蒼星

笹乃秋亜

蒼星

 突如、現れた第三惑星キミは、空の主導権を掻攫って蒼白く瞬いた!


 ——風鳴り。開け放たれた教室の窓にカーテンの裾が翻って、斜陽の映る夏空は急速に青冷めていった。赫々たる太陽は西に大きく傾いで、地平線に爆ぜた。紫煙が靡いて、空は赤く烟っている。高温の大気圏内では、淡い月のかげはあっという間に蒸発してしまって。半球の硝子細工は今、その光沢を剥がされて、ひび割れた裏側に深海が透けていた。滴る雨は僕の頬を濡らして、夜が伝い落ちていった。

 ああ、「空」は真に虚像だったのだ! 

 乾いた声が零れた。瓦解する青、壊れた硝子の破片が宙に散って、乱反射する夕焼け。海の香りが鼻先を掠めた。幻想は爆ぜた。太陽も月も、全てはこの星が見せた幻に過ぎなかったのだ。ガランと開けた虚空は酷く澄み渡って見えて、並々と深淵を湛え、ついに何も映さなかった。ただ、蒼白い第三惑星キミだけが、鮮烈な静けさで佇んでいた。じっとりと、首筋に汗が滲む。呼吸が上擦って、腹膜が俄かに痙攣している。開いた瞳孔、張り詰めた水膜の端から止めどなく、夜が溢れ出して、止まらない。目の奥が熱い。ぐつぐつ煮立つような音が鼓膜にくぐもって、明滅する視界の中で第三惑星キミの蒼白い光だけが、確かにそこに君臨していた。薄氷のような表皮の、厚く層を重ねた奥にうっすらと透けて見える蒼い鉤爪の切先が、鏃のように僕の心臓に喰い込んで、緩やかに溶け出していく熱がヤケにはっきりとした痛覚で以て、僕を支配するのだ。ぐ、と息が詰まって、思わず咽せ返る。蒼い花弁が、掌から零れ落ちた。




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