第90話 VSデッドアドベンチャラー 4

 私は姫華さんの背中に隠れさせてもらった。そして、アイテム空間を開いて作戦実行の準備をする。


「紗雪ちゃん、いくよ!」

「はいっ!」


 姫華さんが連続で5本の矢を放った。狙いは主に頭蓋骨みたいだ。

 デッドアドベンチャラーが剣で矢をたたき落とす。しかし、対応しきれずに2本も矢が刺さっていた。右の目と下顎あたりだ。


「あ、意外と入るね」

「姫華さん、凄いです」

「紗雪ちゃん右側から接近してくれる? 私は左側から接近するから」


 はい、と返事をしてすぐに駆け出した。ん~……、上半身から流れ落ちてくる血が太ももを通って膝に当たって、走るときに跳ね飛んでる。新鮮な感覚すぎる……。


「はあっ、はあっ、はあっ……」


 ちょっと息があがってきちゃった。

 少しだけ意識がうっすらした感じがあった。長くはもたないかもしれない。この攻撃がダメだったらポーションを飲まないと。いや、違う。この攻撃で必ずデッドアドベンチャラーを倒すんだ。


 私は気合いを入れ直してデッドアドベンチャラーを睨みつけた。デッドアドベンチャラーが矢を1本引っこ抜いた。しかし、右目の方の矢がまだ刺さってる。

 デッドアドベンチャラーが首を左右に振る。私と姫華さんの位置を確認したみたいだ。


 このままでは片目で戦うことになってしまうと判断したんだろう。矢を抜くための時間を取りたそうだなって感じた。

 なら、時間を稼ぐ必要があるよね。

 デッドアドベンチャラーが剣を地面に突き刺した。


「「来た!」」

「紗雪ちゃん、今だよ!」

「分かってます。この瞬間を待ってました!」


 デッドアドベンチャラーが二本の剣から手を離して魔法を使うこの瞬間をだ。

 今まで戦ってみた感じ、このモンスターが最も大きな隙を見せるのは魔法を使う瞬間だった。それが分かっていたからこそ、この瞬間に最大の攻撃チャンスがあると思ったんだ。


 ただ、距離があるときにしか魔法を使ってくれない関係で、どうしても私たちの武器が届かない。

 じゃあ、どうするかってことだけど――。


「当たってえええええええええええええええっ!」


 私は女の子投げだけど、かなり強いパワーで爆弾を投げつけた。これはこのクエストを始めるときにリルリルさんからもらっていた爆弾だ。

 この爆弾は強く投げつけてどこかに当たると爆発するって聞いている。だから唯一の問題は、私のコントロールでデッドアドベンチャラーに当たるかどうかなんだけど。


「大丈夫だよ、紗雪ちゃん。紗雪ちゃんは技術のステータスが高いからね。だからよっぽどあさっての方向に投げない限りは、投擲のときにかかる命中補正で敵の身体のどこかには当たるはずだよ」


 本当だ。自分の期待よりもかなりまっすぐに爆弾が飛んでいってくれた。しかも、私はパワーがついているからか男子が投げたみたいに速いスピードが出ていた。


 デッドアドベンチャラーがたぶん炎の魔法を使おうとしてると思う。両手をそれぞれ私たちに向けて突き出したからだ。

 その突き出した左手に私が投げつけた爆弾が見事に命中した。


「やった!」


 姫華さんが歓喜の声をあげた瞬間だ。

 ドガンッと全身に重く響き渡るようなイヤな音が鳴り響いた。


 それと同時に強烈な爆風が私の髪とか切られた服を後方になびかせた。私のお腹とか乳房が一瞬だけ露わになってしまった。それにあまりにも爆風が強すぎるせいで、私は前に進めないし呼吸だって少しの間できなかった。


