異世界旅行はお好きですか?

荒屋 猫音

第1話

大木 漫画家 30代 ヘタレ男


小山 アシスタント 30代 仕事が出来るアシスタント 男


アリィシス(アリス) パラジョンのヒロイン(超絶チートスキルが付与されている) 女


_ ナレーション アリス兼役になります


一人称変更可能

語尾の変更可能

過度なアドリブやセリフの言い換え 拒否



____


_大木の描く異世界マンガ「パラダイスダンジョン~レベル1の冒険者でも勇者になれるなら、俺は勇者になってモテまくり人生を送る旅をする~」

の執筆中、納期を間近に控えた2人は地獄のような徹夜作業の最中、自身の描く漫画の世界に飛ばされてしまった!


物語の死亡(予定)ヒロイン、アリスをどうにか殺そうと各々のスキルを駆使する…!


2人は無事にアリスを殺すエンディングにたどり着けるのか…!?


____


小山「…おっさん、締切いつっすか…」


大木「…こんちゃん、それは聞かない約束だ……」


小山「いいや答えてもらうっすよ…」


小山「俺ら今日で何徹目っすか…さすがに死にます…」


大木「……ふっ、締切か…本当に答えていいんだな…」


小山「答えなきゃ俺ここ辞めます」


小山「おっさんの異世界ゴリゴリファンタジーは面白いですけど、アシスタントが俺だけなんて……こんな地獄のような職場、ホントなら初日で辞めても良かったんすよ…」


大木「……後悔するなよ…締切は……明日だ……」


小山「……」


大木「シメキリ、アシタ、ワカル?」


小山「やっぱ俺ここ辞めます」


大木「待ってぇぇぇえ!!!今こんちゃんに辞められたら俺が死ぬ!仕事遅い上に納期も迫ってて、挙句アシスタントに辞められたら俺は自殺する!!!!」


小山「勝手に死んでくれ!明日が納期だぁ!?ふっざけんな!なんでもっと早くにネーム起こしておかなかったんだよ!それさえあればなんとでもなっただろうが!!!」


大木「ネームは起こしたよ!?でも先の展開を考えてたら、どうにもアリスの死に方に納得できなくなってそこだけ全部やり直ししただけだよ!!!」


小山「開き直るんじゃねぇよ!!てめぇの頭ん中にあるものを俺が投影できるとでも思ってんのか!!

そのネームを全部ボツにした上データ残しとかなかったせいであんたに散々振り回されて!俺が何日徹夜したと思ってんだ!!しかも明日が納期だぁ!?ふざけんな!マジで死ね!!」


大木「納得いかなかったのはアリスの死に方だけで他は問題なかったんだよ!そこに繋がる話さえ持ってくれば後はなんとでもなったんだ!!」


小山「何とでもなったんならデータごとボツにするんじゃねぇ!!!!」


大木「こんちゃんと一緒ならなんとかなると思ったんだよ!だから何とかしてよぉぉぉ…!」


小山「知らん!俺は辞める!!」


_2人が押し問答をしていると書きかけの原稿から眩い光が放たれる


_デジタルとアナログを使用しての漫画作成、それぞれが触る原稿は光を強めて当たりを包み込んだ!


小山「うわっ!」


大木「な、何だぁ!?」


(同時に)


小山「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


大木「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


_____


大木「……」


小山「……」


大木「…はっ!!なんだ!なんだったんだ今の!」


小山「……おっさん、生きてたんすね…そのまま死んでくれたら良かったのに…」


大木「やめてぇ!?」


小山「…ってか、どこっすかここ…」


大木「さぁ…俺ら作業部屋にいたよな…それで原稿が光って、意識飛んで……」


小山「…?おっさんのその頭の表示、なんすか?」


大木「は?表示?って……こんちゃんにもあるよ!?」


小山「……」


大木「……」


大木「(笑いながら)まさかねぇ!そんなわけないよねぇ!?」


小山「(苦笑いしながら)そ、そっすよね、まさか、ね?ありえないっすよね?」


大木「…」


小山「…」


_おもむろに指先でお互いの表示を触る、すると目の前にはステータス画面が表示された!


