第39話 別たれし者達
『ギル…やってくれたわね…皆んなを何処にやったの?』
(これは転送魔法…空間系の魔法の一種ね…
ギルがこれを使ったところは見たことがない…今まで秘密にしていたようね…)
ギルベルトとレオナは広い草原に飛ばされており、レオナは他の者達の居場所をギルベルトに問うた。
『…そんなこと態々俺が言うわけないっしょ』
(言うわけないって言うより分からないが正しいっすね…
術式が不完全だった故に精度の低い転送魔法を使用しざるをえ得なかった…
神魔転送陣はその名の通り、精神と魔法を媒介として転送を行う魔法…魔力的性質や向けられた気持ちの大きさが転送に大きく影響する…
とは言っても、急に発動させたからどう言う挙動をとったかはこっちにも分かりかねる…本音を言うと一人一人ずつゆっくり転送して確実に楽して捉えたかったんすけどねぇ…)
『でしょうね…だったらいいわ、
レオナは左拳に火の魔力を集める。
『…お嬢様が吐いていい言葉じゃないっすよ?それ…
まぁ吐かされる前に逃げるし、何なら俺がレオナさんを捉えてリンと合わせてやってもいいんすよ?』
レオナの動きを見るやギルベルトも右掌から白い魔法陣を展開した。
『……あんたを慕ってた兄のアルベルト…弟のジルベルトもこんなクズな兄弟を持ってさぞ悲しむでしょうね…』
『……今まで兄弟ごっこしてただけなんで別に兄弟でも何でもなかったんすがね…』
『どうやら…これ以上の会話は不要なようね…ギルベルト!』
ボンッ!
レオナは爆発を利用し踏み込みギルベルトに距離を詰める。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『ここは…』
『分からない…どうやら私達は敵の魔法によって転送させられたようだ』
『ラギー…アイ…気をつけて…』
『暗い森の中…さぁどうしたものかね…』
蓮、アイリス、シエル、フォルスはギルベルトの魔法によって暗い森の中に転送させられていた。
『アイ…右…』
『!?…黒壁!』
『サンダーバレット…』
アイリスは右から飛んできた大きな水弾を黒い壁を出し、飲み込み防いだ。
シエルは後方からの見えざる魔力の弾丸を右手二本の指の間から放った電磁砲で相殺した。
(電磁波を読み取って攻撃の軌道は読めた…
攻撃の線と線が交わる点にいるのはラギー…
となると敵の狙いは…)
『はぁ!?キッショ!何で分かるの!』
『おい!冷静になれ!リリィ!』
『冷静になれる訳ないでしょ!エリちゃんの仇が目の前にいるのよ!』
森の影から桜髪の少女と褐色のスキンヘッドの大男が現れた。
(エリちゃんの仇…?
そうかこいつらマジックハンターのエリィの仲間か…
前回の襲撃でこいつらの情報は持っている…)
『無秩序ノ月蝕のリリィとゴンザレスだな…あんたらの情報は前回の襲撃で割れてるぜ?
無属性魔法の見えざる攻撃を放ち、分身魔法を操るリリィ…水と雷属性の身体強化と高出力な魔法が特徴の大男ゴンザレス…だろ?』
『まぁ…バレてるわな…』
(バレてる上で特級…電糸の蜘蛛シエル…とよく分からん暫定闇魔法を使う謎の女の相手か…骨が折れるな…)
『あぁ…分かった…』
(俺もフォルスも消耗しきって囮にすら使えないだろう…正直言って足手纏い…)
『異議はないね…』
(カードの人って…)
シエルの指示に蓮とフォルスが同意し、二人は戦場を離れるべく踏み出した。
『逃すと思う!?』
『行かせると思うか?
『なっ!?』
(動けない…魔眼か!?
恐らく二倍付与で身体能力を上げても、対処され行手を阻まれる…
それにしても…相手の動きを止める魔眼かぁ…超レア物じゃん!)
