかいがあったね!」

「はいっ、すっごく嬉しいです。しかも、レベルが上がってましたから、スキルポイントが入りました。私、スキルのレベルを上げられますよっ」

「やったじゃん。おめでとう~!」


 私はさっそく〈ポーションクリエイト〉のスキルレベルを上げた。スキルレベル30になったよ。


『ポーションの同時作成個数が4になりました』


「やっっっっっっったああああああああああ! ポーションの同時作成個数が4個になったああああああああああああっ!」


 ガラにもなく人前で大きな声を出して喜んでしまった。

 だって本当に嬉しいことだったから。今までよりももっともっと効率よくポーションを作れるようになったよ。


 姫華さんが拍手して祝福してくれた。そして私と一緒に喜んでくれた。それが本当に何よりも凄く嬉しかった。


 ダンジョンって一人でも楽しいことがいっぱいだけど、二人でいるともっと楽しいことが増える場所なのかもしれないな。

 私はますますダンジョンのことが好きになれそうだった。



ステータス

■レベル51

・体力 150

・攻撃 80(+20)

・防御 81

・敏捷 102

・魔法 46

・技術 136

■スキル

 〈ポーションクリエイト〉 レベル30

 〈逆境時強化〉 レベル10



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