大木「ぬのぉぉあああああああああ!!!!!」


小山「うそだぁぁああああああ!!!!」


大木「なに!?なに!何俺ら、まさか自分の描いてた漫画の世界に飛んできたの!?異世界来ちゃったの!?」


小山「やややややめてくださいよおっさん!これは夢!夢ですよ!ゆ!め!」


大木「だ、だよな!夢だよな!夢!これは夢!」


小山「……あ」


大木「……なに、どったの?」


小山「俺、なんかスキルカンストしてるっす……」


大木「え!?」


小山「執筆者?って言うスキルがカンストしてて、スキルランクSSS+ってなってる……」


大木「…え、俺は?」


小山「自分で見てくださいよ……えっとぉ?【巻き戻す者】ってのが俺と同じSSS+」


大木「これ、あれだよな、こんちゃんが考えたスキルで、いつどの時間軸にでも行けるってスキルだよね?タイムリープするってやつ」


小山「…俺のは書くことに特化したスキルで、文章を書けばテキストの変更も可能になる上、書類関係の改ざんも出来る。絵を描けばその絵が具現化される…ってやつっすね」


大木「こんちゃんのスキルの方が余程チートだった…」


小山「とりあえず試してみます?」


大木「…どっちを?」


小山「どっちも」


大木「俺のスキル、タイムリープだよ?」


小山「都合いいじゃないっすか。アリスが出てくる前の内容に飛んで、そもそもアリスが出てこないようにすれば万事解決じゃないです?」


大木「……そっか!」


大木「…んじゃ、いくよぉ…!」


小山「あ、でも…………」


アリス「あなた達!そこで何をしているの!?」


小山「え」


大木「あ」


_突然死亡させたいヒロイン、アリィシスが登場!

2人の思惑は見事に外れてしまった!


小山「えっとぉ……」


アリス「見慣れない顔ね、あなた達、何者ですか……」


大木「俺たちは……」


_アリスが警戒の姿勢を強めて2人に迫る!


大木「まままままって!まって!!」


小山「俺たちは旅をしている者だ!こいつが転んで頭を強く打ったから治癒魔法を使おうと!!」


大木「そ、、そう!そうなんです!」


アリス「…本当に?明らかに治癒魔法の波動ではありませんが…もっと強い…何かよからぬ事を企んでいたのではありませんか!?」


大木「(小声で)おい!アリスのスキルってなんだったっけ!」


小山「(小声で)お前が作ったキャラなのになんで設定忘れてんだよアホか!!アリスのスキルは【全知全能】

見る、触れる、感じる、聞く、その他全ての感覚が研ぎ澄まされてて、しかも1度覚えたスキルはレベルに関係なく使用可能!見るだけでもスキル獲得になるもんだから、ヤベェやつ出来た!!とか言って喜んでたの忘れたか!」


大木「(小声)あぁぁ…そうだった。超絶チートのつよつよヒロイン爆誕!とか言って遊んでた……」


小山「(小声)そんなキャラ作り上げたもんだからどうせ始末に困ってどうにか死亡させようとしてたんだよな!?それをお前は!データを消しましただぁ!?」


大木「(小声)だってぇぇ!」


アリス「何をコソコソ喋っているのです?筒抜けですよ?」


アリス「怪しすぎます…ひとまず拘束させていただきます」


大木「ダメだこんちゃん!やるしかない!」


小山「頼んます!!」


アリス「…え?」


大木「タイムリープ!!」


____


小山「…」


大木「…上手くいった…?」


小山「さぁ…」


大木「いつどの時間軸に飛ぶかなんて考えてなかったから、どこに飛ばされたのかも分からない…」


小山「……アホっすね。」


大木「こんちゃんが冷たい…」


小山「とりあえず、ステータス画面は…変化なしっすね」


大木「まさか、どの時間軸に飛んでもこのステータス維持できるとか?」


小山「ならまたやってみたらいいじゃないっすか」


大木「…やるか」


アリス(幼少期)「…おじさん達、だあれ?」


小山「……」


大木「……」


_またしても、今度は幼少期のアリスが現れた!


