第5話:桂花の正体。

桂花けいかを助けた飛揚ひようは彼女を城に連れ帰った。


国王が若い女を連れて帰ったということで城中ではちょっとした騒ぎになった。

だが飛揚も25才、年頃・・・自分の気に入った娘を見つけて来たのだろうくらいの

ことをみなは思った。


「桂花・・・この城は「祥雲城しょううんじょうまたは祥雲宮しょううんきゅうと言って、この城からは来光らいこうの海が見えて・・・毎夕美しい夕日が拝めるぞ・・・」


飛揚の部屋の前に桂花の世話をするために一人の宮女が来ていた。


「それから、おまえの部屋は私の部屋の隣だからな」


「私は今日から、このお城で暮らすんですか?」


「そうだ半ば、強引におまえを城に連れてきたが他に行くところもなかろう?」

「私はおまえを好きだと言った・・・おまえは私のことをなんとも思ってないかも

しれないが、できれば心を開いて私を受け入れて欲しいと思っている」


「しかしながら私はおまえを決して束縛もしないし自由を奪ったりしない・・・」

「ただ、おまえが族に狙われた以上、放っておくわけにはいかない」


「よって私の目の届くところにおまえを置いておくことが一番よいと思っている」

魏連翔きれんしょうの手下もここまでは追って来ぬであろうからな」


「ここで気の済むまで暮らすがよかろう」

「城下に出たい時はそう言え、私が同伴するゆえ・・・」


「そんな・・・もったいないこと」


「私が自主的に決めたことだ、気にするには及ばん」

「と言うか・・・その・・・私は片時もおまえと離れてるのは嫌なのだ」


そう言って飛揚は上を向いて自分のほっぺたをボリボリ掻いた。

そんな飛揚を桂花が覗き込んで言った。


「照れてるんですか?」


「照れてなぞおらん!!」


「万が一私が留守の時は、そこにいる「愛加佳あいかか」がお前の身の回り

の世話をしてくれるからな」

「愛加佳と仲良くやってくれ」


そんなちょとした戯れをしていると誰かが飛揚の部屋にやってきた。


「飛揚が美しい娘を連れて帰ったと、みなが騒いでおりますぞ・・・」


秋花閉月しゅうかへいげつ」か?」


そう呼ばれた人物は飛揚が異世界に黒龍を倒しに行った時「妖連郷ようれんごう」に導いた香粧山かしょうざんの仙女「秋花閉月しゅうかへいげつで

あった。


秋花閉月しゅうかへいげつは仙女の中でも比類なき美女であり仙術の使い手。

切れ長の瞳に、妖艶な唇・・・肌の色は桂花と同じように透き通るように白かった。

だがその内心は氷のように冷たい。


「飛揚の好みがどのようなものか見にきた」


「物好きだな・・・」


「いずれ「李王喜りおうき 」 の奥方になる娘かも知れぬゆえにな・・・ 」


「娘は今は自分の部屋におる」

「桂花・・・桂花・・・こちらへ」


「ん?・・・桂花ですと・・・」


その名を聞いた秋花閉月しゅうかへいげつは自分の耳を疑った。

くつろいでいた桂花は名前を呼ばれて、あわてて飛揚の部屋に行った。


「国王様、私を呼びました?」


「国王などと呼ぶな・・・飛揚でよいと言ったであろう?」


現れた桂花を見て、秋花閉月しゅうかへいがつは驚いた。


「やはり・・・」


「どうした?秋花閉月しゅうかへいげつ


「この娘・・・魏連翔きれんしょう」の実娘じつじょうではござらぬか?

「飛揚、そもことを知っていて、この娘を連れ帰ったのか?」


「桂花が魏連翔きれんしょうの娘だと?」

「それは知らなかった・・・私は桂花が逆に魏連翔きれんしょうの手下どもに拉致されようとしていたので助けたまで・・・」


「飛揚の父上のカタキの娘だぞ・・・」


桂花はその話を、キョトンとした表情で聞いていた。


「それが誠なら桂花・・・おまえなぜ魏連翔きれんしょうの娘だということを私に黙っていた?」


桂花は、切なそうに首を横に振った。


つづく。


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