カエルの王子と三人のお姫様

とりむね

本文

 ある王国に三人のお姫様がおりました。

 長女のスノーは雪のように色白で美しくお城の中で大切に育てられ一歩も外へ出たことがありません。

 次女のアナもスノーに劣らず美しかったのですが、いつもスノーばかり可愛がられるので姉を妬んでばかりいました。

 三女のベルは後妻の連れ子でした。二人の姉とは違って賢い娘で大きな書斎にこもって本を読んでいました。

 姉を妬むアナのイライラはベルに向けられていました。侍女がいるにもかかわらず部屋の掃除をさせたり、泥だらけの池にわざと毬を落として拾わせたりしていました。

 ところがベルは美しい姉が大好きでしたので姉の役に立つ事ならば何でもしました。姉に尽くす事と本を読む事がベルの生き甲斐でした。

 お姫様たちが年頃に育つと王様は王国の跡継ぎとなるお婿様を探しました。ただし王国を継げるのはただ一人のお姫様だけです。

 そこで賢いベルは国王に提案をしました。


「私たち三人が旅に出てそれぞれ王子様を連れて帰ります。その中から国王様が跡継ぎに相応しいお方をお選びください」


 旅は娘の成長にも繋がると考えた国王はその提案を受け入れました。

 そして三人のお姫様は一緒に旅に出ました。


「外へ出るのが初めてなので何もかも分からない事だらけだわ。私に王子様を見つける事が出来るのかしら」


 箱入り娘のスノーは不安で胸がいっぱいです。


「こういう事は言いだしたお前が相手を見つけてくるものだ」


 アナは王子様探しをベルに押しつけるように言いました。


「お姉様方、任せてください。私が読んだ書物には、王子様は呪いでカエルにされていて、キスをすると元の姿に戻ると書いてありました。まずはそれっぽいカエルを探しましょう」


 こうして三人のお姫様はカエル探しを始めました。

 王国から東へ十マイルほど行った所にある奥深い森の中に薄気味悪い館がありました。その門の前で一匹のカエルが待ち構えていました。青いタイツと水色に黒い斑点のマントを羽織ったような柄のカエルです。


「お姉様、気品に満ちたこのカエルこそ王子様に違いありません」


 アナがスノーに言いました。


「まあ、宝石の様に目映いお方ね」


 スノーは両手で青いカエルをすくうと、唇に近付けてチュッと尖った口元にキスをしました。すると……。

 スノーは魂が抜けた様にその場に倒れてしまいました。


「これはコバルトヤドクガエルといって猛毒を持つカエルです」


 ベルが冷静に分析しました。

 それからスノーをガラスのケースに入れて館の中に安置しました。


「スノー姉様には七人の小人を付けて白馬に乗った王子様が現れるのを待ってもらいましょう」


 ベルとアナはスノーを館に残して、森を抜けて旅を続けました。


「私にはちゃんとした王子様を紹介するのよ」

「大丈夫ですよ。特別に素敵な王子様が目の前に現れますから」


 それから旅の途中で何匹ものカエルに出会いました。

 真っ赤なガウンを纏った様な威厳のあるカエルに出会った時は、


「だめです!あれはアラハダヤドクガエル。猛毒です!」


 黒地に黄色いラインが入っている上着を着ている様なお洒落なカエルに出会った時は、


「ヒメキスジフキヤガエルも猛毒ですよ!」


 その後もイチゴヤドクガエル、アシグロフキヤガエル、コロボリーヒキガエル……、会うカエルはみんな毒ガエルでした。

 アナがカエルにキスする既の所でベルが取り上げて猛毒の危機から救いました。


「それにしてもお前は何でそんなにカエルに詳しいんだ?」

「本を沢山読んで勉強しましたもの」


 アナはベルの豊富な知識を羨ましいと思い、そんな自分を嫌になりました。


「私はスノー姉様ほど美しくないし、お前の様な知識もない。私の前に王子様など現れる訳がない」

「そんな事はありません。アナ姉様の良い所を私は沢山知ってますよ。綺麗好きな所、運動が得意な所、強がっているけれど本当は守って欲しいと思ってる所……。王子様は以外と近くにいるかもしれませんよ」


 アナはいつもいじめている妹からそんな風に思われていた事が分かり驚きました。姉ばかり気にかけられ、自分なんて必要のない存在だと思っていたからです。


「アナ姉様の事は私がお守りします」

「ありがとう、ベル」


 アナは初めて妹を名前で呼びました。ベルの事が気になるようになりました。そこで一つの疑問が湧きました。


「ところで、なぜスノー姉様がカエルにキスする時は止めなかったの?」

「だってお姉様と二人きりになりたかったから」


 アナは頬を赤らめるベルの事を愛おしく思いました。

 ある日二人は、馬に乗った盗賊に囲まれました。こんな時に助けに現れるのが本物の王子様なのでしょう。


「王子様、助けて!」


 アナが叫ぶと、目の前の盗賊たちがばたばたと落馬しました。地面を這って苦しんでいます。あっという間に盗賊は全滅しました。


「私が守るって言ったでしょ」


 ベルは吹き矢を持って得意気に言いました。


「ベル!」


 なんて頼もしい妹、いいえアナにとっては王子様に見えて思わず抱き着きました。


「ねえ、お姉様。私にキスして」


 ベルの言葉に体の芯が熱くたぎるのを感じました。一緒に旅をしてどれほどベルに助けられた事でしょう。そして自分の魅力を引き出してくれたのもベルでした。アナはスノーと別れてベルと二人で旅をする内にどんどん自分が女らしくなっている事に気付いていました。


「だめよ、ベルは私の妹よ。それに女性同士でキスするなんて……」

「構わないわ。だってそれが私の望みだもの」


 アナにはもう自分の気持ちを偽る事はできません。目を瞑り身を委ねるベルの唇に己の唇を合わせました。すると……。

 ベルの体が竜巻に巻かれたように回転して宙に浮いたかと思うと輝きに包まれました。光が治まり着地したベルの体は一回り大きく、逞しい男性に姿を変えました。


「ベル、なの?」

「そうです、アナ姉様。私は悪い魔女の呪いで女性の姿に変えられていたのです。アナ姉様が私を思いキスしてくれたおかげで呪いが解けました」


 ベルは特別に素敵な王子様が目の前に現れて胸の鼓動が止まりません。


「私は姉様を愛しています」


 ベルの鼓動は益々激しくなりました。激しく、激しく、呼吸が出来ないほどに。


「く、苦しい……」

「だって毒の勉強は沢山しましたからね。私は解毒剤を飲んでますけど」


 ベルは自分の唇を拭って苦しむアナを見下ろしました。


「私はスノー姉様が好きなの。この旅は呪いの解除と邪魔者の排除と王子の凱旋が目的だったの。この日の為に私は毎日いじめに耐えてきたのですよ」


 ベルは盗賊から上等な服と白馬を奪い、スノーの眠る館へ駆け出しました。

 こうして、白馬の王子様のキスで目覚めたお姫様は末永く王国で幸せに暮らしたという事です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カエルの王子と三人のお姫様 とりむね @munet

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