13 青い鳥の憩い場
ダイン達に勧められた宿屋は「青い鳥の憩い場」という名前らしい。
像の建つ広場に出て、左手に続く大通りを進んで行くとあるという。
紹介された通りに大通りに入ると、興味を引く飲食店や土産屋、屋台などが並んでいたが、それは一旦後にしよう。そうして十五分ほど歩いていくと、賑わいが少し落ち着いて民家が見え始める。
そんな民家の中で他の建物とは雰囲気の違う、一回りデカい建物があった。
見るからに他の建物よりも敷地面積を取っている。宿というよりは屋敷みたいな面構えをしている建物だ。
外見は西洋を感じさせるモルタル壁、屋根はミントブルーでよく目立って特徴的だ。玄関にあるドアには青い鳥が花を咥えたステンドグラスが張られていて、ここがその宿屋だということがすぐに分かった。
なるほど、悪くない場所にある。店が並ぶ繁華街が近くにあるが、少し離れているおかげか騒音を心配することもない。建物も特徴的で見つけやすい。
「思ってたより、おしゃれっすね」
「ギルドマスターおすすめっていうのも頷ける。早速入ってみよう」
ドアを開けると、入店を知らせるように小気味よく鳴るウッドベル。
中に入るとおしゃれな民家のような建物の外見とは違い、品格や上品さといった庶民のボクとフェリーが場違いに見えるくらいの内装と広さに圧倒されて凄く良いホテルに来たような気分になる。横にカウンターがあり、カウンターの奥の部屋から「少々お待ちください」と低い男の声がする。
少しして、スッと背中を伸ばしたタキシード姿の老人が出てきた。
「お客様でございますか?」
「そうです、ボクと後ろの狼なんですけど大丈夫ですかね」
「はい、ここの宿は種族等の制限はありませんので後ろの獣人の方でも問題ございません。しかしここは招待制でして、一般の方は予約無しでは宿泊が出来ないものといるのですが……」
「あ、それでしたら問題ないと思います。コレなんですけど……」
そう言って鈍く青白く光った金属のプレートを見せる。これはギルドから出るときにダインに貰ったものだ。これを宿屋の主人に見せれば良いと言っていたのだが。
「拝見させていただきます」といってプレートをじっくり観察する老人。
やがて「ありがとうございます」と言って、プレートが返される。
「ガルダリア様のご客人ですね。先ほど連絡があり、詳細は聞き及んでいます。どうぞこちらへ」
そう言って老人はカウンターの横にある階段にボク達を案内する。
階段を上がった先にある通路の内装もエントランスと並んで綺麗だった。壁は花の壁紙が張られ、値打ちがありそうな絵画や花瓶が飾られている。天井には明るく光る白いバラのような加工をされた石。これは魔法か何かで光っているのだろうか?
とにかく、想像の五倍くらいにはおしゃれな作りをしていた。
「この宿はガルダリア様が買い取った貴族の邸宅を宿屋に改装したものになっておりまして、そのため他の宿屋よりも作りが違うものになっています。ガルダリア様が招待した方や、ギルドや冒険者の中でも特別な方のみ宿泊が可能になっている宿となっていますので、現在は『ガランダムの尾』御一行様のみが宿泊されています。おっと、紹介がまだでしたね。私はこの宿屋の主人のセバルスと申します。どうぞお見知りおきを」
「こちらこそよろしくお願いします」
「じゃあ、ここは高級な宿ってことか」
「他と違い邸宅を改装した物になりますので他の高級宿とは雰囲気が違うと思いますが、質の良さであれば他のものより数段良いものだという自負があります」
「へえ、確かに装飾が凄いもんな。この光る花の石とか特に」
フェリーがその石の彫刻を触ろうとすると、それをやんわりと止める。
「あまり装飾を触らない方が良いですぞ。これらは魔除けのために置かれたものです故」
「え、魔除け?」
「この邸宅は魔族との戦争で亡くなった旦那様の物をダイン様が買い取った物になります。まあ、何が言いたいかと言いますと、出るのです……旦那様が」
「つまり、幽霊屋敷ってこと?」
「まあ、そうなります。生前から執着心が強いお方だったので」
幽霊か。あっちの世界では見たことないし、肝試しなんかもしたことない。こういうのは周囲の雰囲気が演出する脳の錯覚であり、思い込みが大半を占める。
例え本当に表れたとしても、自分はそれが幽霊だとは気づきはしないだろう。疲れて寝ちゃうから。
「……」
「おい、フェリーどうした?」
「……」
「すみません、セルバスさん。この犬運ぶの手伝ってもらえますか?」
フェリーの背中を二人掛で押しているとセバルスさんの足が止まり、部屋に着いたことに気付く。ドアには04と書かれており、同じ番号が刻印された鍵を渡される。
「ありがとうございます」
「いえいえ、それが私の仕事ですから。それではごゆっくり」
そう言って元のカウンターへと戻っていくセバルス。
渡された鍵で部屋に入ると、内装はシンプルでベットが2つと壁に密着するようにテーブルが置かれ、ちょっとした棚の上に桔梗に似た花の造形をした石の細工が静かに青白く光っていた。
とりあえず羽織っているものを脱ぎ捨てて、ベットの上にダイブした。
「あああああ、疲れた」と体を布団に沈めるボクに対して、フェリーはまだ疲れていない様子だった。きっとそれは彼がフェンリルだからだろう。
「しっかし、ダインも良い場所を紹介してくれたな。多分この世界では高級ホテルレベルなんだろう、これ」
「そうっすね、この宿の主人もなんか、かっこよかったからなあ。なんというか、紳士ってああいう人のことを言うのかな。なんか風格あったし、めっちゃ大人の良い匂いがした」
「紳士は良い匂いがするのか?」
「そいつの人間性は匂いで分かるぜ。おっさんも良い匂いだぜ」
「ちなみにボクはどんな匂いなんだ?」
「川の端っこに溜まった泥みたいな匂い」
……それって良い匂いなの?
そう言われて一瞬風呂に入ろうかと考えたが、それよりも眠気が勝った。
ベットに倒れた体はあらゆる機能をスリープモードにしていき、やがて思考がまどろみ始める。
ボクはそのまま泥のように眠った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます