第35話泡沫のスプライト

勇者達はクーンにその場を任せ奥に進んだ。

(本当に余興のつもりなのか……)

追撃や罠を警戒したが何もなかった、ただ長い通路をひた走ると前方に扉が見えた。

勇者達は扉を慎重にあける。

「この期に及んで罠などないわ………」

女の声を見ると部屋の中央に軍服を着た魔族の女がいた、装飾からみて一般兵ではない。

「ようこそ魔王城へ、私は泡沫のスプライト、勇者ダイナ余興に協力感謝するわ」

「余興に付き合うつもりは無いよ」

勇者は剣を抜き、仲間に言葉を続けた。

「彼女は強い、モニカ出し惜しみは無しだ手袋外して……キースは私に構わす魔法を撃ち込んで」 

「わかっていますよ……」

モニカは手袋を外し力を解放する。

(強い力を感じるけど、神官の女は女神の加護を受けているだけで、普通の人間のようね…)

スプライトは勇者と魔術師を見る、勇者は強欲な神官共が何かしたのだろう。

たが、この魔術師の男は何なのだ?

星の魔術師の弟子と言うことだが、報告にあった魔法を扱える程の魔力は感じない。

何か秘密があるのか?スプライトは疑問を浮かべたが、すぐ考えるのを辞めた。

(最早、意味の無いこと……ただ殺すだけ…)

スプライトが念じると右手から無数の泡が溢れ出し、それはランスとなった。

「さあ!始めましょう!」

スプライトの掛け声と共に空中に無数の泡が現れる。

彼女は泡の発生と同時に勇者目掛け突進する。

「アゴーニ!」

キースはスプライトに魔力弾を打ち込む。

たが、その全ては泡に防がれた、中を舞う泡がキースの魔力弾を防いだのだ。

(あの泡…自動防御か?厄介だな…)

キースはスプライトにダメージを与えるべく、魔力弾を乱射するがスプライトに届かない。

「ビッグブロウ!」

勇者は聖剣を繰り出す!

バキバキ!泡のランスが聖剣によって削らていく。

「この程度!!」

スプライトが魔力を込めると泡が吹き出し、聖剣を押し返した。

(くっ、一瞬で槍が再生した!)

残りあと僅かと言う所で槍が再生し、再生時の斥力により聖剣を弾き返す。

スプライトの意識は完全に勇者に向いている、モニカはその一瞬を見逃さなかった。

背後からモニカはスプライトの頭部目掛け魔力を込めた拳を打ち込む。

女神イシュタルの加護を込めた一撃、ましてや人間の範疇で言えば上澄みであるモニカの一撃である。

魔の者で無くとも頭蓋は砕け、脳に重大な損傷を与える筈だった。

(私の拳が届かない!)

モニカの拳は無数の泡によって防がれる、泡は爆裂し拳の威力を相殺する。

スプライトにダメージを与えるどころか、逆に無数の泡が弾丸となりモニカを撃ち抜いた。  

痛覚を遮断してるモニカは、何事も無かった様に自分に回復呪文を施すが内心焦っていた。

(不味い……命が大分削られた……)

痛みの代わりに彼女は感覚で命の残量が分かるのだ、おおよそ三分の一程削られた。

回復呪文で傷は塞いだが僅かな量しか回復しなかった。

(可怪しい……これだけの魔法を使って居るのに魔力の消費が少なすぎる…)

キースは考えていた、今のモニカの一撃を防げたと言うことはやはり自動防御だ。

常時泡による自動防御、そして、先程は一瞬にして槍を再生させた。

最初は燃費の良い呪式かと思ったが、不審な点があった。

空気が乾燥しないのだ、スプライトの泡は空気中の水分を使用している。

これは水系全てに言える事で、呪文を使えば使う程湿度は低下し乾燥する。

だが部屋の中は蒸し暑い位で湿度は高く感じる。

そしてキースはある仮設に辿り着く、この部屋には湿度を上げる、もしくはスプライトの補助を行う仕掛けがあるのではないかと……。







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女勇者の笑顔の為に魔術師の俺は全力で戦う シノヤ @sinotuka

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