最後の騎士と女勇者の鎮魂歌

@Naoto_kurogane

第1話 プロローグ


かつて、この地には魔王が存在した。



魔王は世界に君臨後はたった二日間で世界の九割を征服。 逆らう者全てを処断し、自身に屈した者は自身の力で魔物に変えて私兵を増やしていた。



魔王軍が通った場所には人が暮らしていた跡なんて残らない程悲惨な惨状へと変えられていた。



万が一生き残りが居たとしても、その人間は老若男女関係なく、自身の住んでいた場所で起きた惨状を目の当たりに出来ず、心的外傷を背負う事になった。



魔王君臨から五日後、周辺諸国が壊滅していく中で魔王軍の侵攻を追い返していた国があった、その国の名前は『聖王国 アルドラ』。



その王国は小国であるが為、魔王侵攻前まではあらゆる国や周辺諸国の侵攻に晒されていた。 それが幸いしたのか、この国は国としての闘い方が分かっていたようで、 魔王軍の侵攻を三日間追い返していた。


しかし、三日間魔王軍の侵攻を耐えた代償は早くに訪れた。


魔王軍の侵攻を跳ね除けても、怪我をする人間は増え続ける。 食糧も十膳には揃っていない為、国内での民と民による略奪や簒奪。 殺し、殺し合い。 報復から報復。


国内であらゆる物が人によって奪われ続けた。


そんな国に、世界に、自国の民の荒んでいく状況に嘆きを覚え、立ち上がった者が居た。


そのもの、名をテレシア・アストライヤ。


燃え上がる炎の色を宿す長髪に、凛とした表情を持つ女性で、立ち上がった時の歳は15歳の少女期だった。


ある日の朝、国政が機能していない城の城壁で彼女は宣言をした。 何年掛かっても必ず魔王から世界を取り戻すと。 力強い声で、澄み渡る声で、そう宣言をした。


しかし、いきなり現れた何某を信用する程、今の自国の民達は余裕が無い。


無論、それに反論する声が出た。


罵声が飛んだ。


嘲笑の声が飛んだ。


絶望の声が飛んだ。


諦めの声が飛んだ。


自国の民は既に何も希望を持っていなかった。 既に諦めていた。 何も望んではいなかった。


そんな声をテレシアは同じ声で吹き飛ばした。


嘲笑の声には、信頼するように説得する声を。


罵声には、未来を見せてみるという説得を。


絶望の声には、 希望を見せるようという説得を。


諦めの声には、 絶対諦めないようにする説得を。


あらゆるネガティブを彼女はポジティブに変えた。



必ず取り戻すと、 必ず平和な世界を皆に見せると。


テレシアは告げた。 今から行う行動で、自分を判断して欲しいと、 自分が希望を見せたら、二度と絶望をせず、 希望を信じて、明日を生き続けてる事を。


テレシアは小国の城門に走り、 門の外に出る。


そこには、魔王軍の軍勢がいた。 今まで撃退した事のない者達がこの小国を落としにきていた。


軍の数は百人。 小国の規模しかない国にとってはかなりの数であり、 今まで撃退してきた軍勢の数ではないと、兵士を含めた民は酷く怯えた。


あんな小娘じゃあ駄目だ。


ここで終わるんだ。


諦めの声が国を包み込んだ、 もう駄目だと、誰も彼も諦めた時。


テレシアの剣線が一人の魔王軍の魔物に当たる。


か細い腕で。


剣は長剣に届かない短剣で切られた。


剣に当たった魔物はゲラゲラと笑う。


見掛け倒しかと思われたその一撃。


テレシアが初めて斬りかかった魔物はテレシアを殺そうとしたが、 魔物が動いた次の瞬間、


魔王軍とテレシアの前で、


両断された。


今まで何も才能がない人間が魔物を殺したという事実は無かった。 この出来事に魔王軍は酷く驚いた。


……それもそうだ、格下と決めていた人類が自分達魔物を初めて、人間の手で殺された事を。


たまたまと、まぐれを疑うものも居たが、 テレシアは次々と魔物を斬り捨てていく。 その光景をみた魔物は急いで構え始める。


だが、そんな準備をテレシアは見逃さない。


弱い自分達が、強い相手に立ち向かうためにはどうしたら良いのか。 テレシアが出した答えは後世にも伝えられる言葉となった。


『動く前に相手を倒す』


これを実践出来る者は早々居ない。


しかし、テレシアは初の戦闘でそれを行い、次々と魔物を倒していった。 魔王軍は初めて国を攻めてきた数より半数以上に減っていた。 テレシアによって斬り捨てられた魔物の残骸が辺りに転がっていた。


魔物の死因は様々だが、どれも、テレシアによって斬り殺された事が分かっていた。


テレシアがある程度魔物を倒した後、今回の侵攻を支持していた長が現れた。 背格好はテレシアの倍はあり、筋骨隆々の頭にツノが生えていた魔物だった。


テレシアは、その魔物に、こう尋ねた、とされている。


この軍勢はあなたが?


