第4話罠

黒井川警部と川崎巡査はスガキヤラーメンを食べていた。

名古屋のソウルフードだ。

「黒井川さん、やはり自殺未遂じゃないですかね。灰皿には燃えカスが何本も入っていたので、毒薬も消えちゃったんじゃないですか?」

黒井川は、麺をすすっている。そして、お冷やを飲んで、

「アイツ、ミステリー小説家だよ。本じゃ、物凄いトリック考えてるんだから」

「でも、あの先生。羽弦先生じゃなくて、ブリュヴェールさん。回復すれば、1番目楽なんですけどね」

「君!」

「何ですか?」

「チャーシューは食べないの?」

「美味しいものは、最後に食べるんです」

と、川崎は笑った。

「……君、川崎君。お手柄だよ」

黒井川は、ニコリと笑った。

「証拠見つけちゃった」


犯人は、十中八九、羽弦です。

今回は、犯人に罠を仕掛けたいと思います。自白に追い込めば、こっちのもんです。ま、続きを。


羽弦は45分の点滴を済ますと、病室から出た。

すると、黒井川と川崎がロビーにいた。

「先生、ブリュヴェール先生の意識が回復したみたいです」

「……か、回復」 

「いま、一般病棟に移られました。会いに行きましょう」

「分かりました」

羽弦はまた、吐きそうだった。


「ブリュヴェール先生、この度はどうも」

ブリュヴェールは、目を羽弦に向けている。何か言いたそうであった。

「あなたは、昨夜は何をされていたんですか?」

と、黒井川が尋ねると、

「わ、分かりません」

「何も?」

「羽弦君」 

「は、はいっ」

黒井川は羽弦をブリュヴェールの近くに押す。

「私、何でここにいるの?……あなた、何か知ってない!」

「何かって?」

「私が何故、病院にいるのか?」 

「き、君は、自殺未遂したんだよ」

「……そう」

ブリュヴェールは目を閉じた。


3人は、主治医の説明を聴いた。

毒薬はテトロドトキシンで、点滴で解毒したらしい。記憶も、曖昧な所はいずれ思い出すとのこと。


羽弦はコンビニへ寄り、缶ビールを飲みながら、事務所の椅子に座っていた。

しまった!トドメを刺しておけば良かった。

いずれかは、ばれる。

インターホンが鳴る。出ると、黒井川だった。

チッと舌打ちすると、玄関ドアを開いた。

「先ほど、ブリュヴェール先生から全てを聞きまして」 

「……」

「上がっても宜しいですか?」 

「どうぞ」


「缶ビールですか?」

「えぇ、疲れましてね」

「極めて大事な話しがあります」 

羽弦は、知らぬ存ぜぬを貫けば良い。

「この殺人未遂の犯人は先生です」

「ほう、面白いじゃないですか」

「あなたは、昨夜、ブリュヴェール先生に毒薬入のタバコを吸わせて、現場を去りましたね」

黒井川は、羽弦を薮睨みしている。

「あなたのウワサは最低です。共同執筆のミステリーも殆どがブリュヴェール先生が書いて、あなたはスポークスマンに過ぎなかったと先生は話されていました」

「それと、殺人未遂の因果関係はどうなるんだ?」

「はい。昨夜、ブリュヴェール先生に最後に会った人物が犯人です。自殺に偽装しましたが、あちこちに穴がありましてね。こんな、ずさんな殺人未遂はないです。簡単です。犯人は先生です」 

黒井川は、羽弦を指差した。

「あなた、たまにトリックを考える事があっても、殆どがブリュヴェール先生の文章。ですから、あなたの犯行も素人です」

「それで」

「あなた、私がブリュヴェールさんの事を話すと、直ぐに病死ですか?と、言いましたね」

「あぁ」 

「何故、病死だと思われたんですか?」

「それは、君が倒れたと言ったからだ」

「何故、倒れたら死ぬんですか?あなたは、ブリュヴェール先生を殺したと勘違いしたから、死んだと言ったんです」

「……」

「ま、今から病院へ行きましょうか」

「ブリュヴェール先生があなたと、お話ししたいようなんで」 

「……もう、いい」

「犯行を認めますか」 

「チェックメイトだな」

羽弦は缶ビールを飲んでから、

「私みたいな、男がミステリーなんて似合わないや」

「でも、あなたは、ミステリーのホントの良さを広げています」

黒井川はタバコに火をつけた。

「ブリュヴェールにバラされる前に、自首した方がマシだ」

「あの〜、先生。一言言っておきますが、ブリュヴェール先生はまだ記憶は戻ってませんから」

「えっ、話ししたいんじゃ?」

「はい。衣類のお願いを頼まれまして」

「私を騙したのか?」

「いいえ。ありのままを伝えました。やましい事がある人間は勘違いし易いですからね」

「さ、行きますか」

「じゃ、いいよ」

と、言うと外にいた川崎が羽弦の両手首に手錠を掛けた。

黒井川は、タバコを灰皿に押し付けて現場を去った。


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羽弦トリスの犯罪 羽弦トリス @September-0919

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