『とりあえずその聖剣頂きますね?』〜転生する際女神から与えられたスキル《もらう》とんだハズレスキルだと落ち込むもどうやらなんでももらえるらしいのでもらってみた〜
カツラノエース
本編
「
「いや、端的過ぎねぇ?」
目覚めた途端、いきなりそう告げてきた目の前に立つ長い白色の布で大切な所のみを隠している半裸の女に、俺は耳をほじりながらそう返した。
「もう一度申し上げましょう、東堂京真さん、貴方は信号無視の車に轢かれて死にました。」
「いや、それは分かったからさ。」
なんなんだこの女は?いきなり死にました死にましたって失礼なやつだな。――あ、すまん。自己紹介が遅れていたな。
俺は東堂京真。今年23になったばかりの冴えないフリーターだ。あ、もう死んでるらしいから仕事の事は言わなくても良いのか。
実はさっき、俺は腹が減ったもんでコンビニにでも行こうかと歩いていたんだが、信号無視の車に突っ込まれたんだよな、確か。いや、実はいきなりの事でよく覚えてないんだよ。
それで目が覚めたらこれだ。
ってかまずここはどこなんだよ。辺り一面モヤがかかってて良く見えないし。
するとそこで、頭をポリポリと掻きながら周りを見る俺に失礼な女がこう言って来た。
「あれ、珍しいですね。普通の人は死んでいると分かった時、酷く混乱するはずなのですが」
いや、起きた瞬間目の前の半裸野郎に無表情で死にました連呼されても混乱しねぇだろ。逆に冷静になっちまうぞ?
「確かにアンタみたいな変態露出狂が目の前に居るって光景で混乱はするかもしれねぇけどよ。まず、俺が死んでるならここはどこだよ。」
すると女は相変わらずの無表情で、まるで今までも同じ説明を何度もして来たかの様に、
「ここは生と死の狭間。名前の通り現世の天界の間です。」
「はい?じゃあ一体アンタは誰なんだよ?」
「私は女神。何時も貴方の様に死んだ人間の行先をここで決めているのですよ。」
「はぁん、なるほど」
ようやく分かったぜ。これあれだろ?なにかのドッキリだろ。
いやだってよ?普通に考えて女神とか死んだ人間の行先とか有り得ねぇって。多分、俺を運び込んだ病院とどこかのテレビ局が手を組んでるんだろうな。
まぁでも?ここで「ドッキリだろ」なんて言うのもテレビ局側に申し訳ないしな。
あんなスピードで突っ込まれたにも関わらず何故か身体に怪我ひとつ残ってないし、仕方ない、乗ってやるかね。
「じゃ、じゃあ女神さん?一体俺はこれからどうなるんだ?」
咳払いひとつすると、俺は両手を胸の前で組んで女神(自称)にそう尋ねる。すると女神は、
「はい、通常は天国で何不自由無い生活を送るか、もう一度現世で生まれ変わるかを送ってきた人生の質で決めるのですが――」
そうしてどこからか取り出した本をペラペラとめくりながら、
「如何せん京真さん、貴方の人生は酷すぎますね……」
「ん?喧嘩を売ってるのかな?」
「まず、23年間彼女無し、もちろん童貞。そして学生時代には私物を盗まれる、暴力等のいじめ。更に――」
「わ、分かったから黙れ!!」
はぁはぁ……なんでこいつはそんな事まで知ってるんだ?