『ゴンザレスさん!こいつ超レア物だよ!どうせ、特級いるしここは割り切ってこいつからやるよ!』
リリィは目を輝かせ、標的を蓮からアイリスへと移す。
『あいよ…』
(目の前のお宝に目を光らせるのはこいつの悪い癖だが…
時使いを後回しにするのには賛成だ…俺たちの魔法の情報が割れてる上で時使いを狙い更に動きを読まれるってのは得策じゃねぇ…
それに今回は助っ人もいる…そいつらが楽できるように此処でこいつらを足止めした方が得策…魔眼持ちとかいう最低保証もあるしな…)
『バン…』
ビュン!
『おっと…』
(生憎、電磁波を読めるのはあんただけじゃないぜ…リリィの援護は許さねぇ…ってか)
シエルの電磁砲による不意打ちをゴンザレスは間一髪で躱した。
(アイの魔法は闇魔法…光を発する私とハゲゴリラが近くにいると本領が発揮出来ない…)
『
アイリスは動きが止まったリリィに右手を振り下ろし、闇の斬撃を放った。
『やばっ!
ドカッ!
リリィの詠唱と共にリリィの分身が現れ、動けないリリィを分身が蹴飛ばし闇の斬撃を回避した。
『いてて…動き止めた後に斬撃って、最悪の戦法だね…』
(石や木もスパンと斬られてる…あれ食らってたら死んでたね…)
『…私にはそういう倫理観が欠落しているからな』
(魔法の属性的にシエルと大男とは距離を取りたい…が思惑が敵に伝わると厄介だ…)
『だろうね…魔法ってのはその者の精神のあり方を表す…』
(この女強いね…さてどうしたものか…)
場面はゴンザレスとシエルの戦いに移る。
『
(水を電気で分解して気体を作り出しそれを燃やし漏れなく力に変換する…
電気と水によって生じた気体の燃焼…それら全てが力になる俺の十八番魔法だ…
それに加えて電気を末梢神経に直接流し込むことで反射行動の速度を上げている…
さぁどうする特級…)
シュッ…
ゴンザレスは身体強化を行い、踏み込みシエルに距離を詰める。
『速いね…糸戻し…』
シエルは指先から引いていた木々に固定された糸を高速で縮小しゴンザレスから距離を取った。
『そんぐれぇ!どおってことねぇ!』
(右手で電気の弾撃ってる間に左手で木々に糸張ってやがったのか…器用な奴だ…)
ゴンザレスは即座にシエルの動きに対応し進路を変える。
『ひょい…』
シエルは次は右手で糸戻しを行い再度行き先を変える。
『あー!めんどくせぇ!』
(奴は糸を引いたり伸ばしたりして、動きを変える…対して俺は電気と水の魔力を垂れ流しにして身体強化を絶え間なく行なっている…
魔力効率が雲泥の差だ…奴は木々に糸を絡めてるとなりゃ…周りの木々を薙ぎ倒せば奴の動きを制限できる…)
『
シュッ!
バキバキバキ!
ゴンザレスは身体強化を解除し、無数の水の刃を射出し木々を薙ぎ払う。
『……やっぱりそうきた…』
ぴょん…
シエルは糸を利用し跳躍した。
『
シエルは両手を広げて無数の魔法陣を空中に展開しそれらの魔法陣に糸を繋げた。
『なっ!?』
(空中に糸を張るだと!?木に糸を張るのは分かるが…そうきやがったか!発想のスケールで負けた…完全に生成の隙を作っちまった…
上を取られた…俺は飛べねぇ…糸を自在に操る奴の糸を利用するのは自殺行為…
つっても厄介なことにその糸が魔力感知及び目視しづらい…
幸い奴の攻撃手段は雷属性…同じ属性なら俺にだって耐性がある…
糸で戦いやすいフィールドを形成し、電気を糸に流したり、上を取って雷や電磁砲をぶつけるのが奴のバトルスタイル…
俺は奴に攻撃を当てられない…奴は俺に対しての有効打がない…)
『って思ってるでしょ…?』
ブンッ!
