僕たちの

トリ

僕たち

「おはよう」

そんな決まり文句を言ってユズキはバタバタと準備を始める。

「なんで起こしてくれないのさ!」

ボサボサの髪と寝起きの顔からそう放たれる。

「起こしたよ」

僕は制服の状態でコタツに入りスマホを見ていた。

「ん」

なんの飾り気もないゴムと茶色の髪が絡まったブラシを渡される。僕はユズキの猫毛を撫でながらとかす。

「行こっか」


高校一年生の12月

タメ口で話せる友達も増えた。

僕はあまり話すのが得意ではなく話しかけてきた人と話すくらいだった。ユズキは別のクラスで机を囲まれながら話していた。

「なあお前よくお前の横にいる女の子だれ?」

よく話しかけてくれる秋本という男の子で人懐こい笑顔とたまに見える優しさで男女どちらにも人気だった。

「兄弟だよ」

そう言うとこぼれそうな程大きい目をもっと開ける。

僕とは真逆でキラキラしてる。いいなあ。羨ましい。僕がこんなだったら。なんて嫉妬丸出しなことを考えながら家に帰る。

かばんをおき、買いだめしといたカレーを温めて一緒に食べる。テレビをつけて話しながら食べる。今日の学校の話をユズキは止まることなく話す。僕は相槌も打たずに聞く。同じ部屋で少し離れて寝る。それが毎日だった。父も母もこの家に帰らなくてもそれが、その日々がその日常が僕には幸せでたまらなかった。僕がユズキを連れてきた10年前から。




あの日君は公園で泣いていたね。鼻水を拭くものもない君はぐしょぐしょの顔で砂を濡らしていたね。あのひ母は帰ってなかった。夕方の5時。冬の17時。小さい僕らには真夜中同然に感じた。幼稚園のバスから降りて、チャイムを鳴らしても母は鍵を開けてくれなかった。いなかった。僕はトイレの小さな窓から家に入った。いなかった。いない。誰も。僕は探した。探しに行かなきゃダメだと思ったから。何歩も歩いて。何歩も歩いたのに。まだ近くの公園だった。その時。その瞬間。君は泣いていた。僕も泣いた。僕らは近寄った。薄いTシャツだけの泥だらけの君を見た。手を繋いだ。母さんなんてどうでもよかった。なぜか母さんより、泥だらけの君が、君の方が大切だと思った。


「名前は?」


「ユズキ」


「僕はケイスケ」


手を繋いだら怖くない。怖いものなんてないさ!

涙は止まっていた。君のも僕のも。僕らの涙は。


家に帰った。母はリビングにいた。ユズキを見せると嫌な顔をした。僕は話した。僕は叫んだ。生まれて初めての長い言葉だった。


「お母さん。この子と家で一緒にいたい。ねぇ僕の一生分のクリスマスプレゼントでいいからさ。ねぇお願い。お母さん!」


母は何も言わずにカレーを2つ、棚から出して部屋にこもってしまった。

僕は嬉しかった。それが母の了承だとわかったからだった。僕はユズキに手を洗わせて、風呂に入れ綺麗にした。ユズキは抵抗した。号泣していた。なんで泣いてるのかわかっていないようにも思えた。

1時間かけ風呂から上がりカレーをレンジにいれる。

お米をお皿に出すあったまったカレーを袋から出す。ユズキの目は乾いていた。


それをユズキの前に出す。ユズキはゆっくり口に運ぶ。僕は何も話すことが出来なかった。そんな中で先に口を開いたのはユズキだった。


「ねぇ。なんで私は泣いてないの?朝はお母さんに叩かれた。昼はご馳走だったな。その後私を家遠くの公園に置いていった。悲しかった。悲しかったけどもうどうでもいい。」


君からは6歳とは思えないほど流暢な言葉が発せられた。


「これから僕らは一緒にいるんだよずっと」


そうか。僕はあの時手を繋いだ時強く握り返してくれたユズキに感動したんだ。母の手より先生の手より温もりを感じたユズキの手を一生離してはいけないんだ。ユズキ、ユズキ僕のユズキだから。


手を繋いで寝た。


朝。お母さんはいなかった。どうでもよかった。冷凍の食材が2人分机に置いてあった。





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僕たちの トリ @mmso0423

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