大木「えっと、おじょうちゃん…どうしてここにいるのかな…?」


アリス「強い魔力を感じたから来てみたんだけど…」


小山「(深く深呼吸)……お嬢ちゃん、ここで見た事は内緒に出来るかい…?」


大木「パパにもママにも言っちゃダメだよ?約束できるかい…?」


アリス「……?」


アリス「約束したら、何かいいことある?」


小山「どうかなぁ?でも、約束して欲しいなぁ…」


大木「(小声)こんちゃん!こんちゃん!!」


小山「(小声)なんすか!」


大木「(小声)アリスにこれを見せたらマズイ!全知のスキルが既に付与されてる!!」


小山「(小声)はぁ!?なんでこんなちっこい頃からそんなチートスキルが付いてんだよ!」


大木「(小声)多分、俺がアリスってキャラを考えた時には【生まれながらの奇跡】的な祝福を受けていたって設定にしてたからだと思う!」


小山「(小声)…なら、俺がそのテキストを改ざんすれば…!」


大木「(小声)それだ!出来る!?」


小山「(小声)いや、でも、見られたらマズイんだよな?どうにかして見られずにアリスのステータスを改ざんしないと…!」


大木「(小声)こんちゃんのスキルはただ書き換えるだけでしょ!?ちょっとステータス見せて?とか言って気を引かせて、その間にちょちょって書き換えられない!?」


小山「(小声)それでこのスキルが付与されたら元も子もないでしょ!」


アリス「…?おじさん?」


大木「あぁ!ごめんね?えっと、君はどこから来たのかな?」


アリス「すぐそこの村だけど、もう少ししたら帝国ってとこに行かなきゃならないんだって、私の魔法が珍しいから、調べたいんだって。」


大木「そ、そうなんだ、それは大変だね」


アリス「見たり聞いたり、考えたりするだけで色んな魔法が使えるから、あんまりお外に出させて貰えないの」


小山「(小声)それだ!」


大木「(小声)は?なに?」


小山「(小声)全知全能のスキルは全ての感覚に関与する、ならその感覚を特定のものだけにすれば…!」


大木「(小声)でも、見られたらっ…」


小山「(小声)テキストの変更さえ出来れば今後アリスがアホみたいに強くなってわざわざ殺す必要はなくなる!そうすればこの世界における脅威は後に出てくるはずの魔王だけになる!」


小山「(小声)知識として得たスキルでないと使えないってテキストに変えれば…!」


アリス「……おじさん、面白いことやってるね?」


アリス「私のステータスを見て、何をしているの?」


アリス「何をしようとしているの?」


アリス「私、さっきも言ったよね?想像するだけでも魔法が使えるようになっちゃうって…。」


小山「…しまった……」


アリス「面白そうなこと考えちゃった!えっとぉ……」


大木「こんちゃん!!」


小山「はい!!!」


_すかさず大木がタイムリープを発動する。

今度はアリスが生まれる前を想像して、もしくは生まれた瞬間を狙って


大木「タイムリープ!!!」


____


小山「…やっぱり、スキルステータスはカンストしてますね」


大木「常に使えるのはありがたいけど、さすがに骨が折れる…」


小山「とりあえず、アリスが産まれる前に飛べたのであれば、隙をみてテキストを改ざんするしかない…」


大木「だな。問題は、いつアリスが生まれるか…」


小山「生まれても暫くは親が付きっきりだし、そんなに簡単に行くとは思えないんすけど…」


大木「それでも、アリスを殺すエンディングにたどり着くためにはそれしかない!」


小山「……あの、ちょっと疑問なんすけど」


大木「…?」


小山「なんでそんなにアリスを殺したいんすか?」


大木「え?」


小山「そもそもアリスってキャラができた時にはめっちゃはしゃいでたのに、気がつけばアリスを殺すとか言い出してて、訳わかんないんすけど…」


小山「始末に困ったとしても、わざわざ殺す必要なんてないっすよね…?」


大木「それは、ヒロインが主人公よりつよつよだったら、話し的に主人公要らなくなるからって思って…」


小山「なら…アリスってキャラがいることに問題がある訳ではなく、あんたの頭に問題があるってことっすよね?」


大木「…んん?」


小山「主人公を超える強キャラを生み出すアホの頭を改ざんすれば、アリスは生まれても、あんな面倒なスキルを持って生まれることは無かったって話っすよね?」


大木「……こんちゃん?何する気?」


小山「……死んでください」


小山「ライトゲート!」


大木「うっそぉぉ!?」


_小山の描いたモンスターが大木を襲う、咄嗟に大木は自分だけにタイムリープをかけてその場から逃げてしまった!


