15 初めての依頼はやっぱりアイツ

 朝。

 レースのように優しく、澄んだ朝。この異世界でもそれは変わらないらしい。

 けれど、人の活気はいくばかこちらの方が上に見える。気の良い客引きが遠くから聞こえてくるからだ。

 それに釣られてか、あるいはサラリーマンの頃の習慣が抜けていなからか、朝っぱらから街へ繰り出す。

 何となく足を延ばして来たギルド前で、依頼の掲示板を感興にそそられて眺めていた。


「お、シスイのおっさん。朝から依頼の掲示板なんて見てどうしたんすか?」


 ふと、背後から聞き覚えのある人懐っこい青年の声がした。

 振り返ってみると、汗だくでシャツ一枚のリアック君の姿がった。


「リアック君か。朝早いね」

「僕は朝のジョギングっす。いつも街をぐるっと回っているんですよ。シスイさんは見たところ依頼の確認すか? 何か仕事を受ける予定が?」


 その場で足踏みをしながら尋ねる。


「うーん、まだこの依頼のシステムがよく分からなくてね。どんな依頼があるか早いうちに知っておこうっと思って。それとこの街の人ってどんな依頼をするんだろうって見てた」

「なるほど、そういう事だったんすね。それで見ていて良い依頼はありましたか?」

「それがどういう依頼が良いのかよく分かんなくてね。お金はまあ沢山貰えなくてもいいから、気楽にできるようなものが良いなあって思ってるんだけど、そういう依頼この中にあったりする?」


「ふむふむ」と言いながら手を顎に乗せるリアック君。

 それから少し眺めて何枚か依頼のチラシを取って渡してくれた。


「『スライム駆除』と『ゴブリンの討伐 条件 三体以上』、あとは『街道工事』っすかね。この中で一番簡単なのはスライム駆除っすね。スライムほど無害な生物はいませんから。まあ畑はとんでもないくらいには荒らすんですけど。ゴブリンも基本おとなしいんで問題ないとは思うんすけどたまに危険な個体がいたりするので武器は持っておいた方が良いと思うっす。街道工事は名前の通り、道をひたすら造っていく肉体労働なんで定員がないのと、ギルドから無償で食事が提供されるんでオススメっすよ。今日自分は街道工事に行こうと思ってますし」

「おお、なるほど……」


 ちょっと意外だった。

 適当に選ばれて「どれ行ってもあんま変わんないっす」って言われるのを期待していたけど、良い意味で裏切ってくれた。セシアちゃんやダインからは馬鹿馬鹿言われてたけど、本当はしっかりしているのかもしれないな。


「まあ、どれもあんまり変わんないっすけどね」

「君のその期待を裏切らない回答もしてくれるとこ、ボクは良いと思うよ」

「褒められてるのに、なぜかすごく馬鹿にされている気がする」

「じゃあ、今回はスライム駆除にしてみるよ。良いじゃないか、スライム。初めての依頼にはうってつけだ。誰もが最初に出会うモンスターだからね」

「はあ、スライムなんて地域によっちゃいない場所あるっすけど」


 そう言って汗を流しながらランニングへと戻っているリアック。

 その爽やかさは、若さゆえの輝きだろう。

 さて、ではでは早速この依頼を受け付けのに渡すとするか。


 しかし、この時のボクはこの先に待つ、想像を絶する地獄をまだ知らなかった。

 ボク達はまだ知らなかったんだ。




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