第38話 動き出す運命の輪

ブワァ…


 フォルスの流星に纏われた炎を帯びた風と蓮が放った矢の氷を纏った風が衝突し対消滅する。


バキバキバキ!


 その後矢は流星の衝突部の炎を打ち消し露わになった岩を貫いた後、安定性を失った矢は流星の内部で炸裂し流星を瞬く間に凍りつかせ崩壊させた。


(この矢には時の魔力が付与されている…

凍りつく速さも加速する!)


バラバラバラ…


『な…何だと…』

(僕の究極魔法が破られた…それにもう魔力が…)


バタ…


 フォルスは魔力が尽き墜落した。


(だが僕には最後の切り札がある!)


 墜落したフォルスは懐から一枚のカードを取り出した。


『タロットカード宣言!この宣言は一日に一回、魔力消費なしで宣言可能!

 宣言によって22種の大アルカナの内1つが抽選され、その効果を使用することができる!』


『出たぞ!フォルスのタロットカード宣言!』


『絶体絶命のフォルスの最後の切り札!

ハズレが出るから当たりが出るか…それはその日の運次第!』


 フォルスのタロットカード宣言に観客達が賑わう。


『くっ…まだそんな奥手のが…』

(もう魔力も空で動ける体力もそこまでないんだが…)


『タロットカード!オープン!』

(こい!当たり!

現状の

大当たりは

世界、運命の輪

次点の当たり枠が

力、戦車、太陽、魔術師、女帝

当たりともハズレとも言えないのが

月、審判、恋人、女教皇、皇帝、星、教皇、正義、隠者、死神

ハズレが

悪魔、吊るし人、愚者

大外れが

と言った具合だ…カードによってバフデバフはそれぞれ…ハイリスクハイリターンの一発勝負!)


ピラッ…


『愚者か…

これは特に何も起きない』

(敵のデバフを打ち消す効果があるが…現時点ではハズレ…)


『ふっ…頼みの綱は空振りか…その無駄な行い…

 まさしく愚者だな、お互い魔力は無い…殴り合いでもするか?』


 蓮はフォルスのタロットカード宣言の結果を見て煽る。


『ふふ…そうだね、ここは愚者らしく偶には野蛮な殴り合いに興じても良いかもしれないと思ったけど…

 きっとこの結果は戒めだ、これ以上無駄な争いを行うこと自体が愚かな行為…僕はここで手を引かせて貰うよ…

 君の勝ちだレン=キサラギ、僕の究極魔法を破ったのは君が初めてだ誇っていい

 今日君と戦えたそれだけで十分さ…』


『ここで決着ゥウゥッ!

勝者!レン=キサラギィイイィイ!

ソウ=オトムラに続いてまたもCランクがSランクを喰らったァアァアァ!今回の大会は荒れに荒れているゾォォオォォ!』


『いや〜マホオタ氏…思わず見入ってしまいましたねぇ〜…』


『とんでもない…ことですよこれは…』

(いくら高出力の魔力を圧縮した冷気を放ったにしても…放たれた速度と冷却速度があまりにも速すぎる…

 私の見立てが正しければ恐らく時の魔力…彼の身の安全の為あえて解説は控えたが…これは世界法則を変え得る魔力…

まさか生きている内に目の当たりにするとは…)


 実況のサングラと解説のマホオタは試合後に語り合った。


『これにて!一回戦は終了だ!二回戦準決勝は一週間後だ!

 選手の皆んなそして会場の皆んなもしっかり休息をとってくれよな!それではまた会おう!皆んなありがと〜う!』


『いや〜凄かったな…思わず魅入っちまったよ…』


『一日目の奴と続いて、とんでもないCランクが現れたな…』


『Cランクって何なんだろうな…』


『フォルスが究極魔法放ってタロットカード宣言までして勝てなかったって冷静に考えてやばいよな

 フォルスの全力と第二の超新星の誕生…俺的本大会ベストバウトだわ』


『いや、流石に侍とアレンだろそこは』


観客は一回戦の感想を楽しそうに語っている。


『レン=キサラギ、最高に熱い決闘をありがとう

 次の対戦相手はあの特級魔道士のレオナだ全力の僕を打ち負かした君なら勝機があると信じてる…』


 フォルスは蓮の下まで近づき握手を求める。


『蓮でいい、こっちこそ楽しませてもらったよ、それにしても随分と楽しそうな魔法だったな…

 カード作成や対面に合わせたデッキ構築に加えてタロットカードによる逆転要素…

 面白い要素しかないな』


『ハハハハッ!分かってくれるか!僕の魔法を楽しそうだと言ってくれたのは君で二人目だ!』

 

タタタタッ…

ギュ…


 シエルは試合が終わった蓮に涙目になりながら抱きつく。


『シ、シエル!?』

(今日はやけに感情が出ているな…

まぁ今回はその熱量に救われたのだが…)


『身内の祝福に水を差すのは良くないね…

僕は下がらせて貰うよ』


『フォルス!』


 シエルの後に続いたレオナがフォルスに声をかける。


『蓮の身内である私がこんな事を言うのもおかしな話だけど…

 何気に私達戦った事ないし貴方となら熱い試合ができると思ってたから今回の大会であんたと戦いたかった…』


『……そう言ってもらえるのは光栄だが…

 僕はあまり気が乗らないな…君に勝つ可能性が出てくるのは世界か運命の輪を引くことが前提となる』


『へぇ…負けるとは言わないんだ』


『勝つも負けるも、運命の導きによって決まるのさ…』


 フォルスはそう告げ会場を後にした。


『蓮!』


 音村は蓮を呼び拳を突き出し合わせを求める。


『フッ…』


トンッ…


 蓮は少し笑い音村と拳を合わせた。


『蓮凄かったよ!フォルス氏は昔、特級の任命を断った人なんだ…

 つまり特級クラスの相手に勝ったことになるよ!』


 レオンは蓮の勝利を讃える。


『まぁ…事前に情報はある程度貰ってたし、むしろこっちが初見殺ししてたまであるからな…

 次やったとしても対策練られてこう上手くはいかないだろうな…』


 レオンの称賛に蓮が答えた。


『蓮君!見事だった!氷輪の扱いに氷の矢…魅力が詰まったいい試合だったぞ!』


『うん!蓮や騒がこんなに育ってくれて!先生嬉しいぞ!』


 レオンに続いてアイリスとレオナが蓮に称賛を送る。


『ふっ…そりゃどうも

魔力も空だし、体も怠い…直ぐにでも医務室で横になりたい気分だ…』

(とは言っても…賊が襲撃する可能性もある…油断はできないな)


『お、肩貸そか?』


『あぁ、助かる』


 音村は蓮を支え、一行と共に闘技場を後にした。


(さて…折角だから彼らを占っておくか…)


ピラッ…

(塔の正位置…不吉だ…これはそう遠くない未来に彼らに災いが訪れる事を暗示している…

 少し気にかけたいところだが…いかんせん魔力も空でタロットカードも使えない…

 恐らく何の役にも立てないだろう…

……忠告だけでもしておこう…)


『……君達に忠告しておこう』


 闘技場の入り口で一行を待っていたフォルスが声をかけた。


『ん?フォルスどうしたの?』


 フォルスの声掛けにレオナが答える。


『……君達には塔の正位置が出ている…最悪の結果だ…僕は力になれないが、忠告だけでもしておこうと思ってね…気を付けてくれ。

 僕の忠告で運命が回り結末が好転ことを願うよ…それだけ伝えておきたかった…

 僕は宿に戻って寝るとしよう流石に疲れたし』


『……フォルス…忠告ありがとう…危険なのはあんたもなんじゃない?魔力切れの護衛無しのSランクなんてカモもいいところよ』


『……』


ピラッ…


 フォルスはタロットカードで自身を占った。


『運命の輪の逆位置…アクシデント…事態の急速な悪化…あまり良いものではないな…』


『一人で居るのは危険よ、あんたが回復するまで私達が見護るわ』


『魅力的な申し出だが…魔法もタロットも使えない僕は正直言ってお荷物だぞ?』


『いーの!そんなの気にしなくって!安全に越したことはないのよ!

 それにあんたと私達って運勢最悪でしょ!マイナスとマイナスを掛けたらプラスになる理論よ!』


『はぁ…ではお言葉に甘えさせて貰うよ…』

(マイナスとマイナスで更にマイナスになるとは思わないのか…?

 まぁ、多少なり運命が動くかもしれない…)


 レオナはフォルスを護衛対象に加え、フォルスと一行は医務室に戻った。


『蓮!フォルス!いい試合だったぜ!

にしても蓮すげーな!フォルスに勝っちまうなんてよ!愚者が出たから良かったが…

 俺は世界を引かれて負けたことあるんだぜ!』


 アレンが笑いながらフォルスと蓮を向かい入れた。


『凄いな特級一位に勝ったことがあるのか?』


 アレンの発言に蓮が驚く。


『あぁ、あの決闘は人生最良の一戦だったよ』


『あら、まだ若いのに人生最良ってのは気が早いんじゃなくて?』


 フォルスの言葉にカノンが反応し、医務室は賑やかな会話が広がっていた。


チラッ…

(リンがいない…)


 レオナは不審に思い辺りを見渡す。


『ギル、リンは何処かしら?』


『さぁ…お花でも摘みに行ったんじゃないでしょうかね?』


 レオナはギルベルトにリンの居場所を聞きギルベルトが答える。


『それはない、リンは私の魔力を持っている…遠くに行ってないなら直ぐ感知できる…

 蓮達の試合が終わる前まではリンは居たし、短時間で私の感知の範囲外に出るのはおかしな話…

 移動の反応もなかった、まるで瞬間移動をしたかのような…そんな感覚だったわ…

 これだけの猛者が勢揃いしている中で賊が一瞬でリンを攫うことはまず不可能…絶対誰かが気づくはず…』


『……何が言いたいんすか?』


『ギルベルト…あんたが一番リンに近いところにいた…

 あんたが一番皆んなの目を盗んでリンを"どうにかできる"ってわけ…方法までは見当はつかないけど…』


『出来る出来ないは別として俺がリンを何処か"遠くに飛ばす"理由がないっすね…』


『私は"どうにか出来る"とは言ったけど、"遠くへ飛ばす"なんて一言も言ってないよ?

 墓穴を掘ったねギル…』


『はぁ…まさかこんな早々に目を付けられるとは思ってなかったんすけどねぇ…

 特級魔道士序列三位爆裂令嬢レオナ…とんだ食わせ者っすね…

 こっちとしてもまだ準備が不完全だったんすけど…仕方がないってやつっすね…』


『ギル…正直あんたを疑いたくはなかったけど…そうこう言ってられなかった…

 貴方が黒だったこと心底残念に思うわ…

死なない程度に壊してあげる!』


 レオナは炎を拳に纏いギルベルトを襲う。


(やむを得ないっすね…術式が不完全のまま転送を行うしかない…)


『神魔転送陣!』


 ギルベルトが詠唱を行い右手を地面に着けると白い光を帯びた魔法陣が地面に広がった。


『なんだこりゃ!?』


 音村が驚き叫んだのも束の間…音村を含めた医務室にいた者全員が姿を消した。

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