12 ギルドカードで己の実力を知る

 ダインと共に二階から降りてきたボク達は、バウアーが陣取っていたテーブル席に座って少し遅めの昼食を取る。


「そういえばダイン、オレさっきから気になってたんだけど、なんでギルドの中が食堂になってるんだ?」


 言われてみれば確かに。ギルドと言われなかったらただの飲食店にしか見えないこの内装というのは、ダインの書斎と同じように所々こだわりを感じる。

 ということはこれもダインが発注したのだろう。


「ああ、それか。魔王討伐で集まってパーティーを組んだ時に、俺が料理担当をしていたのが理由だな。こう見えて結構料理できるんだぜ、俺」

「うん、全然微塵もイメージつかない」

「いつも大盾持ってるだろ。アレに油敷いてたんだ」

「あれ、鍋替わりだったんだ」

「その経験もあって飯の大切さっていうのは知っていてな。それでギルドを飯屋にしたって訳だ。それ以外にもダアクックは貴族が所有していた土地がたくさんあったから、新鮮な作物を育てられるっていうのも都合が良かった」


 脳筋みたいな顔しているのに、結構色々考えてるんだな。

 そのダインの思いが込められているからか、ギルドの内装は少し特殊だった。

 食事のメニューが沢山壁に書かれている横に、色々な依頼が並べられている。

 ビラ紙で貼られている物と木の札で常設されている物があり、ビラ紙の依頼は市民が依頼を出しているもので、依頼内容は害虫駆除であったり、薬草の採取であったりと様々だ。

 木の札はギルドからの常設の依頼らしく、街の公共整備であったり、モンスターの生態調査が主になっているそうだ。ギルドの依頼を読むと報酬金の他に食事券であったり、割引券みたいなのも書かれている。

 ギルドの特色を活かした報酬があるというのは確かに新しいというか、面白いシステムだと思った。

 というか、何気にこの世界の文字が読めているのはどうしてだろうか。そういう適応というのは、あの白衣の謎人物である犬上さんが何かしてくれたのだろうか。

 うん、きっとそうに違いない。考えるの面倒くさいし、よくわかんないことは犬上さんのせいにしよう。

※犬上『私はドラえもんでも妖怪でもない。なんでも私のせいにしないでくれ』



「そういえばシスイさん達はどこに宿泊するおつもりですか?」

「そうだな、まだ考えてない……というか、ボク達お金持ってないから野宿になる、のか」

「あー、オレは大丈夫だけどおっさんは大丈夫か?」

「森では良かったけれど、さすがに街は危ないんじゃないか?窃盗とか人攫いとかさ」

「うーん、一旦街から出るか?」


 露頭に迷っていると、セシアさんが「あの……」と声をかける。


「よろしければ、私達が使っている宿屋を紹介できるのですがどうですか? ギルドにも近くて、お風呂もあったりして便利ですよ。お金もガルダ……ダイン様が出してくださると思いますので」


 ああ、そっか。同じ冒険団ってことはリアックもセシアちゃんもダインのこと知ってるのか。

 そう言えば確かダイン、お礼したいとか言っていたな。なら宿代を払ってもらうっていうのはアリなお願いかもしれない。

 しかしセシアの言葉にリアックが疑問を投げかける。


「金がないだって? ちょっと待ってくれ、タイタンタートルを倒したんだからその撃退報酬が出るだろ。それあげれば良いじゃないか」

「そんなのあるのか」


 確かにあんなに苦労したんだから報酬くらいあっても良いとは思ったけれど本当にあったのか、そういうの。


「ちっ、バレたか」

「おい、せめて小声で言え。小声で」


 わざとらしい舌打ちをするダイン。


「冗談だ。確かにあるにはあるんだが、冒険者登録しないと報酬がもらえないシステムなんだ。これをネタにギルドに引き入れてやろうと隠してたのに言いやがってリアック。まあ、言われちゃしょうがねえ。こっちに来てくれ。冒険者登録してやるから」

「やっぱ、恩じゃなくて嵌めようとしてるじゃないか」

「良いじゃねえか。あんちゃんが疎いから、ついちょっかいかけたくなっただけなんだから」

「団長、無料でやってあげてくださいね。謀ろうとしたんですから」

「あーはいはい、ウチの母ちゃんみたいなことを言うなあ、セシア」

「まあ、この団の保護者だからな……」


 そう言って席を立つダイン。

 その後をついていくと窓口があるカウンターがあって、女性の受付らしき人が水晶玉を持って待っていた。


「この受付嬢が持ってる水晶に手をかざすと、そいつの生体情報、今風に言うのであればステータスと名前が浮かび上がってくる。この特製のカードを水晶の下に敷くとその内容が刻印されるって仕組みだ。それで出来たのがギルドカード。冒険者の資格って訳だ。手数料はこっちで払ってやるから二人ともやってみな」

「うおお!ドッキドキだな、おっさん。オレからやっていい?」

「良いとも」

「うおお、緊張してきた」


 緊張する要素なんてないと思うんだけどな。

 ワクワクした様子で手をかざすフェリー。すると水晶は翡翠色に光り出して、その光が水晶の下に溜まっていく。やがて敷かれたギルドカードへ絞り出された水滴のように落ちて、刻印が始まる。