『はっ!?』
倒された木がゴンザレスに向かって凄い勢いで飛んできた。
『くそっ!』
ゴンザレスは足元から噴射した水を利用し跳躍し迫りくる木を躱す。
(奴が木に糸を繋いでたってことはこういうことも予想できた…けど…予想したくなかった…全魔力解放をやったとしても奴を捉えられねぇ…
リリィの援護に行くか…?随分と離されちまったようだが…ってもこのフィールドは奴が好きなように動かせると見て、それも現実的じゃねぇな…
奴は早く俺を倒して時使いの援護に向かいたいはず…幸い奴の雷属性の魔法は俺に対しての通りが悪い…糸を利用した物理攻撃が関の山…正直言って俺じゃ勝てねぇが稼がせてもらうぜ時間をよぉ!)
『さぁ…楽しいお人形遊びの始まり…始まり』
シエルは不敵な笑みを浮かべ固定した糸に腰を下ろしゴンザレスを見下ろす。
『それ…』
シエルが指を動かすと倒された木々が糸で集まり人型の形になった。
『へっ…何でもありかよ』
シエルは空から木人形を操作しつつ、糸をくくりつけた岩をゴンザレスに飛ばしたりと物量による攻撃を継続した。
それによりゴンザレスは疲弊し、大きく魔力を消費する。
『はぁ…はぁ…』
(電糸の蜘蛛とはよく言ったもんだ…
俺は逃れられぬ奴の巣の中で踠き、消耗し捕食される…
獲物の自由を奪い…捕食者は自由な空で好きに出来るってか…やはり特級は規格外…常識が通用しない…
Sランク冒険者だの上級魔導士だのカテゴライズはごまんとあるがこいつらは別格…
さてリリィはどうなってるやら…魔眼の女と戦ってるとこだよな…せめて何かしら手見上げがないと俺たちゃ終わりだぜ…
ギルベルトとか言った気怠げな野郎が戦闘場所と対応する相手の操作及び弱った奴の確保を一任するとか言ってた割にめちゃくちゃになってやがる…シエルを森に放った上に時使いが野放しじゃねぇか…)
場面はアイリスとリリィの戦闘へと移る。
『向こうもドンパチやってるみたいだね…
私達も派手にやろう!魔眼ちゃん!』
『……何だそのあだ名は…私の名はアイリスだ…』
アイリスは不機嫌そうな顔をし自身の名を答える。
『名前?そんなの関係ないよ!貴方は負けて貴方の魔法と魔眼は私たちの資源になるんだから!』
リリィは腰に携えた剣を分身に与え、分身が踏み出し、アイリスに迫る。
『
(流石はシエルだ…私の闇魔法を阻害しないよう距離を取ってくれたようだな…)
アイリスは右手を地に着け詠唱し、アイリスの右手を中心とした闇の沼が広がる。
『お!なんかやばそう!』
(けどそんなに速くない…見てから対処できるね)
ぴょん…
リリィの分身は闇の沼を飛んで躱す。
シュッ…
アイリスはリリィの分身の軌道に合わせて闇の斬撃を放つ。
『させないよ!』
(闇の沼は誘導用で本命は発生速度重視の無詠唱の闇の斬撃…やるね!
だけど!私の魔弾で撃ち落とせるよ!)
ギロ…
アイリスは魔眼を発動させリリィ本体を目視する。
『う、動けない…』
(動きを完全に読まれてる…
情報漏れるってやっぱキツいね)
ザッ…
ボンッ!
リリィの分身はアイリスの闇の斬撃によって胴が二つに分かれ爆散した。
『…あちゃー』
(分身が破壊されたから暫くは使えないなぁ…
やっぱり、あの魔眼が厄介だね…)
『
(中和付与であいつの魔眼の効果は相殺できる…
それで身体能力二倍の効果で一気に攻める!あいつは対象の動きを止めれてもあいつ自身が速いわけじゃない…
こっちが速くなって向こうがこっちの動きを止められないなら勝機は十二分にある!)
リリィは自身に身体能力二倍と自身の魔力で相手の魔力を中和する魔力を付与し、代表が白く光る魔力に覆われた。
(分身を破壊できたのはいいが…あいつ何か纏ったな…
一応本体に
『
アイリスは腰に携えた刀を抜き刀に闇の魔力を纏う。
『
(さぁ…どう出る…)
アイリスは刀を振り下ろし闇の斬撃をリリィへ飛ばす。
シュッ…
リリィは向かってくる闇の斬撃を低姿勢で踏み出し回避する。
(あの纏った魔力の効果で私の魔眼の効力を打ち消したのか…
そして本来なら足が着いたら沈むはずの闇の沼も何事もないかのように移動している…
魔力を打ち消すには同量以上の魔力と無効化する為の処理が必要…と仮定するならば…)
『
アイリスはリリィと闇の沼の接点である足を魔眼で視るた。
『うぉ!?やば!』
ザクッ!