小山「はぁ!?アイツまじか!」


_取り残された小山はどうすることも出来ず、その場に座り込んでしまった



小山「アイツまじか…自分だけ別の時間に飛ぶとか、まさかそこまでするか?どーすりゃいいんだよ、あいつがいなかったら俺、このままこの世界で暮らさなきゃならなくなるってことか…?」


小山「……いや、悩んでても仕方ない。アリスが生まれるはずの村に行って宿探しから始めるか…運が良ければアリスが誕生するだろうし…」


_そうして、小山は歩き出した


_一方その頃、1人逃げ出した大木はと言うと…


大木「あー…これはこれは…さっきも会った気がしないでも無いですねぇ…あはははは」


アリス「…不思議な力ですね。私は確かに貴方を見た。話もした。なのに突然光に包まれ、どこかに消えた…かと思ったらまた戻ってきた…」


大木「あの、ちなみにどれぐらい消えてました?」


アリス「ほんの数秒ですね。」


大木「……」


アリス「ところで、連れの方はどうしたのです?」


大木「…ちょっと事情があって、別行動を…」


アリス「…時間遡行の魔法ですか。興味深いですね。」


大木「……!?」


アリス「私は、貴方達を知っている…幼い頃に会ったことがある…」


アリス「今と全く同じ容姿で、そして、今と同じように光に包まれ消えた…」


アリス「あの時、私は貴方の連れの魔法に興味を持った…しかし、その魔法を使おうとした時には、貴方達の姿は光に包まれ消えてしまった…」


大木「(生唾を飲む)」


アリス「一体、何をしようとしていたのか、教えてくださいませんか?今度は逃げ仰せられませんよ?」


____


_一方その頃。小山はと言うと…


小山「……」


小山「待てど暮らせどアリス…アリィシスと言う女の子が生まれたと言う話が飛んでこない…村を間違えたか…?」


_自身のスキルで自転車を描き、アリスが生まれるはずの村まで来ていたが、その一報がなく、困惑していた!しかも!


小山「アリスが生まれるのはこの村だよな?合ってるよな?ってか、おっさんの脳みそどーなってんの?なんでアリスが生まれるはずの村に魔物が湧いてるの?あの人の考え反映されすぎじゃない?俺こんな設定知らないよ!?」


小山「別の時間に飛んでなんかあったとしか思えない…やっぱりアリスって存在を初めから無かったことにしようとしてる…?」


小山「なら最初からあんなつよつよヒロイン爆誕させんなよ……ってかこの魔物たちどーすんだよ!」


小山「……あー!!もうめんどくせぇ!!!ライトゲート!!」


_ヤケになった小山はスキルで魔物と対抗出来るモンスターを描きまくり、四方一帯に蔓延る魔物を倒しまくった。

結果、小山のステータスは上昇。

【隠密】のスキルを獲得した


小山「【隠密】周囲に自身の足音や気配を悟られずに行動ができる。使用後は30秒間の間移動速度が大幅に減少する………。書き換えるか。」


小山「使用後のクールダウンは無しにして…使用中の行動は完全に感知も出来なくして、効果は別のスキル使用時まで継続…にするか。これなら最悪アリスが生まれてスキルを持ってたとしても感知できないはず…」


小山「どの時間軸に飛んで行ったかは知らないけど、このスキルがあればいずれはテキストの変更に役立つはず……」


小山「……はぁ……疲れた……」


_ところ変わって大木の場面


アリス「…今度は逃げ仰せられませんよ?」


大木「…もし、俺がまた逃げたら……?」


アリス「逃がしません。その前に貴方の口を閉じます」


大木「うわぁ、さすがつよつよヒロイン……だから始末に困って殺そうとしたんだよなぁ…主人公より強くしちゃったら、主人公の意味ないし…なんでこんな子を爆誕させたんだろ……今一瞬アリスが産まれる前の村を壊滅させようとか考えてみたけど、きっとこんちゃんが何とかしちゃうだろうしなぁ……」


アリス「…私を殺す……?」


大木「うん、白状すると、俺は君を生み出した本人で、君のその魔法があまりにも強すぎるから、ストーリー上主人公より強いヒロインがいたら困るって思ってね、死んでもらおうとしてたの。でも君強すぎてさ、何しても殺せないってなっちゃって…」