まさか本当にめが――いや、んな訳ねぇ。
どうせ俺の親に事前インタビューでも取ってたんだろ。
「――で?それだけ酷い人生を送っていた俺はどんな行先になるんだ?」
すると、そんな問いに対して女神は三本指を立て、
「特別に次の三つから選ぶ事の出来る権利を差し上げます。」
「三つ?」
「はい、まずひとつは天国で何不自由無い生活を送る。二つ目はもう一度現世に戻り、新たな人生を送る。そして三つ目は――」
「特殊なスキルを授与し、異世界に転生する。です。」
「はぁ、なるほど。三で。」
「即答ですね。」
「あぁ、だってよ――」
この三つの選択肢の中で、明らかに三つ目だけおかしいからだよ。絶対あれじゃん、【若者は異世界転生出来る機会を得たら、するのか?しないのか?】的な企画じゃん。
だってなんだよスキルって、なんだよ異世界って。
ラノベじゃねぇんだぞこの世界は。
でもまぁ、これはバラエティなんだ。適当に――
「俺、異世界に憧れてたんだよ。」
「なるほど。」
すると、そんな俺に対して女神はすぐに、授与されるスキルの名前を発表した。
「では、貴方にはスキル《もらう》を授与し、異世界に転生して貰います。」
「はい――って、あぁ?」
なんだそのスキル。普通こういう時は異世界らしく《魔力無限》とか《剣術最強》とかじゃねぇのかよ。
なのにもらう?なにをもらうってんだ。
しかし、そんな俺にお構い無しで女神はスキルの内容を端的に告げる。
「スキルの能力は名前の通り色んな物をもらう事の出来るという物です。もらいたい物を持つ人物に触れ、『〇〇もらいます』や、『〇〇下さい』と言うともらう事が出来ます。もらった物はその時点で四次元に転移しますので、それを念じる事で取り出す事が出来ます。四次元に戻す時も同様です。」
――――いや、そんな「やったりました」みたいな顔で見られてもよ。
正直早口過ぎて内容全然分かんなかったぞ。
しかも、スキルの内容までびっしりとあるとかこのドッキリ作り込み過ぎじゃね?
「――では、このスキルを駆使し、異世界生活を楽しんで下さい。」
「へ?ちょ、ちょま――」
しかし、質問ひとつする事も出来ず、そのまま女神は俺にそう告げると、その途端、周りの霧が更に濃くなっていき、再び意識は闇の中へと落ちて行った。
♦♦♦♦♦
「――う、うぅ……」
それから一体どのくらいの時間が流れたのだろう。
俺が再び意識を取り戻すと、そこは全く見覚えの無い森の中だった。
周りで小鳥達はピヨピヨと合唱をし、近くに川があるのだろうか水のせせらぎも聞こえる。
だが、そんな平和な状況に相反して、俺は一気にパニックになった。
「いや、ちょっと待てよ。マジで俺異世界転生したってのか?絶対ウソだと思ってたのに。」
だったら天国にしておけば良かった……――が、もう言っても遅いか。
でもだぞ?だとするとここは一体どんな世界だってんだよ?モンスターとかいたりするのだろうか?
――となると、こうして草の上に寝っ転がっている時間なんて無い。何時襲われるか分からねぇじゃねぇか。
俺はすぐに立ち上がると、まずは近くで聞こえる水の音を頼りに川を目指す事にした。
それから数分後、見事に川を見つける事が出来た。
「やっぱりこの音は川の音だったんだな」
川の水は非常に透き通っており、太陽かは分からないが空の上で輝く恒星の光を乱反射している。
「よし、じゃあ次は人を探すぞ」
そうして俺は次の目標を川から人に帰ると、川沿いに歩きながら、誰かいないか探し始めた。
まぁ、流石にこんな森の中だ、人が居るとはとても思えないが……
――だが、そんな思いに反して、なんとそれから数分後、
「――って、あれ家じゃね?」
俺は川沿いに建てられた木造の家を発見した。
外見的にはキャンプ場の山小屋っぽい感じだ。ここだけ見れば、日本と言われても違和感は無い。
よし……!もしこの家に人が居るなら、とりあえず今日は泊めてもらおう……!明日の事はそれから、まずは今日を生き抜くんだ……!
そうして俺はドキドキしながら家の正面に回る、そして木の扉を2回、トントンとノックした。
――すると、ガチャ。という音と共に扉が開き、
「なんじゃ?って、こんなところに若者?珍しいな」
優しそうなおじさんが出てきた。
いた!マジで人いた!よし、とりあえず中に入れてもらおう!
「こ、こんにちは!道に迷ってしまって、一晩だけでも良いんでかくまってもらえないでしょうか?」
「そ、そうなのか。まぁ良いだろう。中に入れ。」
「ありがとうございます!」
こうして交渉に成功した俺は、家の中へと入った。
中は、真ん中に木のテーブルと椅子があって、入口側から見て左にキッチンがあり、右側には本棚(本だけじゃなく、色々な物が入っている)があるという、The・山小屋という感じ。
そこで俺はおじさんの言うがまま、木の椅子に座った。
俺が座ると、その対面におじさんも座る。
すると、いきなりこう聞いてきた。
「単刀直入に聞くが、お前さん。本当に道に迷ってこんなところに来たのか?」
「え?は、はい。」
なんだよ、まさか俺、結構変な事言ってる?