リリィは急に受けた別性質の魔力の無効化処理が追いつかずアイリスの停止の魔法を受け転びそうになったが持っていた剣を突き刺し間一髪で転倒を免れる。
(私の無効化を見たら冷静さを欠いて大体の奴が自滅していくんだけど…
この女…冷静に分析して無効化の処理落ちを狙ったってこと…?只者じゃないね…)
『よっ…』
(目視しただけで敵の動きを止めるほどの魔眼だ…そう何度も使えないだろうし…
再発動にインターバルが必要なはず…攻めるなら今!)
リリィは再度前進し、アイリスに詰め寄る。
スッ…
リリィの動きを止めた後アイリスは自身が展開していた闇の沼の中へ潜った。
(そう…この沼の中に入る為の一瞬が欲しかった…地道に影と繋げてたこの沼に…
さてどうするかな…)
『あら…潜っちゃった…』
(しかもよく見たら、この闇の沼木々の影に同化してる…体表に魔力を集中させてて正確な魔力感知が出来ないから居場所を特定できないや…
ゴンザレスさんがいたら電気の光で辺りを照らして影対策できたんだけどなぁ…
体表に付与した魔力は魔眼と影の不意打ちがあるから当然解けない…
相手の居場所を掴めず、魔力を垂れ流しにしてる状況かぁ…
取り敢えず沼から出よう…処理落ちはもう勘弁だからね…無属性の魔力を足場にして上に飛んでを繰り返したら影と沼から出られる…もうそれしかないね…)
リリィが上へ逃れる為跳躍しようとした直後…
グサッ!
『いったぁ!』
(闇の沼から刀!?
体表に魔力を纏っていてもすぐ近くにあいつがいるなら流石に魔力で気付く…まさか!?
あいつ!沼を通じて刀だけを動かした…!?だから気づけなかった!)
リリィの左足の裏をアイリスの刀が貫きその痛みでリリィは膝を着いた。
グサッ!
『あ゛ぁ゛!』
その一瞬を逃さずアイリスの刀はリリィの右足を裏から貫きリリィの動きを完全に封じた。
『アァアァァッ!』
間髪入れずに地に着いた膝を含め、下半身を重点的にアイリスの刀は闇の沼からリリィを貫いた。
シュン…
集中力を切らしたリリィは自身の体表に付与した魔力を解いた。
『ダークバインド!』
ビシッ!
『キャッ!』
纏った魔力が解かれたことを確認したアイリスの魔法によってリリィは闇に覆われ、縛り付けられた。
『少しでも魔力を発したら闇がお前の体を貫くぞ…お前は知りたい情報の宝物庫だ殺しはしない…』
『…して…殺して…』
パァン!
泣きながら殺しを乞うリリィにアイリスは容赦なく平手打ちをかました。
『さっきまで狩ろうとしてた相手に返り討ちにあって引っ叩かれるというのはどんな気持ちなんだ?
あと死にたいなら勝手に魔力を解放したらどうだ?
あ〜!それが怖くて出来ないから私に殺しを乞うてる訳か…実に哀れだ!』
アイリスは嬉しそうに笑いながらリリィを哀れむ。
『なぁ?今どんな気持ちなんだ?』
『ひぐっ…ひぐっ…』
パァン!
『お前の様なガキを虐めると清々しい気分になれるな…おっと私の悪い癖だ…
本題に入る…今回の襲撃者の人数と使用魔法を答えろ』
スッ…
アイリスは懐からハサミを取り出した。
『え、何それ…』
チョキ…チョキ…
アイリスはリリィの髪を切り出した。
『ちょっと!何してんの!やめて!』
『綺麗な桜色の髪だな…切りごたえがある…
私の質問に答えたら辞めてやろう…
丸坊主になる前に早く答えた方がいいぞ』
『人の心はないの…?』
『ハッハッハ!マジックハンターである君がそれを言うのか!