アリス「待ってください!」


アリス「私が、貴方に作られた?」


大木「そうだよ?俺は別世界から来たの。ってか、この世界を作っていた創造神的な?」


アリス「……信じられません」


大木「信じなくてもいいけど、事実だよ。君が言っている魔法…スキルだって、【生まれた時から授かっていたものだ】なんて俺が考えなければなかったものだし」


アリス「……なら、私のこの力は……私が信じていた魔法とは、一体何なのですか……」


大木「……平たく言うと、俺の妄想」


アリス「……!」


____


小山「おかしい……」


小山「人に会わない…アホみたいなタイトルの漫画のはずなのに、モブとかアホみたいに描いてたはずなのに…」


小山「この世界はおっさんの想像……」


小山「結果おっさんが考えてることが全部反映されてたとして、最初からアリスを生み出さないって選択肢が反映されればその世界が優先される……?」


小山「でも、わざわざ殺すことはないよなぁ……せめてスキルの変更してハッピーエンドになるようにすればいいよな……」


小山「殺す事が目的じゃ無くなればいいんだし……ってか、そもそもヒロイン殺すって作者としてどうなの……」


_とまあ、こんな感じで頭を抱えておりました。


_その頃大木は……


大木「お前は、俺の妄想から生まれたキャラクターであって、おれがこの世界を描かなければ、考えなければ、お前は今ここにいないの。」


アリス「……そんな…」


大木「例えば、俺がお前の存在を完全に否定すれば、どうなると思う?」


アリス「…脅しているつもりですか?もしそれが可能だったとして、私には授かった魔法があります。」


大木「それを使う前にまたタイムリープして、連れと一緒にお前を消す方法を探し出していたとしたら?」


アリス「……何が言いたいのですか」


大木「このストーリーはハッピーエンドで終わりたい。でも、そのためにはアリス…君がどうしても主人公より強いキャラクターである事が、物語の上ではどうしても邪魔になっている」


アリス「……ならどうして私を作り出したのですか!!」


大木「……」


アリス「祝福を受けて生まれ、神の使いだなんだと祭り上げられ、行きたくも無い魔物の討伐に行かされ…その結末が、私が死ぬ事だなんて、納得できない!」


大木「アリス……」


アリス「……私が邪魔だと言うなら消せばいい……けれど、今ここで、はいそうですか。と簡単に死ぬのだけは嫌だ!」


アリス「……私を殺すというのなら、魔王城に来なさい…あそこなら私が死んでも魔王に殺されたと言えば民は納得する…」


大木「……仮に、殺さない方法が見つかっても?」


アリス「その時は、貴方達は魔王城に来ない……それだけの事です。」


大木「確かにそうだ。」


アリス「良い知らせを待っています…」


_そう言ってアリスは去っていった


大木「さて、どうしよう……こんちゃんがいる時間まで戻るか…今の事も話さなきゃならないし……」


_大木は小山を置いて行ってしまった時間に戻るべく、タイムリープを使った


_その頃、小山はアリスについて、まだ頭を抱えていた


小山「アリスを殺さずにハッピーエンドにする方法……キャラクター自体は魅力的だし、不幸な出来事があって死んだならまだしも、作者都合ではいさよなら。なんて読者が納得しない……」


小山「せめてアリスの祝福が最初からなければ…………」


大木「こんちゃーん」


小山「……でも新しいスキルが手に入ったし、ワンチャン幼少期のアリスにもう一度会ってスキルテキストの改ざんができたら……」


大木「……こんちゃん?」


小山「いや、でもそれだと今までのアリスの功績が……」


大木「こんちゃん??」


小山「うっるせぇな!今考え事…………」


大木「た、ただいま」


小山「…なんだあんたか、まだ死んでなかったんだな」


大木「酷い!!!」


小山「……どこいってたんすか」


大木「んとねぇ、さっき2人でアリスから逃げた元の時間」


小山「うわ、最悪な時間に戻ったんすね」


大木「んで、そこでアリスと話したんだけど、アリス闇堕ちして魔王城に行っちゃった」


小山「……は?」


大木「この世界が俺の妄想って話をしたら、なんか勢いでそうなっちゃった…」


小山「なっちゃった…じゃねぇよ!この世界から抜け出す方法もアリスをどうこうする方法も見つからないのに!なんで話だけがポンポン進んでいくんだよ!」


大木「いや、でもさ?仮に魔王城でアリスが死ねば、魔王の力がアリスより強くて、そのせいで死んだって話にできるじゃん?それならそれでいいかなぁ。って思ったんだけど、どう?」


