第4話 延活先生の、恋の病
さて、それからというもの、先生の様子がどうもおかしい。
「先生、どうじゃね、わしのイボは治りそうかね?」
「……」
常連のじいさまが尋ねるが、延活先生は相手の患部も見ずに、庭のほうばかり見ている。
「先生、どうしたね、先生」
幾度も呼ばれてから、あわてて正気を取り戻した。
「ええと、風邪でしたか」
と、手首をとって脈をみようとするので、
「いや、イボじゃよ、イ、ボ」
「ああ、イボ、……イボですね。わかっています」
先生はじいさまの、おでこのイボに、薬を塗ろうとする。
「違う違う! 尻の穴の出口にできたイボじゃと言ったろうが……排便の度に痛んで、しょうがない」
「……むむ、鶯丸、おまえ、薬を塗ってさしあげよ」
「ええ!? おいらですかい!?」
「私は近目で、手元がおぼつかぬ……」
……意味不明な言い訳をする先生に呆れて、おいらは仕方なく、鼻をひん曲げながら、四つんばいになったじいさまの尻の穴に、薬を塗ってさしあげたさ。
「延活先生は、どうも最近、やけにぼんやりしているようじゃないか」
世間の口はかまびすしいもので、先生のおかしな挙動はすでに患者たちのあいだで話題になっている。
誰がどこから嗅ぎつけてきたのか、すでに真相までもが出回っている。
「どうも、若宮大路の
「なんと、恋の病か!」
「あの堅物の先生がのぅ……」
「代々の医師でも、その病ばかりは治せまいわな。ふぉふぉふぉ」
さて、陰陽師という強敵手の出現に、先生の姫さんへの恋慕はいっそう燃えあがったようだった。
恋ってのは、すごいもんさ。
人から驚くべき能力を引き出すもんだよ。
あ
うき名ばかりを たち物にして
おいらが
先生が自分で詠んだんだ。
姫さまのことを想って俄然、張り切っちまって、詠んだこともない歌さえも、見よう見まねで創っちまうんだから、ほんと、恋の力ってのは偉大だよね。おいら、腹の底から感心しちまった。
「どうだ、鶯丸」
歌に関しては
おいらは注意深く目を通し、歌の心を探った。
……哀れなことだ。私の恋の病には、薬がない。
好物をたって(断って)、
ここでちょいと説明すると、『願掛けの断ち物』といって、自分の好物や、獣肉なんかの
実際、先生は大好物の
「なるほど」
と、おいらはうなずいた。「願掛けの断ち物と、浮名が立つのをかけた所など、素晴らしい発想だと思います」
「左様か」
この時、先生は普段見たこともないような、はにかんだ笑顔を浮かべたよ。
案外かわいいところもあるんだな、と、おいらは思ったね。
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そんなこんなしている間に、約束の十五日は過ぎてゆくのである――(キートン山田さん風w)
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