「いや、なら良いんだが、この森のすぐ近くに町があるだろう。それにここら一帯はモンスターが出る、それも中々の。だから少し疑っただけさ。まぁ良いゆっくりして行ってくれ。」
「?は、はい」
って、やっぱりモンスター出るのかよ……それも中々のって……
ここで俺は改めて、異世界に来たという事を実感したのだった。
♦♦♦♦♦
それから俺はこの世界の事を知る為に、色々と話を聞いた。
すると、分かって来た事がいくつかある。
まず初めに、この世界は前の世界と同じく、人間が支配している世界だという事だ。
だがら当然町もあれば国もある。
更に、この世界には「ゴールド」という単位のお金があり、そのゴールドで物を買ったりしているらしい。
この二つが、前いた世界と同じ点。
そして違う点は、先程おじさんがポロッと口に出していたが、「モンスター」と呼ばれる怪物が存在しているという事だ。
――まぁ簡単に言うと、ラノベでよく見る異世界って感じだな。
あ、ちなみにこの家の持ち主であるこのおじさんは中々の金持ちらしく、ここは別荘らしい。
「それにしても良いですね、別荘を持ってるなんて。」
「まぁ、こんなモンスター出没の例がある土地安いから、そんな羨ましがられる物でも無い。」
いやいや、何言ってんだよこのジジイ。
こっちはこの世界じゃ家無しなんだぞ……?
しかし、そこで俺はある事を思い付く。
「……ッ!!」
「ん?どうしたんだ?」
「い、いえ!!なんでもないです!ハハ」
――そうだよ……俺、この世界に転生する前、女神にもらったスキルがあるじゃねぇか。
確かスキル《もらう》とか何とかって言ってたよな?
って事はこの家も貰えるって訳?
ゴクリ、俺は唾を飲む。
まぁ物は試しだ、それにもしこのおじさんがこの家を無くしたって別荘だしな?
俺は覚悟を決めると、椅子から立ち上がる。
「ん?どうした?」
そしておじさんの横に立つと、肩に手を当て――
「この家もらいます……!!」
そう言った。
「は?」
それに対しておじさんは当然、口をぽっかりと開いて停止している。
さ、さぁ……本当に家は手に入ったのか……?
――だが、残念ながら何も起こることは無かった。
「あ、あれ……?」
「なんだ?急に。――まぁ良い。俺は今から少し近くの町へ行ってくる。」
「は、はい」
そのまま、おじさんは俺ひとり置いて家から出ていった。 ――って、
「んだよ!!あのくそ女神!!とんだハズレゴミスキルじゃねぇか!貰えねぇし!」
ひとりきりになった事で、一気に気持ちが爆発する俺。
やるせない気持ちを抱きながら、座っていた椅子へと戻る。
「はぁ…………」
スキルも無いって……マジでどう生活すりゃ良いってんだよ……あぁ、あの女神の顔思い返すだけでイライラするぜ――――って、あ。
だが、そこで俺はあることを思い出した。
それは、スキル《もらう》の能力の説明をしていた時の言葉――
「そういえばあいつ、もらった物は四次元に転送されるとかなんとかって……」
でもじゃあ今こうして居る家はなんなんだよ?
はぁ……もうよく分からねぇ……くッ!!ここまで来たらやけくそだ!!
そこで俺は勢いよく椅子から立ち上がる。
そして、右手を勢いよく上に伸ばすと――
「出てこいよ家ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
――――すると、その瞬間、手の上に小さな何かが乗った。
「――ん?」
手に違和感を感じた俺はすぐに右手を下げると、手のひらを見る。
するとそこには――
「こ、これって、」
小さな鍵がひとつ、あった。って――
家をもらうってそういう事かよ!?!?
た、確かに家の所有権は鍵の持ち主ってとこはあるけど!!
「っと!じゃあ早く鍵を閉めねぇと!」
俺はすぐに玄関まで走ると、内側から鍵を閉める。
え?じゃあおじさんが入れないって?
そりゃそうだろ?ってかこの家、俺のですけど?
「って事は、やっぱりこのスキルの力は本物だったって訳か……」
ぐ、ぐへへへ……
急激に口角が上がってくるのが分かる。
こりゃあ、面白くなってきたじゃねぇかよ……!!
♦♦♦♦♦
次の日、俺は朝起きると、すぐに家を出発した。
――あ、別にこの家を捨てる訳じゃねぇぜ?