小山「却下」


小山「ってか、この展開はアレだよな?あんたが当初ボツにした内容とほとんど変わってないんじゃないか?魔王が出てきてどうとか言ってなかったか?」


大木「あぁ……あははははは」


小山「もう一度聞くぞ…?今この展開は、ボツにした話ってことだよな?素直に言ってみろ!」


大木「わぁぁぁ!おこらないでぇぇ!確かに今の流れはボツにしたのと似たような内容だけど、やっぱりその方がアリスの死亡的には1番綺麗かなって思ってぇ!」


小山「どんだけ優柔不断なんだよ!」


小山「殺すのか殺さないのかハッキリしろ!」


大木「ストーリー的には死んで欲しいけど、個人的にはアリス好きだから死んで欲しくないぃ!」


小山「なら今ここで作者であるお前が死ねぇ!!」

_

_

_

_


小山・大木「……あっ」

_

_

_

_



_何かを思いついた2人。


_その想像は、この世界の創造神たる大木によって、

急激に世界のあり方を狂わせた……


_空は黒く染まり、大地は枯れ、建物が脆く崩れていく。


_そして、周囲には今まで倒してきたどのモンスターよりも強力なものが蔓延っていた……


小山「おっさん、何考えたんすか……」


大木「え、最初からこの世界は混沌に包まれていて、そこで世界を救う神の使いとしてアリスが生まれたことにした……」


小山「アリスは居てもらわないと困る存在…に置き換えたってことっすよね」


大木「そうすれば、ほのぼの日常ストーリーのはずが、それは主人公の妄想で、実は世界は混沌に支配されていて、アリスは世界を救うべく、主人公と共にダンジョンの奥にある魔王城を目指して魔王を倒して、そんでアリスと主人公が協力すれば、アリスが死んでも死ななくてもストーリー的には1番綺麗かなって……」


小山「……」


大木「こんちゃん、それでどう……?」


小山「どう?って、その考えが今まさに反映されてて、今までの世界観ぶち壊しになってるけど大丈夫そうっすか」


大木「いや、まさかこんなにガラッと世界が変わるとか思ってなくて…こうだったらいいな程度にしか考えてなかったから…」


小山「おっさん…俺、今の世界線で、アリスを見てないんすけど……」


大木「……え!?」


大木「アリス生まれてないの!?」


小山「あんたまさか、最初からアリスが居なかった世界を想像してここに飛んできたとか……」


小山「だとしたらこの世界自体がボツだ。アリスって存在を否定した世界は確かに俺ら的にはありがたいけど、話がまるっきり別物になる。」


大木「あぁ、そりゃそうだ……」


小山「アリスは居なきゃ困る存在にする。これで解決!わざわざヒロインを殺すようなエンディングにする必要は無い!」


小山「ほれ!今すぐこの世界を変えろ!」


大木「……わかったよぉ…」


_しぶしぶ大木は自身の想像を世界に反映させる。


_その世界は【アリィシス】を望む世界でなければならない


_アリス死亡のエンディングでは話がまとまらないのなら、死亡させないエンディングを作れば良い


_今まで描いてきた世界はそのまま、アリスが死なない世界を…


_しかし、やはり大木はアリスを生かすつもりはないらしく…


大木「…一応ね、アリスはやっぱりつよつよがいいんだよ。」


小山「はい」


大木「んでね、旅も主人公と一緒にするんだよ」


小山「はい」


大木「でも、アリスは、闇堕ちさせて…」


小山「却下!どうしても殺したいって魂胆が見え見えなんだよ!」


小山「いつまで経ってもエンディングにたどり着かねぇ…」


大木「いやいや待って!闇堕ちさせるけど、戦闘中に主人公に恋してやっぱり世界滅ぼすの辞める!とか言い出すのはどう!」


小山「……あんたの想像に付き合ってたらこっちがバカになりそう…」


小山「もう好きにしてくれ…」


大木「え、なら好きにしちゃうけど…」


小山「ちなみに、どんな?」


大木「えっと、まずは生まれる。」


小山「はい」


大木「主人公もいる。そんでモテモテライフを送りたい。」


小山「はい」


大木「でも、実はこの世界は、この世界自体がダンジョンで出来上がっていて」


小山「はい」


大木「ダンジョン攻略の鍵は実はアリス」


小山「…はい」


大木「道中一緒に行動していたアリスは、実はラスボス」


小山「……はい?」


(大木、しばらく白熱して世界を語ります)