強いて言うならある!だからこそ、その心とやらをどう壊せるか分かるのだよ』
チョキ…チョキ…
『……人数は分からない…私とゴンザレスさん…あとギルベルトとか言う転移魔法を使う男しか知らない…
助っ人はギルベルト以外にもいるってマスターから話は聞いたけど…詳細な魔法は知らない…』
チョキ…チョキ…
『ふーん…まぁお前の様な末端は知る必要がないことらしいな…
そのマスターは参戦しているのか?そいつの使用する魔法は?』
チョキ…チョキ…
『……言えないマスターは売れない…』
チョキ…チョキ…
『組織の人数と使用魔法は?』
チョキ…チョキ…
『マスター含めて五人…内4人に関してはアリシア邸の奴らなら使う魔法とかは知ってるんじゃない?』
チョキ…チョ…
『あーあ…君が大した情報を話さないから切る髪が無くなってしまったぞ…』
アイリスは手鏡を取り出しリリィの前に差し出した。
『キャアァアァァ!』
リリィは丸坊主になった自身の姿を確認し絶叫した。
パァン!
『落ち着け…喚いても切られた髪は戻らんぞ…気にしてもしょうがない…
お前は男か女かぱっと見よく分からない坊主として一時を過ごす…それだけだろう…
さて…気を取り直して次の質問だ…
お前たちに蓮君達の情報を流した奴に心当たりは?』
『リルベルと言った覆面を被った情報屋よ…』
リリィはすんなりと蓮達の情報を流した者の名を答えた。
『随分とすんなりと吐くんだな…
君達にとってその情報屋はそこまで重要では無い様だな…
これ以上君からは重要な情報は落ちなさそうだな…
一旦闇の中に居ててもらおう…君の扱いは皆んなと相談させてもらうよ…
私もスッキリしたし、早く蓮君達と合流する必要があるしな…』
ズズズズ…
リリィは闇に体を縛られたまま闇の沼へ沈んでゆく。
『……』
(あいつに捕まれば…恐らく私はアリシアの元へと連れて行かれる…
そこでもしかしたらエリちゃんのことを知れるかもしれない…それまでは生き延びてみせるわ…)
『…アイも終わった?ついでにこいつも闇に入れといて』
戦闘を終えたシエルがゴンザレスを糸で縫い付け縛り引き摺りながら現れた。
『あぁ…分かった蓮君達の所へ急ごう』
『…うん』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『いやはや…女の子二人に戦わせて男二人で逃げるのって絵的にどうなんだろって…
思うよね…』
フォルスは走りながら蓮に声をかける。
『それはそうだが…そんな呑気なことは言ってられない…実際俺らが居ても邪魔なだけだしな…』
『…だろうね』
『可愛い坊やが二人もいるじゃな〜い〜
時使いは蒼い瞳の彼で〜、紅い瞳彼はS級のフォルス君だったかしら?
貴方達、試合後でヘトヘトでしょ?私手荒な真似はあんまり好きじゃないの…大人しく着いてきてくれるかしら?』
黒いウィッチを被った黒髪長髪で紫紺の瞳の黒色丈の長いローブを着たいかにも魔女風の見た目をした女性が箒に腰掛け蓮達を空から見下ろしている。
『…あんたらは俺達を生捕にするのが目的だろ?死なれたら困るよな…?』
(何とかして時間を稼ぐしかない…シエル達を信じて…)
蓮はなけなしの魔力で生成した氷柱を自身の胸元に当てる。
『困ったわねぇ〜…まさかそう来るとは思わなかったわ…』
『不意打ちでもしてさっさと取り押さえるべきだったな…』
『そんなことして傷物になる…若しくは死なれたりしたら悲しいじゃない?それに私好みの坊や達にそんな酷いことできないわ…
可愛い子に嫌われるのは私嫌なの』
『マジックハンターがよく言うよ…』
(彼女は加減が出来ない…若しくは魔法に何か発動条件が必要なのか…)
謎の女性の言葉にフォルスが答えた。
『残念ながら俺とあんたじゃ見た感じ歳が離れてる…
30以上といったところか?少なくとも20代はなさそうだな…俺の守備範囲外だ嫌われる事なんて気にする必要はないぞ、おばさん』
(多少煽ったところで易々と手は出さないだろう…今まで幾らでも手を出せる隙はあった…)
蓮は謎の女性を煽った。
『おばさんねぇ…別に言われ慣れてるから今更って感じね…それにしてもやっすい挑発ねぇ…ありきたり…センスの欠片もないわ…せめて煽るならもっと鋭く来なさいよ…
それにエリナリーゼって名前があるがあるから、呼ぶならおばさんじゃなくてせめてそっちで呼びなさい…』
『長い名前だなぁ…やっぱりおばさんの方がしっくり来るな…
それにその格好魔女のコスプレのつもりか?いい歳こいて痛いぞ?』
(煽っても魔法を出す気配がない…あえて時間を使っているのか…?何のために…?)