実はあの後、俺は家の中にある物を色々漁っていたんだが、その中で地図を見つけてな、見てみると近くにある町「アミール」は中々に栄えているらしくてな、今日はそこで色々物をもらおうと思ってるんだよ。
ちなみに、あの後どこかへ行ったおじさんはしばらくすると帰ってきたが、絶対にドアは開けなかったぜ。
どうやらスキルの力でもらっても、持ち主は自分の物だと思うらしいな。
(おじさんはしばらくしたらどこかへ行った)
だから感覚的には【もらう】ってよりは【奪う】なんだが……
ま、まぁ深いことは考えないでおこうぜ。
だから文句を言うならこんなスキルをよこした女神に言ってくれって話だ。
――それで今は丁度森を抜け、【西側入り口】と書かれた門からアムールに入った訳だが……
「すげぇな、まるでラノベの世界だぜ」
町に入ってから開口一番に俺はそう言葉を漏らす。
辺り一面に建っている建物はどれも石やレンガに木を使ったものだらけで、そこらじゅうに剣や杖を持った人間が歩いていたり、更には剣と剣がクロスしているエンブレムを扉の上に付けている【冒険者ギルド】的な建物があったりと、本当に創作物の世界の様な光景だ。
「ま、まぁとりあえず何か良い物があればもらうとしますかね」
だが、きっといちいちこんな事でリアクションしていたら本当にキリが無い。
これからはこの世界が俺の日常になる訳だからな。
だからとりあえず、町を歩きながら色々見る事にした。
それから数十分後――
町の西側から東側へ行き、思った様な物が無かった為、今度は南側を見てみようと歩き出していたその時、
「――って、なんだ?あの人集りは。」
道の先で、町の人々が何かを囲む様にして集まっている事に気付いた。
何かの見世物でもしているのだろうか、それともバーゲンセール的なやつか?
まぁなんでもいい。とりあえず行ってみるかね。
「――すいません、ちょっと通して下さい」
その後、人集りの場所まで来た俺は半ば強引にその最前列まで移動する。
すると人集りの中心には、木で出来た台車と、それを運ぶひとりの男がいた。
――だが、男の表情は苦笑いで、パッと見見世物をしている感じでは無いなと分かる。
そして、台車の上にあるであろう物を隠す白い布。
まさか、何か凄い物を運んでるんじゃないのか?
するとそこで、俺の横にいた剣を背負う2人組の男の会話が耳に入った。
「なぁ、マジでなんでこんな町に聖剣デュランダルが来るんだよ。確か聖剣の中でも上位だったよな?」
「あぁ、なんでもこの町の金持ち冒険者が買ったらしいぜ」
「まじか、そいつ良く買えたな……」
ん?なんだ?聖剣?デュランダル?
よく分からんが、聖剣って英雄とかが使ってるやばい剣の事だよな?
って事はまさかこの布の下にその聖剣が……?
――欲しい、
その聖剣……欲しい……!!
実は今日、俺はこの町に武器ももらいに来てたんだよ。
だってよ?昨日おじさん言ってたじゃねぇか、『この辺りはモンスターが出る』って。
それにこの町に来てからも結構武器を持ってるやつらが居て、これは俺も絶対持たねぇとなって確信してたんだ。
じゃあよ?そんな自分の身を守る武器としては120点じゃないか?聖剣って。
しかも、今の俺にはそれを手に入れる力がある。
「よし……!」
そうと決めたら早い俺は、そこで周りのやつらより1歩前に踏み出すと、台車を運ぶ男の前へ立つ。
「あ?なんだお前?」
「……」
多分、今の時点ではその聖剣の持ち主はこの男だろう、なら、こうして肩に手を触れて――
そこで俺は満面の笑みを浮かべ、こう言った。
「とりあえずその聖剣頂きますね?」
「――は?」
だが、当然何も起こらない。だが、それで大丈夫なのだ。
「何言ってるんだよお前?渡す訳ないだろ、これは聖剣の中でも位の高いデュランダルだぞ?しかもまず冒険者なのか?お前は?」
「ハハハハ、やっぱりなんでもないっス。」
相手の言葉をガン無視で、台車の上にかかった布が先程よりももりあがりが無くなり、無事四次元に転移した事を確認した俺は、そのまま周りに変な目線を向けられながらも、逃げる様にアムールから出て行った。
♦♦♦♦♦
「はぁはぁ……ここら辺まで来ればまぁ大丈夫だろ」
アムールを出てからしばらく走ったところで、俺は周りを確認しながらそう呟く。
万が一、俺が聖剣を持っているところを誰かに見られでもしたらめんどくさいからな。
「――よし、じゃあここからはお楽しみタイムだ……!」
そうして周囲に誰も居ない事を確認すると、俺は両手を天に伸ばす。
そうだよ、今ここで聖剣を四次元から取り出すんだ。
家まで我慢しろよって……?いや、考えてみろよ?