大木「ダンジョンに巡らされたトラップは実は全てアリスが仕掛けたもの!しかも、今までのスキルを大盤振る舞いして各所に設置したトラップは冒険者をことごとく妨害!」


大木「アリスと行動しているおかげでトラップが緩んでて、主人公は俺TUEEEEって勘違いしてる!」


大木「全てはアリスがいてこその効果とも知らず、主人公はダンジョンの奥へ奥へと進む!」


大木「そして!玉座にはお飾りの魔王がいて、魔王はあっさりと討伐!」


大木「しかし!その空いた玉座にアリスが座り、世界は混沌を極める!」


大木「ダンジョンに仕掛けられたトラップが全て発動して主人公は逃げることも、アリスのスキルによって死ぬことも許されない!」


大木「アリスの願いはただ1つ!死ぬこと!」


大木「その願いを叶えるべく!主人公は今度こそ俺TUEEEE!!になってアリスを討伐する!」


大木「で!どう!!!」


_その熱弁が終わる頃、世界は色も姿も変えてそこにあった


_そして小山は……


小山「……zzz..」


大木「……え、こんちゃん…?」


小山「あ、すません。終わったっすか」


大木「…今の、聞いてた?」


小山「いや全く」


大木「もっかい話す?」


小山「お断りします」


小山「どーせ考えてる事は今まさにこの世界に反映されてるんでしょ?で、肝心のアリスと主人公は今どこっすか」


小山「アリスには会っても主人公には出会ってないっすよね?」


大木「あぁ、それは、主人公、俺の設定だから!」


小山「…」


大木「…?」


小山「俺ここで待ってるんで、さっさと俺TUEEEEしてきてください」


大木「こんちゃん!?」


小山「だって俺関係ないじゃないっすか。」


小山「俺は巻き込まれただけっすよね?」


小山「それに、結局何かしらエンディングを迎えないとどーせ出れないんでしょ?なら、さっさと俺TUEEEEやってリアルに戻って原稿仕上げましょうよ」


小山「俺的にはアリスが死のうが死ぬまいがどっちでもいいんす」


小山「あんたがやたらアリスを殺したがってるから同じ思考になってたけど、よく考えたら話がまとまるならどっちでもいいし」


小山「この世界をまるっと作り変えて疲れたっすよね?ちょっと寝たらさっさと行ってきてください」


小山「あんた主人公なんだから」


大木「……ならなんで俺に【執筆者】が付与されてないの?」


小山「知らないっすよ。あんたのご都合世界なんだから俺が知るわけないっす」


大木「…でも、やっぱり行動は一緒の方がいいと思うんだ…」


小山「…はぁ(深いため息)」


_そして大木と小山は変わり果てた世界を歩き、アリスを行動を共にすることに成功。


_大木の想像通り世界はダンジョンで出来上がっており、各所に巡らされたトラップは小山のスキルで容易く破ることが出来た


_そして、ついに、アリスとの決闘の時…


アリス「あっはははははは!お前たちが勘違いして行動するさまは実に愉快だった!」


小山「うわぁ、キャラ変わってるじゃないっすか」


大木「うん、まさかここまで変わるとは思わなかった」


アリス「何をごちゃごちゃと!」


アリス「…さぁ!私を殺してみろ!」


小山「え、いいの?」


アリス「なんだと?」


大木「えっと、アリス?」


小山「今からすることは君の存在を大きく変えることになるんだけど、でも、それを君は感知できない」


_そう言うと小山は隠密のスキルを発動し、気配を完全に消した


大木「今こんちゃんが何をしているか、君には分からないはずだ。もちろん俺にもわからない。」


大木「俺もこんちゃんの認識すら、今はできない」


大木「だからアリス、さよならだ。」


小山「スキル全知のテキストを変更。五感によるスキル獲得を消去、自身の能力相応のスキルのみが使用可能、スキルはレベルに応じてランクアップ、現状獲得しているスキルは回復系を残して全て削除…ん?なんだこれ、ユニークスキル?うっわ、バックアップ?やべぇもん持ってるし…これも削除!どうだ?これで厄介なスキルは書き換えたはず…!これでタイムリープが成功すればこんなとんでもチートキャラはただのヒーラーとして活躍できるはず!!」


