_5.同じばっかりじゃつまらない__

今日は何をしようかな〜ってお兄さんの部屋でゴロゴロしてると、「ふぅ……」と息を吐いて椅子をくるりと回したお兄さんと目があった。


『何してたの?』

「小説書いてた」

『……いいのできた?』

お兄さんがため息つくときって大体、うまくいったときと失敗したときの両極端なんだよね。


「うん。君のおかげでキャラのイメージが決まったし」

『?』

私、何か役に立つようなことしたっけ?


『その小説も投稿してるの?』

「してるしてる。書籍化されてるのもあるよ」

ということは小説家もしてるってことか。

お兄さんの撮った風景写真集も結構売れてるらしいけど、今のお兄さんの目を見れば小説の方も売れるのが丸わかりだ。


『今書いてたの見せてー』

お兄さんの所まで行って胸に飛び込む。

パソコンの画面に目を向けると、小さな文字がずらりと並んでいた。

見えてる部分だけ読んで、内容はほんのりしかわからなかったけど、表現の方法とか言い回しが凄いことだけはハッキリとわかった。


『お兄さんってなんで小説家もしてるの?』

「一つのことだけやってると段々飽きてきちゃうんだよね」

『つまり?』

「写真もだけど、同じものばっかだと飽きるじゃん?そんな感じ」


お兄さんの気持ちがわかるかもしれない。

あの海辺を見つけた瞬間は、”ずっとここに居てもいい”ってくらいには楽しんでたけど、年々その気持ちが薄れていった。

お気に入りの場所には変わりなかったけど、やっぱり少し飽きてた。

それで、変化が欲しくてここまで連れてきてもらったから。


やっぱり、同じばっかりっていつかは飽きちゃうんだね。


『__じゃあさ、もっと他のこともやってみようよ!』

「え?」

『だって、人間って長生きしても精々百年前後じゃん。だったら気になることとか全部やっちゃおうよ!』

私みたいに何百年も生きられるっていう人だったら本当にいつでもできるけど、普通の人は寿命っていう期間が終わったらもう何もできない。

それなら生きてるうちにやれること、いろいろやったほうが絶対いいよ!

私もいろいろやってみたいし。


「気になることか……まだウィンタースポーツ系はやったことないな」

カレンダーを見て、おもむろに何かを調べ始めるお兄さん。

「ちょうど空いてるな」

目の前で着々と予定が組まれていく。

お兄さんが楽しそうにしてて、私もワクワクしてくる。

これから楽しいことがいっぱいできそうだから。

「……よし。今からウェア買いに行くか!」


そう言い笑うお兄さんの目は、すごくキラキラしてた。



* * *



それからは、お兄さんも私も新しいことをする機会が増えた。

何かに飽きたからとかいう訳ではなくて、”気になったならとりあえずやってみる”っていう興味と行動力だけでいろいろしてる。

私は最近だと、画家になるために色使いとか魅せ方とか、いろいろ勉強してるかな。

画家の延長線でイラストレーターもやれたら……って思ってはいるけど、まだまだ難しそう。


スキーとかスノーボードには毎年行くようになったし、三ヶ月に一回くらいはのんびり長旅もしてる。

毎回景色が綺麗な所を探し出してるから、お兄さんは何か鋭い勘的なものを持ってるんだと思ってる。

「こっち良さそう」で向かった先は絶対魅力的な場所なの、すごいよね。


いつか海外にも行ってみたいねって話もしてる。

ネットで写真を見たんだけど、ヨーロッパの建物がここにはない形だったり色だったりで、実際に見てみたくなった。

でも、海外に行くにはまずパスポートが必要だから、当分の間は無理かなってお兄さんは言ってた。




お兄さんと会う前と比べると、本当にいろいろ変わったと思う。

一番は名前を付けてもらえたことだけど、過ごし方だったり夢ができたり。他にも沢山変わった。

失ったものもいくつかあるかもしれないけど、思い当たらないし、今が楽しいから問題ない。

青色一色に近かった生活が、こんなにも色鮮やかになったんだから。



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