まず聖剣って時点で男心をくすぐってくるのに、その中でも強い方らしいデュランダルとか言われたらもう我慢なんて出来ないだろう。
俺は頭の中で必死に『聖剣出てこい』と念じる。
するとその瞬間――両手にどしりと鞘に収まった大剣が具現化された。――って、
「重!?!?」
俺はあまりの重さに、聖剣を早速地面に落としかける。
なんだよこれ……『中高と剣道部だったから行けるだろ』とか呑気に考えてたが、竹刀とは訳がちげぇ……
――と、ま、まぁ重さはとりあえず置いておこう。
とりあえずまずは外見からだな……
俺は聖剣の収まった鞘を色んな角度からマジマジと見る。
が、鞘自体はどこか特別だとか、そんな事は無さそうだな。
全体的に黒色で、縁は灰色というシンプルなデザインだ。
強いて言うなら、鞘の端に【聖剣デュランダル】と金文字で彫られているという点くらいだろうか。
「よし、じゃあ次は剣身だ……!」
鞘を十分に見ることが出来た俺は、次にその中の剣身を見る為、少しづつそれをずらしていく。
やべぇ……!めちゃくちゃワクワクするよこれ……!
例えるなら、レベルは全然違うが、買ったレゴを箱の中から取り出す時の様な、そんな感覚だ。
そうして俺は鞘からデュランダルを抜く。
するとその瞬間、青色の剣身と、黄金の刃先が太陽の光に輝いた。
大剣と日本刀が混ざり、更に反りには大きな歯型が3つ並んだ様な形という、正直今までに見たことの無い形をしているが、それでも――
「か、カッコよすぎるだろ……!」
素人目にも聖剣のオーラがマジマジと伝わって来て、俺は「こんな物を手に入れたのか」という興奮と、同時に恐怖が押し寄せて来た。
だってよ?絶対今頃アムールじゃ大騒ぎになってるだろ。
聖剣が消えたってよ。しかも、あの場に居て変な目で見られまくった俺が犯人候補に挙げられてるかもしれない。
「やば、そろそろ聖剣をしまいますかね」
そこで俺はデュランダルを鞘にいれて、再び四次元に転移させる準備を始める。
だがその時、どこからか地鳴りの様な物が聞こえて来た。
更に、それと同時にうめき声も聞こえてくる。
「うぉぉぉ……」
「な、なんだってんだよ……!?」
俺はあまりの恐怖で、その場から動けなくなる。
するとそこで、正面の道から音は姿を現した。
「うぉぉぉ……!!」
「……ッ!?」
3、4メートルはあるだろう薄緑色の巨体に、充血した赤い目、そして頭の中心に生えた巨大なツノ。
どう考えてもそいつはモンスターだった。って、
こ、こいつが昨日おじさんが言ってた中々のモンスターか……!?
や、やべぇ!?しかも俺に気付いたのかこっちに近付いて来るぞ……!?
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「……ッ!?」
完全に俺の姿を捕捉したモンスターは、そう雄叫びを上げるとこちらへ走ってくる。俺が走ったところで逃げられる速度では無い。
「――あぁ、もうクッソッ!!」
じゃあよ、もう戦うしかねぇじゃねぇか!!!
何も抵抗せずに死んでたまるか!!俺だっていきなり意味わからん異世界に飛ばされてイライラしてんだぁッ!!
それに、今の俺には聖剣デュランダルがあるッ!!
