第1話 ヒノモト
ここは異郷の地、ヒノモト。蛇の王ナーガラージャの支配する帝国。
「はあ、はあ 奴等め、相変わらずしつこい追跡だ...」
「見付けたぞ、囚人番号666!麻酔弾、撃て!」
治安部隊の放った麻酔弾が、狼の姿をした獣人に直撃する。
「ぐっ...クソ、また私は...」
意識を失った獣人を取り囲む治安部隊。
「アダムス隊長、もうこれでこいつの脱獄は十回目ですよ。なんで上層部はこいつを死刑にしないんですかねぇ?」
「それはだな、こいつは不老不死の呪いに掛けられてる。だから、首を切り落としても再生するし、全身を細切れにしても、破片が集まって再生する。今まで我が帝国は、あらゆる手段を使ってこいつを処刑してきたが、ことごとく失敗してる。だから生かしておくしか無いのさ。」
「ふーん、そうなんですかい。そういや、聞いた話によれば、このS級戦犯、元々ヤマトの王族で、自国民を大量に虐殺するような残酷な王だと聞きましたぜ。それを初代ナーガラージャ王のザッハーク王が止めて、この国をヒノモト、という国号に変え、再建したらしいじゃないですか。」
「それは表向きの見解だ。歴史とは必ず征服者が創るもの。俺は今まで専属の監視官として二年見てきたが、とてもじゃないが、この人物は悪人には見えない。尋問にはいつも口を紬んでいるが、目には没落したとはいえ、王としての意思が宿ってる。そして、俺にはこいつを上手く国家の為に活用する策がある。では帰投するぞ。」
「へーい。」
またこの部屋か。いつもあの強面の鬱陶しい男に尋問される部屋。
あの憎きナーガラージャの尖兵だ。
当然私はそんな奴等に口を開くこともない。
毎日のように奴等を殺す想像をするぐらい私は、奴等を憎悪している。
和解の余地など無い。そう思っていたが、今日は違ったみたいだ。
「やあ、調子はどうだ、666」
「私をその名で呼ぶな、帝国の狗が。」
「手厳しいな。しかし俺は君の本名を知らない。いつも聞いても教えてくれないからな。」
「当然だ。私を呪い、危害を加え続ける帝国の人間に教えることなど一つも無い。分かったらさっさと失せろ。」
「まあ、そうカッカするな。今日はある提案があってやってきた。ほら、いつもの差し入れ、ドーナツとコーヒーだ。飲み食いしながら聞いてくれ。」
「ふん。」
「まず説明するとだな。今、我々の国、ヒノモトは戦火の危機に立たされている。何故、そうなってるか、要点を摘んで説明する。」
「まず、我々の同盟国であるファルケンが、我々と貿易関係を結んでる国家であるハウンズに宣戦布告をし、去年、ハウンズ領にてテロを行った。結果は大戦果、ハウンズの軍事工場や、重要拠点は莫大な被害を受け、軍人千人以上が死亡した。」
「そして、ファルケンのもう一つの同盟国であるフェネクスがハウンズの同盟国であるラッズに経済攻撃を加え、ラッズとハウンズによる連携を防ごうとしてる。」
「最後に、どんな国とも中立である北国、ミーシアがラッズやハウンズと同盟協定を締結、我々ヒノモトも、ファルケンとフェネクスの二国と同盟を締結した。」
「そして、現在ファルケンとフェネクスはミーシア、ハウンズ領に電撃戦を仕掛け戦線を拡大している。そして先月、我々ヒノモトもハウンズ領に奇襲攻撃を行い、軍人民間人問わず、大きな打撃を受けた。それから、ヒノモトもこちらの国が攻められる前に、ブルーシア洋の島々に防波堤となる拠点を打ち立て、現在ハウンズ軍と交戦中だ。」
「本題に入ろう。君は、およそ二千年前から存在する古代種だと聞いている。かの歴代ナーガラージャ様と同じだとね。」
「...!あの下衆と私を一緒にするな、今すぐにでもお前を殺すぞ...!」
「すまない、言葉を選ぶべきだったね。そこで、だ。古代種である君に、我々は兵士になってもらいたい。我々帝国は秘密裏に、人造古代種による実験部隊を設立した。その名はビースト。君には、そこの副隊長をやって欲しいんだ。ちなみに俺はその部隊の隊長を任命された。君の選択次第では、俺は君の上司になるな。」
「ふざけるな、気色悪い。お前等は私を実験台として扱った挙げ句、その成果を利用して、更に犠牲者を増やしてるのか。悍ましい限りだ。断る。」
「勿論、条件がある。その条件は、君の呪いを解呪し、死ぬまで帝都で安寧に満ちた生活。」
「何を今更。私は今まで貴様らに散々権利を蹂躙されてきた。今になって友好的に接した所で遅い。」
「では、こういう未来もある。君という強大な戦力を欠いた実験部隊ビーストは、初陣によって多大な被害を受け、全滅。そして君は一生牢獄の中で、同胞達が死んだことによる良心の呵責に苦しめられる。」
「っ...!それは嫌だ!私は二度と、同胞を失いたくない!どこぞの馬の骨であっても、同じ古代種には変わりない...!」
「では、我々に協力するね?」
「ああ、貴様のことは気に入らないがな。」
「それでは、名前を聞こうか。」
「アイーダ。アイーダ・スカーレットだ。」
「こちらはアダムス。アダムス・ブラックスミスだ。宜しくな。」
この時の私は思わなかった、まさかこの男が、私の運命を変える人物になるとは。
獣の女王と黒い騎士 閻魔カムイ @dabi12
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。獣の女王と黒い騎士の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます