お酒道中膝栗毛
ルっぱらかなえ
第1話【酔っ払い失敗談】旦那の友人たちの前でウクレレを抱えて眠る
旦那の友人。それは近くて遠い存在だ。ましてやこの年になると、旦那の友人、その妻、そしてその子と交流が生まれるようになる。
家族対家族の付き合い
小さい頃、大人同士の付き合いを見て「なんだか大変そうだなぁ、でもおもしろそうだなぁ」なんてぼんやりと思っていたそれの当事者になったというわけだ。
わたしにたがわず旦那もお酒が大好きなので、その友人たちの多くもお酒が好きだ。そうすると「遊ぼう」となった時にはほぼほぼお酒というアイテムがついてくる。
「母になったら泥酔することはなくなるだろう」抱いていた淡い期待は消えたわけだけれども、どこかで旦那の友人家族と飲むのであれば、わたしの理性はわたしの知らないところでビンビンに働き、なんだか知らないけれど酔っぱらわないに違いないという自信があった。なぜだかうまく言えないけれど、「まあ大丈夫でしょう」という強い自信があったのだ。
ある日、家に旦那の大学時代の友人家族が遊びにくることになった。旦那は家を掃除し、わたしはたんまりと料理を作った。人が家にくるのは楽しい。ましてや夜一緒にお酒を飲めるなんて最高だ。その友人夫婦は旦那のとても仲の良い友人で、話をよく聞いていた。
夕方早めの時間から宴会スタート。わたしたちはよきペースでお酒を飲み続けた。ビールから始まり、スパークリング、赤ワインと飲み進めていった。ホストとしてわたしは最初ちょこまかとよく働いていたと思う。追加のつまみを出したり、空き缶を片付けたり。「は~い!わたしよき妻でしょう」みたいな空気をぶんぶんと振りまいていたような気がする。
しかし脳がたっぷりとアルコールを吸い込み始めた頃、なんの会話がきっかけだったのか忘れてしまったのだけれど、マキシマムザホルモンの話になった。わたしの愛する日本が誇るロックバンド!
マキシマムザホルモンという単語が出た瞬間に、わたしの中のなにかのスイッチがかちりと入った。テレビボードの引き出しからDVDを取り出し、大音量でセット。軽くヘドバンしながら1曲1曲のすばらしさを語った。語ってしまった。いい嫁モードはぱたりと終わり、完璧に腹ペコモードへと移行したのだ。
ヘドバンをすると当然だがお酒がまわる。しかしワイングラス片手にするヘドバンは実に気持ちがいい。
ホルモンの曲を全身で感じながら、そして熱く語りながら、わたしはただ一人自分の中の「酔いレベル」を着実に高めていった。ぐるぐるとまわる世界の中で覚えているのは、笑う旦那の友人と、同じく笑う旦那友人の妻と、子のお世話をしている旦那の姿と、色鮮やかなライブ映像。なんだかおもしろくて仕方なかった。
そしてハッと意識を取り戻した時には、深夜だった。部屋はしんと静まり返り、真っ暗だった。そしてわたしの腕の中にはなぜかウクレレがあった。
状況がまったくわからない。
なんのこっちゃか全くわからない。
頭を振ってみてもなんにも思い出せなかった。まさか習い始めたばかりのウクレレでホルモンを弾こうとしたのだろうか。それともエアーギター風にウクレレで一発パフォーマンスでもしたのだろうか……
なんにせよ、「旦那の友人家族の前で酔っぱらわない説」が崩れたことにショックを隠せなかった。なぜ……どうして。わたしのビンビンに働くはずだった理性は一体どこに行ってしまったのか……
途方に暮れて寝室にいくと、旦那が子供とともに眠っていた。ごうごうといびきをかいて気持ちよさそうに眠っているお腹をゆすって無理やり起こす。「ちょっと、なんか記憶がなくて……ごめん!」
旦那は細い目を細くあけると、「……どんまい」そういってまた深い眠りへと落ちていった。
(あーやっちゃったなぁ)
反省をしようと思っても、脳は記憶機能を停止しているらしく、途中から全くなにも思い出せない。
(もしエアーギターを披露してしまったとするのならば……どうか明日の朝にはみんなの記憶もきれいさっぱり消えていますように)
無謀な願いとわかりつつも、祈りながらわたしはアルコールに引きずられるようにして深い眠りへとついたのだった。
お酒道中膝栗毛 ルっぱらかなえ @beer-ppara
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