「うぉらぁぁぁぁッ!!」
俺は決死の覚悟でデュランダルを両手で握ると、突進してきたモンスターに全力でふりかざす。
すると、なんとその瞬間――
「うぉぉぉ!?!?」
「――って、は?」
一瞬にしてモンスターは真っ二つになり、更にその周りの木までもが何本か切り崩れた。
♦♦♦♦♦
「はぁぁ……!異世界最高!!」
それから他にもモンスターが来るかもしれないと家に帰った俺は中に入った瞬間、そう叫んだ。
いやだって考えてみろよ?このスキル最高過ぎだろ!?てかなにあの威力!?一振りだぜ?しかも俺みたいなど素人の!!戦闘とか怖くてもう二度とする気はねぇが、これで万が一またモンスターに襲われるみたいな事があっても大丈夫だ。
「いや、この世界の生活楽過ぎるぅ!!勝ち組確定じゃん!!」
はぁ!!この世界じゃ絶対働かねぇぞ!!
これから毎日今日みたいな感じに欲しいものが出来たら町に行ってもらって来て、それで楽しんで寝る!!
俺の最高異世界ライフ始まったぁぁ!!
――はずだった。
数時間後。朝早くから俺はドアを何度も強引に叩かれる音で目を覚ました。
マジでなんなんだよ……まさかあのジジイ帰ってきたのか?
だからここは俺の家だっての。
「はぁ……しゃあねぇな」
1発ガツンと言ってやろう。
俺はイライラしながらドアの方へ向かうと、鍵を開ける。
そしてドアを押すと、なんとそこに立っていたのはおじさんでは無く、見た事の無い女の子だった。
髪色は青でロング。白色のローブを纏い、手には杖という、完全なこの世界で言う【冒険者スタイル】だった。
なんだよこの子。まさか
「なんだよ、道に迷ったならあの道をずっと真っ直ぐ行けばアムールに――」
「貴方ね、この家を奪ったのは。」
「は?」
開口一番にそう言われたもんだから、俺はそうとしか言えなかった。
いや、だってなんで分かるんだよ!?まさかあのジジイ、冒険者ギルド的なところに言いやがったな!?
「な、なんでそんなこと――」
「それに、今日消えた聖剣デュランダルを奪ったのも貴方ね?」
「……ッ!?」
「図星ね」
「ちょ、ちょっと待てッ!?なんでそんな根拠も無い事言えるんだよ!?」
「なんでって、この近くにあったオーガが真っ二つになった死体。あんな事に出来るのは聖剣デュランダルくらいよ。そしてこっち側にその時居たのはこの家に住む人間――つまり貴方くらい。」
続けて彼女は言う。
「――それに、昨日の夕方くらいにも依頼があったのよ、『別荘を取られたんだ、何とかしてくれ』ってね。」
「あ、あんのジジイ……!」
「やっぱり貴方なのね」
「ぎ、ギグッ!?」
するとそこで、彼女はニヤリと笑うと、何故か交渉を持ちかけてくる様な声色で、
「ねぇ、この事冒険者ギルドに言わないで欲しい?」
「え?――あ、当たり前だろッ!!」
いや、なんだよこいつ!?ってか、こんなところでそんな厄介そうなやつらに目をつけられたら俺の最高異世界ライフは終わっちまうじゃねぇか!?
すると、そんな俺に彼女は、「じゃあ、」そう言ってから、
「私と組まない?」
そう言った。って、
「は?く、組むって何をだよ……?」
「だから、冒険者を一緒にチームでしないかって言ってるの。――あ、名前をまだ名乗って無かったわ。私はメアリー。メアリー・シュナイダーよ。」
そう言って彼女――メアリーは俺の方に杖を持っていない方の手を伸ばし、握手を求めてくる。――が、
「な、なんで俺が冒険者なんて物騒な物をしなきゃいけねぇんだよ!!絶対無理だ無理!!」
俺はそれを勢いよくドアを閉める事で拒んだ。
しかし、そうするとメアリーは、
「ふぅん、じゃあこの事ギルドに言うわね」
「そ、それはやめろ!!」
「じゃあ私と冒険者をしなさい」
「それも嫌だ!!」
あぁぁぁぁぁ!?!?なんでこんなめんどくさい事になるんだよ!!言っとくがお前ら!!俺は絶対に冒険者なんかにはならねぇからな!!
♦♦♦♦♦
この後、俺が冒険者のパーティーリーダーとして、世界に名を轟かせるのはまた別のお話である――――
『とりあえずその聖剣頂きますね?』〜転生する際女神から与えられたスキル《もらう》とんだハズレスキルだと落ち込むもどうやらなんでももらえるらしいのでもらってみた〜 カツラノエース @katuranoACE
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