 そうして出来上がったカードには名前と性別、そして能力値が記入されていた。


『フェリー・フール・ガルダリル』

 種族 登録なし

 性別 不明 

 体力    A

 筋力    A

 俊敏    S

 魔力    A

 魔力出力  A

※評価のABC表記は伝わりやすいように翻訳されています。


「すごい、ほとんど数値がAなんて。とんでもない逸材ですよ!」


 受付嬢の反応を見なくても、数値が高いのだけは分かる。

 フェンリルなのだから当然と言えばそうなのだけど。


(あぶねえ、種族でフェンリルって出たらどうしようかと思ったぜ……)


 フェリーは種族の欄を見てほっとした表情を浮かべていた。

 なるほど。その時ようやく彼が緊張していた理由を理解した。ここでフェンリルと出てしまったらとんでもないことになっていただろう。


「種族が不明ですね」

「特殊な出身の人間とかが登録するとこういう事があるが、まあ問題ねえ。追々申請でもしてくれたら反映されるだろうさ」

「あー追々します。追々、ね」

「なあ、ダイン。この体力とか書かれている数値みたいなのは、どういう基準で表示されているんだ?」

「多くの人間の平均というのがD。多少の経験や才があるとC。専門職や職人レベルになるとB。英雄的な天性の才能を持っているとAからSって感じだな。ちなみに俺は体力、筋力、魔力諸々Sだぜ」

「へー、そうなんだ」


 聞いていないのに、自分のステータスをひけらかしてくる。まあ、そんだけ値が良かったら自分もするか。

 やれやれ男って本当にロクでもないな。自分も例に漏れないんだけど。


「と、次はシスイだな。かざしてみな」

「おう……そうだな」


 そう言われて少し体を強張らせる。

 何となくズボンで手の汗を拭いて、ボクも水晶に手をかざした。

 水晶が鈍色に光る。

 緊張からか、背中に汗が滲む。

 そうして鈍色の光が、ギルドカードへと滴り落ち、刻印が始まる。


『 ・   ・  ・・・・・・ ・・』

 種族

 性別

 体力   D 

 筋力   D

 俊敏   C

 魔力   SS

 魔力出力 F


 一つ、大きなため息をついて水晶から手を離した。


「なんか、ボクのカード、ツッコミどころが多い気がするんだが」

「魔力がSSなんて見たことないです。私でもSなのに」とセシアが少し悔しそうに顔を膨らませる。

「でも魔力出力がFじゃ、まともに魔法出ないんじゃないか? Fってことは平均以下ってことだろう?」

「はい、魔法を使うのに必要な要素として魔力と魔力出力があるのですが、魔力が多いとそれだけ魔法が多く、長く使えます。出力が大きいと魔法の規模であったり、効果が大きくなります。出力が大きすぎると魔力を多く消費してしまうという欠点があったりするのですが」

「じゃあFってどのくらいの魔法が出るんだ?」

「普通の火の玉を出すと、マッチの火が浮いているくらい……かも」

「随分とまあショボいな、おい……」


 少し、いやかなりショックを受けている。

 魔法を使うのには魔力と魔力出力のバランスが大切になってくるって訳だよな。どっちかが凄くても、片方が酷かったら意味がないとは。

 魔法がない世界から来た弊害かなんかなのだろうか。そう思う事にしよう。

 それに魔法がショボいってだけで出せない訳じゃない。そう考えると、前向きになれるじゃないか。

 しかし、そんな事よりも気になる項目がある。


「なんで種族と性別がちゃんと表示されないんだ?」

「変ですね、名前の欄が表記がおかしい。こんなこと初めてです。水晶玉の不良でしょうか?」


 受付嬢でも初めて見る状態なようで、ダインに助言を仰ぐ。


「水晶玉の不良なんて聞いたことがねえが、試しでもう一度やってみるか」


 もう一度、水晶に手をかざしてみるが結果は変わらず、種族などが空欄のままだった。


「うーん……種族や性別が空欄っていうのも気になるが、それより問題は名前がちゃんと表記されないことだな。これじゃあ正式に冒険者登録できたとは言えねえしなあ。……よし、いったん仮登録ってことにして原因を調べておくから、原因が分かるまでダアクックでゆっくりしていてくれ」

「どれくらい掛かりそうだ?」

「多分一週間ちょいあれば分かるだろう。一応シスイのギルドカードでも依頼が受けれるようにしておくから、適当に依頼なりを受けて待っててくれ」

「良いのか、そんなことして。結構な無茶してるんじゃないか、それ」

「なあに、俺はこのギルドのマスターなんだぜ? 多少のイレギュラーくらい対応してやるさ。それが友なら猶更だ。宿に関してもセシア達が泊っている宿を使うと良い。宿代とかなら俺が持つからさ。この街を楽しんでくれ」

「そっか、分かった。そこまで先を急いでる訳じゃないからね。観光気分で楽しませてもらうよ」

「良かったな、おっさん! 念願の宿だぞ、ベットだぞ!」

「ああ……そっか、宿か。とうとう宿……かあ、グスッ……」


 宿と聞いて少し涙ぐんでしまう。

 ここ数日は森の中で、フェリーの体を布団にして寝ていたからな。寝心地は良いにしても、虫が回りを飛ぶし、訳の分からない生き物の奇声が聞こえるし、まともに寝れた試しがない。その頃はフェリーが他のモンスターを近寄らせないようにしてくれているなんて知らなかったから、いつ襲われても動けるように構えていたから気なんて休まったもんじゃなかった。

 森の中でベットで寝たいと何度ぼやいたことか。

 でも、ようやくまともな場所で寝ることが出来る。

 ボクは静かに手を掲げ、喜びを嚙み締めた。


それを見ていたガランダムの尾メンバー一同、皆同じことを思う。

『そんなに嬉しかったんだ……宿』と。

 



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