_6.楽しむために__

今日は久々に、懐かしい場所に戻ってきた。


あれからもう何十年経ったかはわからない。

もしかしたら百年は経ってるかも。

お兄さんとはもう会えないし、新しい作品も見れない。


お別れのとき、すっごい寂しかった。

こんな感情、お兄さんと会わなかったら知ることもできなかったんだろうな。

楽しいことも生活に必要なことも、沢山教えてくれたお兄さんには感謝しかない。


今まで生きてきた数百年の中で、お兄さんと過ごした時間は一番色鮮やかで、輝いていた。

今も充分楽しめてるよ?

でも、新しいことを沢山知れたあの時が一番だった。


海と砂浜が、夜空の星屑を散りばめたみたいに静かに輝いているこの場所。

ここで会ったんだよね。

あの時はこことは違う場所に行きたい!としか思ってなかったけど、定期的に戻って来たくなる。

お兄さんとの最初の思い出の場所だからかな。



あ、そうそう。人と交流することも増えたんだよ。

仕事仲間とか、友達とか。

皆が皆、私のこと「子供っぽくて可愛い」って言ってくるけど、今はそこまで気にしてない。

子供の方が好奇心旺盛で行動力があるじゃん?

そういうポジティブな面で捉えればいいんだよ。

普通に可愛いって言われるのは嬉しいし。



最近のことをぽつりぽつりと声に出しながら。

水に濡れることなんて気にせずに、拾った木の棒で砂にお兄さんの似顔絵を描く。

しかし、直ぐに波に隠されてしまった。

絵の代わりにとでも言うように、綺麗な貝殻を一つ残して波は引いた。


お兄さんの目の色とほとんど同じ色をしてる。

取っておこうかな。

昔の私ならこんなことしないだろうけど。


貝殻をお気に入りの鞄にしまい、ふと空を見上げると、視界の端に流れ星が見えた気がした。


お兄さんは今頃空の上で何してるんだろう。

前みたいに写真撮ったり小説書いたりしてる?

それとも、生まれ変わって別のことしてるのかな。


もし、私がそっちに行ったらまた一緒に遊んでね。




そろそろホテルに戻ろう。

そう思い立ち上がると、冷たい風が頬を撫でる。



私の残りの人生なんて長すぎて先が見えないけど、暇をもて余すことはもうしない。

世の中には楽しいことが沢山あって、まだ知らないことも沢山ある。

これからはそれを探しながら旅をし続けるんだ。





変わり続ける世界を、長い長い人生に最高の彩りを添えるために、私は楽しいことを探し続ける。

唯一変わらないのは、こんな感じで私のひとりごとが多すぎることかな。

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人生に最高の彩りを ラック @Rack_cat

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