魔物はゲラゲラ笑いながら肯定した。


では、あなたを倒したら、軍を引き、ここへの襲撃を止めるようにと。


この時の声は民も聞いていた。 城門の上より見ていた兵士は、無謀の声を挙げた。 テレシアの倍以上ある魔物を倒せると思う程、馬鹿では無い。 ここまで魔物に優位に立てた人物は今まで居なかった。


ここで彼女を、失うのは人類の損失と考えたものも居た。


しかし、テレシアは魔物を討ち取ると血で汚れた剣を構えて宣言をした。


「私は、絶対に勝つ!」


魔物は身分も弁えない目の前の人に呆れを見せた。 馬鹿じゃねぇのかと。 ただの人が何人も人を殺している自分を殺せるものかと。


絶対に負けないという絶対的な肯定。


自信が溢れていた魔物。


しかし、それが、この魔物の運命を決定づける事になるとは、思わないであろう。


テレシアは剣を構え直し、構え直した剣をテレシアは思いっきり振り下ろした。


その瞬間、魔物のツノと右肩に傷が付いた。 付けた傷は浅いが、 そこには、人間につけられた痕がくっきりと残った。


魔物は、テレシアに向かって、激昂した。


ツノを切り落とされた事より、 自分の自慢の身体を自分が舐めてかかっていた女に、剣筋もままならないただの素人に、 傷を付けれた事に。


魔物は自身が背後に背負っていた大剣を抜き、テレシアに襲いかかった。 体格差が違いすぎるテレシアは徐々に追い詰められていった。 装備していた胸当ては破壊され、 綺麗な顔には大剣による深い傷が刻まれ、 長かった髪は大剣を避ける際に斬られてしまった。


テレシアが倒していた魔物達には苦戦をしなかったテレシアだが、 ツノが生えた魔物には手も足も出ずに、ボロボロにされていった。


国は再び絶望に呑まれた。


小さな魔物を退けていたテレシアに希望を抱いていた民だが、ツノの魔物にボロボロにやられるテレシアを見て、 勝てない。 その四文字が頭によぎった事がきっかけで、また、絶望に呑まれた。


魔物が振り下ろした一撃で、テレシアは遂に倒れてしまった。 無様にも地面に倒れてしまい、その衝撃で自分が使っていた剣も折られてしまい、もうテレシアに反撃の術は残されていなかった。


ツノの魔物はテレシアにもう諦めろと諭す。 ツノを折った事は許そうと、 今回のことで、其方の強さを認めよう。 この国には二度と侵攻はしない。 だから、ここで諦めろと。


しかし、テレシアは諦めなかった。 例え剣が折れても、例え体格が倍ある者でも、眼に宿る闘志は失せる事はなかった。


ツノの魔物は、テレシアの眼を見て、動揺を見せるが、 諭す表情を変えなかった。


その声は民にも聞こえていた。


民達は、言葉こそ出してはいないが、 傷を受けていくテレシアを見て、 諦めろ。と、もう立ち上がるな……と。


自分達の為に傷ついていく彼女を見てられなかった。


しかし、その声を一蹴するが如く、 テレシアは立ち上がり、声明で見せたあの声を使い、大らかに言葉を唄った。


「私は諦めない。 アンタ達、魔物からこの世界を救うまで!」


テレシアは折れた剣を構える。


剣士にとって折れた剣など、意味のない品物だ。 自慢の剣技も刀身が無ければ話にならないからだ。


魔物は嘲笑う。 折れた剣で俺に勝てるわけがないと。


テレシアはその笑いを受ける前に動いた。


瞬時の速さに魔物は対応が遅れた。


その慢心こそ、 かの魔物が敗れるきっかけとなった。


次の瞬間、テレシアの持っていた剣に紅蓮に燃え上がる焔が宿った。 その色はテレシアの髪の色と同じ、燃え上がるの色だった。


魔物も応戦をしょうとする。 しかし、テレシアの方がコンマ差で早かった。


燃え上がる剣を使い、テレシアは魔物に一閃を入れた——


***


次の瞬間、ツノの魔物は業火に包まれた、 魔物は踠き始めたが炎は止まる事はなかった。 その炎は魔物が生き絶えるまで燃え続けた。 魔物が居たであろう、その場所には 黒く燃え尽きた魔物の炭だけが残されていた。


ツノの魔物が、自分達の指揮官が討ち取られた事により、周囲を囲っていた魔物達は一目散に逃げていった。


その光景を見ていた民の一人が大らかに宣言した。


「遂に! 魔物達は倒された! 彼女は宣言通りに魔物を退けたぞ!!」


舞い上がった歓喜の声。自分達が魔物に敵う事。もうやられるだけじゃないと。


今日、この日。英雄テレシアが生まれた!


