SS回 ルシファの気持ち

私はかつて天使だった。


今も続いているが3000年前に魔族と人間の争いがあった。


私は世界を救いたいと天界の教理に背いて、人々を直接助けたことで私は罰を受けることになった。


堕天の刑に処されて、私は天使としての権力を失いかつての白銀の身体は漆黒に染め上げられた。


堕天の象徴たるこの姿に他の天使は嘲笑と罵声を浴びせた。今は知らないけれど、3000年前では神は人間に堕天した天使は敵とも教えていたくらいだ。


そんな私に洗脳のネックレスをつけられて、魔王が作ったというダンジョンに封印された。


おかしな話だ。実は天使と魔族が繋がっていたなんて……怒りを通り越して呆れてくる。


しかし洗脳のネックレスのせいで、自我はあるのに、決して何もすることはできなかった。唯一許された思考はあの宝杖を守りぬくことだけ。


気づいたら3000年も封印されていた。


しかし、私の封印はユリウス様の手に解かれることになった。洗脳されているとは天使の私の洗脳を簡単に解いたので、すごいお方だ。


ただ、少し気になってしまった。世界を変えるほどの力を持ったあの宝杖を人間が手にした時何が起こるのか。世界を終わらすのか、自分の欲に従って世界の主となるべく動くのか。


どうやらマキナ様はこの杖の価値が分かっているようだった。神々ですら恐れたSSS級の武器。手にした者は天候を操り、全世界の覇者になれることで叶えられる。そう、おとぎ話に出てくるような誰もが憧れる最強の武器だとういうことに。


だけど、私の予想とは大きく異なった。


「いらない」


そう、どちらでもなかったのだ。


ユリウス様は心底嫌そうな顔をしていた。マキナ様に杖の価値を教えられてなお、使用を拒否するユリウス様に興味が湧いてしまった。


その後、私はユリウス様の家でお世話になることになる。


最初は私とユリウス様とマキナ様の3人だったが、気づけば水竜族の姉妹アクアとクリアもユリウス様の家で過ごし始めたとある日の頃。


「はぁ……」


 机の上で水竜族のアクアさんが溜息を吐いていた。机に伏していて明らかに悩んでいる様子だった。


「どうされたのですか?」


「あぁ、ルシファさん……実は少し悩んでおりまして。良かったら聞いてくれませんか?」


 どうやら、深刻そうな悩みだった。


「私でいいんでしょうか?」


「今、頼れるのがルシファさんしかいないんです~!!!」


 正直、久しぶりに人に頼られて嬉しいと思っている自分がいる。


「そ、そうですか……それで何を悩まれているんですか?」


「実は……ユリウス様にどうにかお礼をしたくて」


「お礼?」


「はい。どうしたら助けられたことへの感謝を伝えたくて」


 その気持ちはなんとなく理解できる。私もユリウス様には感謝を伝えたい。


「感謝ですか……それは宴の時にされたのではないですか?」


「それは一族としての礼です。今度は私が個人的にお礼をしたいんです」


 真面目な子だと思った。こんなにも良い子なのだし、私としても相談に乗ってあげたいと思った。


「それで、どうしよかなって」


「そうですね……それは素直に伝えるしかないのではないでしょうか?」


 無責任に言っておいて、自分にも刺さった。


「いや、それだと……本当に喜ぶのかなぁ……」


「ユリウス様は嬉しいとか感謝の気持ちとか伝えると喜んでくれますよ。意外だと思うかもしれませんけど」


「そうなのか……うん。やってみます! ありがとうルシファさん!」


 そう言って、アクアはユリウス様の所に向かった。正直、羨ましかった。


アクアと私が決定的に違う。私にはコンプレックスはあるのだ。それをもしも受け入れてくれなかったら怖い。いや、ユリウス様は受け入れてくれているのかもしれない。


事実、ユリウス様の家で楽しい日々を過ごさせて頂いている。昔を考えたら幸せすぎて怖いくらい。


でも、うん。そうか……私は自分で言ったことに対して、責任を持てない卑怯者になんてなりたくない。アクアにも言ったように、私も勇気を出さないと。


「ユリウス様、変なことを聞いてもいいですか?」


 その日の夜。私は居間で自分の配信動画を見直しているユリウス様に話かける。その努力家のところも私は尊敬している。


「え? 内容次第だけど……どうしたの?」


 アクアは今日の晩飯の時は上機嫌だった。きっとユリウス様に自分の気持ちを素直に伝えられたのだろう。だとしたら、私も勇気を出さないと。


「私って、髪も瞳も翼も全てこの世界の人にはない色をしているじゃないですか。正直、ユリウス様は私のこと気持ち悪くないんですか?」


 私を受け入れてくれた日。その時は私を哀れに思って提案しただけなのかもしれない。


 だって私の時代では黒髪は珍しいらしくて不吉の象徴と言われる黒髪は迫害の対象だった。今も気持ち悪いと思われても不思議ではない。


「とある事情で俺の周りには皆、黒髪で黒の瞳が普通だったんだ。むしろ他の色は珍しかったな」


「そうなんですか?」


「だから安心するんだよな。ルシファの黒色は」


「安心……?」


「そう、安心。あ、俺はそれだけじゃないぞ? ルシファが作ってくれるご飯は美味しいし、なにより優しいじゃないか」


「優しい……? 私が、ですか?」


 私が再び聞き返すと、ユリウス様は照れくさそうに頬を描きながら続ける。


「俺が分からないくらい長い間、色々あったのかもしれないけれど、根本の優しさは変わってないと思うんだ。実際、俺は優しいと思う。だからしばらく家にいてくれて、俺をサポートしてくれるとありがたい」


「ありがとう……ございます」


 私は自身に纏う黒色のせいで嫌われていたらどうしようと内心怯えていた。


 だけどユリウス様はこんな私を受け入れてくれる。この幸せを皆と享受したい。私はこの人と共にありたい。


「ユリウス様」


「ん?」


「私、ユリウス様が嫌だと言っても、そばにいますからね?」


「あぁ、ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」


 ユリウス様は笑顔で答える。その笑顔に私の中で何かが満たされていくような感覚がした。


 この人のために、この人が望むように手助けしてあげたい。


 私はこの感情が愛だと知ったのは少し後の話。



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【完結】実は元最強のプロゲーマー、配信文化が根付いた異世界でようやく実力が認められる〜転生してダンジョン攻略を配信していたらS級ボスを無自覚にボコってしまいました。 東田 悠里 @higashidayuri

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