『魔女…?コスプレ…?
あぁ!貴方!やっぱり異世界人なのね!
そうよ!この格好は異世界の魔法使いの格好らしいわ!
この格好しかり…箒を乗り物にするだなんて異世界の人のセンスの良さは最高よね!
貴方の煽りのセンスは皆無だけど…
私は異世界文化に興味があるの…色々聞かせてくれないかしら?』
『……』
(やはり…この女…意図的に時間を稼いでいる…此処はリスクがあれど動いた方がいい…)
『うぉおぉぉお!
……あれ…』
バタッ…
蓮は持っていた氷柱をエリナリーゼに向けて投げつけようと振りかぶったが急に力が抜け倒れうつ伏せになった。
『蓮!』
(どう言う事だ…奴の魔法か…?)
フォルスは倒れた蓮に声をかける。
『あら、疲れてたのかしら?無理もないわね…試合後だもの…さぁ貴方も早く横になりなさい…お姉さんが介抱してあげるわ』
(雑談してる間に地中に魔法陣を敷かせてもらったわ…
地中だから当然目視はできないし…消耗しきった魔力と体じゃ地中にゆっくりと敷かれた魔法陣を感知するのは困難…
この魔法は相手の動きに合わせて発動する魔法…動きが大きければ大きいほど脱力の程度が大きくなる…
時使いの彼は既に疲労していたし暫くは動けないでしょうね…)
『……』
(不味いな…奴の魔法の詳細が一切見えてこない…脱力系の別枠魔法が濃厚だが…
発動条件が分からない…魔法発動の動作や詠唱を一切行なっていなかった…
……探る魔力もない…あれに賭けるしかないか…)
フォルスは倒れた蓮を見て思考を巡らせる。
『さぁ…貴方も早く楽になった方が身のためよ…』
『……』
『あら…黙りこくっちゃって…もうどうしようもないって感じね…そのお顔もっと近くで見せてくれいかしら…?』
エリナリーゼが箒から降りフォルスに近づいたその時…
バンッ!
フォルスは足裏から魔力を放出し加速しエリナリーゼに距離を詰める。
『なっ!?』
(魔力を用いた加速!?
彼はカードも魔法も使い果たしているはずなのになぜ!?だけど脱力の魔法陣の範囲内!すぐに失速する!)
(確かに今の僕はデッキを失い…魔法の使用宣言はできないが…
デッキにまだなっていないストレージ内のカードを破棄し魔力を出力することは可能…デッキが切れた時限定のコスパ最悪の手段だけどね…それに…)
ピラ…
フォルスの右手には白い光を発した愚者のタロットカードが握られていた。
(やはり…相手の行動や魔法を阻害する系のデバフ魔法!それならこの愚者のカードが活きる!)
『え…?』
(脱力が効いてない!?)
パッ…
突き出したフォルスの左手を遮るようにエリナリーゼは右腕でガードした。
『触れたね…僕の左手に…
白く輝くフォルスの左手に接触したエリナリーゼの右腕を境に周囲は白い光に包まれ二人は姿を消した。
February×Noise~腐れ縁と異世界転移し世界を救う~ アール @mutekin810
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