***


それからの事。 英雄テレシアはどんどん魔物達を倒していき、 魔王に占領された地域を解放していった。 魔物を倒していくテレシアに憧れた者達は、テレシアを応援していった。


その過程で、 テレシアと共に戦おうとする人物が、四人・・集った。


それぞれの大陸の長や、その地で名を馳せていた戦士達が、テレシアの元の思想に同意し、 テレシアの願望を叶えようとしたからだ。


まるで王国の騎士のように美しく、 騎士団の様な黄金の精神を持ち合わせる行動力。その姿を見た民達はある言葉で彼女らをこう総称した。


桜華騎士団おうかきしだん》と。


桜花騎士団の活躍は何年も経過した今でも語り継がれている伝説であり、現代では神話としての側面も持ち合わせている。


桜花騎士団結成より、十年の月日が経ち、 遂にテレシアは魔王を討伐。 テレシア率いる桜花騎士団はテレシアがかつて住んでいた故郷にテレシアを女王とした国、《桜花王国》を建国。


それよりは栄光の話。 全ての者は平和に、楽しく暮らしたとさ。




——桜華騎士団伝記 第一冊 英雄凱旋 女王勇者 テレシア より抜粋……


**


風景は変わり、 ある家の一室。 テレシア伝記を読み終えた女性が本を閉じた。


「——以上よ、どう? テレシア様の物語は?」


「すごかった!」


女の子は興奮気味に感想を言った。 凄く、素直で率直な意見だった。


「ふふ、 確かに凄かったね。 ねぇ、貴女は大人になったら何になりたいの? お母さんに教えてくれない?」


母親は女の子に向き、夢を聞いた。


「うん! 良いよ! 私の夢は……」


**


「私の夢は〜……」


「おい、お客さん。 着いたぜい」


業者が肩を揺すりながら少女を起こす。 少女はかなり爆睡しており、 業者が激しく揺さぶっても一向に起きようとはしなかった。


「お母さん……」


何の夢を見ているのか、少女は寝言を言っていた。


「おい! 着いたって言ってるだろ!! お客さん!!」


いつまでも起きないお客に遂に痺れが切れそうになる業者、 荒事に発展しそうになった時に、業者の肩に手が乗った。


「ちょっと良い?」


「あん? 今取り込み中……」


「この子、一度寝ると、ある手を使わないと起きないのよ…… だから、ね? 私が彼女を代わりに起こすわ。 だから任せてもらえるかしら?」


 その後ろに居たのは寝ている少女と同じ髪色をした女性だった。髪型は短く切り揃えており、体形はかなり良く、見た目も美しかった。


「ふぅ~……」


 女性が思いっきり息を吸い込むと、寝ている少女の前でこう言い放った。




「起きなさい!! 英雄を目指しているなら寝坊するな!!」



***



 その声は大気を揺らした。彼女をお淑やかと思っていた男たちは絶句し、驚いていた。 あんな綺麗な女性があんな声を出せることにも驚きを隠せないでいた。


「うわぁあ⁉ 英雄⁉ え⁉ 誰がなるの⁉」


「あんたがなるんだろ? しっかりしな、アリア。」


「って、クレア姉様⁉ ど、どうしてこの運搬タクシーに居るのさ⁉」



 クレアと呼ばれた女性は呆れながら、アリアが思っている疑問の答えを投げた。



「アンタが今日からアタシの騎士団の見習いになるって言ったんだからこうやってわざわざ迎えに来たんだよ。」


「あ、あれ~? そうだったけ……?」



 アリアは頬を掻きながらクレアより向けられる視線を避けていた。


 その態度にクレアは更にクレアに怒りを募らせた。



「そうだよ! 着いたと思ったら運搬タクシーで寝こけるなんて、うちの騎士団の恥を晒すんじゃないよ!」


「ご、ごめんなさい! そんなに怒んないでよ! クレア姉様!」


「ここは家じゃない! 私の事は、クレア団長と言いな! 分ったかい!」


「は、はい!! 分かっ、分かりました!」



 クレアの恐ろしさを改めて痛感したアリアであった……

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