第3話ほころび

川崎巡査の運転で、中部ろうさい病院へ黒井川警部と羽弦は向かった。

「意識が戻ればいいんですけどねぇ?先生」

「そ、そうですね」

羽弦は、どうか死にますようにと願っていた。

「あ、そうそう先生。どうやって、服毒したか興味ありませんか?」

「別に」

「タバコなんです」

「タバコ?」

「はい、タバコに毒薬を染み込ませて吸った可能性が高いと、病院関係者から伝えられたのですが」

羽弦は外を見ながら、

「黒井川さん、それは理解しましたが、何で私に言うのですか?」

「すいません。プロのミステリー作家先生のお力が欲しくて。で、うちの鑑識がタバコを調べると、毒薬の染み込んだタバコの吸い殻無いんです」

「……」

「先生、誰か昨日、毒薬の染み込んだタバコを持ち去った者がいます。恐らく、ソイツが犯人でしょう」

黒井川はタバコに火をつけた。川崎は車の窓を少し開けた。

「黒井川さん、じゃ、遺書はどうなります?あの、サインは本人のものですよね?」

「ま、サインはなぞれば、偽装できますから」

「……」

「警部、着きました」


3人はICUに向かった。

白衣の男性が現れた。

「先生、どんな状態ですか?今は」

「はい、一命は取り留めましたが、意識はまだ。しかし」

「しかし、何ですか?」

「このまま行けば、いつか意識が戻り、会話も可能かと」

「宜しくお願いします」

「分かりました」


3人はロビーに座って、缶コーヒーを飲んでいた。

若い女性の刑事が現れた。そして、ビニール袋に入った紙を持ってきて、鑑定書を渡した。

その刑事は直ぐにその場から去った。

「……ん〜、どういう事だ?」

「黒井川さん、どうしたんですか」

「遺書から指紋が検出されました」

「当たり前じゃないか!」

「しかし、先生。指紋は表に5本の右の指紋だけ。裏には指紋無しです」

「それがどうした?」

黒井川コーヒーを一口飲み、

「普通、紙は摘んで持ちますよね。だから、裏と表に何らかの指紋が付きます。何者かが、ニセモノの遺書にブリュヴェールさんの指紋を付けたに違いありません」

「……誰が無理やり」

「羽弦先生、大丈夫ですか?顔色悪いですよ」

「ち、ちょっと疲れましてね」

羽弦は吐きそうだった。そして、疲労で点滴をしてもらった。


「黒井川さん。調べによると、先生とブリュヴェールさんは相当仲が悪かったとみたいですよ。編集者の間では有名で。印税絡みの揉め事が耐えなかったらしいです」

川崎は、集めた情報を話した。

「動機もある。チャンスもある」

「し、しかし、証拠が」

「そうなんだよ。証拠が無いんだよ」

川崎巡査は、腕組みをして考えた。

「川崎君、ラーメンでも食べよっか」 

「ラーメン?ハイッ」

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