 デッドアドベンチャラーの状態を確認する。左腕が大きく上方に上がり、上半身がほとんどのけぞってしまって天井を見ている状態になっている。


「姫華さん、ここですよ! 最大のチャンスです!」

「紗雪ちゃん! ナイスナイス! 愛してるよー!」


 うひゃー、姫華さんに告白されてしまった。照れてしまうよ。

 二人でデッドアドベンチャラーに急接近する。デッドアドベンチャラーは上半身をどうにか起こした。だけどまだ剣を手に取れたわけじゃない。


 姫華さんが私よりも先にデッドアドベンチャラーとの間合いに入った。ニコニコしてるね。


「あははっ、残念だったね! もうきみに勝ち目はないよ!」


 姫華さんが剣を両手持ちして強く振り切った。デッドアドベンチャラーの右腕を切り飛ばす。

 一瞬だけ遅れて私がデッドアドベンチャラーの間合いに入って行く。そして、お腹にギュッと力を入れてハンマーを振りかぶった。


「さっきの凄く痛かったんだからね! これはそのお返しだから!」

 私はデッドアドベンチャラーの頭蓋骨を思い切り叩きつけた。

「ウゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 あれ? 思ったよりも強く力が入ったんだけど。あー、たぶん〈逆境時強化〉が発動したんだ。走ってる間に血がいっぱい流れて私のHPが急激に減ったんだね。

 でもそのおかげでデッドアドベンチャラーが3メートルくらい吹っ飛んでいったよ。よく見てみれば頭蓋骨がヒビだらけでかなり陥没していた。


「ひゅ~! 紗雪ちゃん、凄いパワーだね!」


 しかし、デッドアドベンチャラーはまだ死んでない。尻餅をついたけど、またすぐに手をついて立ち上がろうとしていた。

 姫華さんが駆け込んで剣を美しく振った。


「さあ、これがとどめだよっ!」


 デッドアドベンチャラーの首がポーンと空中を舞った。

 ふう……。これで勝ったかな。

 と思ったけどまだだった。地面を転がったはずの頭蓋骨がふよ~っと浮かび上がって身体に戻ろうとしている。


「「やだっ。超しぶといっ」」

 亡霊モンスターってこんなにしぶといんだ。耐久力が凄いね。


「紗雪ちゃん、とことんやろう!」

「はいっ。このっ、このっ、このっ!」

「えいっ、えいっ、とおっ! 早く死んじゃえ死んじゃえ!」


 二人でデッドアドベンチャラーの骨に容赦なく攻撃をかけまくった。私は超思いっきり7、8回はハンマーを振り下ろしたかな。黒い骨を何本も砕いたよ。そして――。


『デッドアドベンチャラーを討伐しました』


 ようやくシステムメッセージが表示された。私は安堵した。

 デッドアドベンチャラーの真っ黒な骨が朽ちて消えて行く。あとには防具と武器だけが残った。


 ふう~……。私は思いきり脱力した。

 そして、嬉しさがこみあげてきて姫華さんに笑顔を向けた。姫華さんも私と同じ表情を見せていた。

 自然と二人でジャンプして肩の上あたりで両手ハイタッチをした。


「「大勝利~!」」


 って、あああ~っ! うぎゃ~っ!

 けっこう無茶な動きをしてしまったみたいだ。傷口が開いちゃったし、ドロッと熱い血液がダバダバ流れ出てしまった。


「あいたたたたたたたたたたたたたっ。え~ん、今のは我慢できないくらい痛かったです~。って、うわ、私、HPがあと9しか残ってません」

「ギリギリじゃん。紗雪ちゃん、早く回復回復」

「はい、すぐに回復しますけど……。でも、なんだか気持ちがいいです。勝てて本当に嬉しかったですよ」


「うん。私も嬉しすぎて全身が超気持ちいい~って感じ。やっぱり私たちってなんだか似てるよねっ」

「はいっ、私もそう思いますっ」


 私、自分でもびっくりするくらいに明るい笑顔を作れていた。



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