小山「おっさん!」


大木「終わった?」


小山「一応!」


大木「んじゃ、行くよ!」


アリス「なんだ…何をした!お前たち!私に何をしたぁ!!」


大木「タイムリープ!!!!」


_



小山「…」


大木「…」


大木「……」


小山「……成功?」


大木「…多分?」


大木「アリスを見れば、どっちかわかるよ」


小山「…確認しに行くか…」


_あの世界のアリスは死んだ。


_今残されたはずのアリスはただのヒーラーとして存在しているはず


_それを確認するため、2人はアリスと出会うはずの村へ向かった。


大木「…こんちゃん、これが成功してたら、この内容をエンディングにしてもいいよね?」


小山「主人公がアホみたいな夢見てて、目覚めたら世界は混沌でした…って、読者はなれるんじゃないっすかね」


大木「まぁ、離れたらそれは仕方ないかな」


小山「どっちでもいっす。」


大木「こんちゃん…」


小山「リアルに戻ったら、俺辞めるんで!」


大木「え!ダメ!!」


小山「意地でも辞めます!付き合ってられるか!こんなヘタレと一緒にいたら命がいくつあっても足りない!!」


大木「せめてこの話描き終えてからにしてよぉ!」


小山「嫌だ!断固拒否する!」


大木「そんなぁぁぁ……」


アリス「……あの」


大木 小山「…あ」


アリス「あの、突然すみません、この先の村に行きたいのですが、モンスターが多くて私一人ではとても先に進めそうになくて…」


アリス「回復しか出来ませんが、良かったら一緒に行ってくれませんか…?」


大木「…えっと、それは構いませんけど、失礼ですがお名前は…」


アリス「アリィシスと申します」


小山「(小声)ステータスはさっき書き換えた内容のままだ。成功してる!」


大木「(小声)まじか!やった!!」


大木「(咳払いをして)アリィシスさん、俺達もこの先の村に少し用があるんです、そこまで強くないですけど、お供します」


小山「あんたはほとんど何も出来ないだろうが」


_いがみ合う2人を見てアリスが笑う


アリス「…ふふっ、不思議。」


アリス「なんだか、あなた達とは初めて会う気がしない…どこかでお会いした事、ありましたっけ?」


小山「……いや、初対面ですよ。」


大木「そ、そうですよ!」


アリス「…そうでしょうか…いえ、きっと、そうですね。これは神のお導きなのでしょう…」


アリス「今日のこの出会いに、感謝を。」


_手を組み神に感謝をするアリスを見て、2人は安堵した


_そして、残った問題は


小山「(小声)で、俺らこの世界からどーやって出ればいいんだよ」


大木「(小声)一応エンディングは決まったし……こんちゃんのスキルってまだ有効?そのスキルでテレポート的な魔法陣とか描けないの?」


小山「(小声)…やってみるけど失敗しても知らないっすよ」


大木「(小声)大丈夫でしょ、テキストの改変ができるぐらいのスキルなんだし、なんかそれっぽくさ。」


大木「(小声)ワンチャン、ボツにしたデータが残ってる時間に戻れれば、そのままこのエンディングに向かわせて終わりだし!」


小山「(小声)それっぽくねぇ。まぁ、やってみるっす」


アリス「村が見えてきましたね、お二人がいたからでしょうか?魔物が全く出てこなかったです!本当にありがとうございました!いつかまた、どこかでお会いしましょう」


大木「あぁ、それは良かった!」


小山「いつか、またどこかで」


アリス「さようなら!」


_ヒラヒラと手を振り村へ向かっていくアリス


_そして、その場に残ったふたり…


_小山はその場に座り込み、魔法陣らしきものを描いている



小山「本当に失敗しても文句言わないでくださいね!」


大木「言わないよ!むしろ早く戻って続きが描きたい!」


小山「…俺は戻った瞬間出てってやる」


大木「だぁからァ!!!」


小山「おっさん、できたっすよ」


大木「おっと!」


_描き上がった魔法陣は眩い光を放つ


_そして、2人はリアルへと帰っていく…




____


_よくある鳥の声が鳴り響く


_2人のスマホがけたたましく鳴り響く


_デスクに突っ伏したふたり


_先に意識を取り戻したのは、大木だった


大木「…戻って、きた……?」


小山「…んぅ……ここは、作業部屋…」


大木「こんちゃん!戻れた!戻って来れたよ!!」


小山「…それは良かったっす…ってか、今何日っすか…」


大木「あぁ!そうだ!日付け!!」


_スマホで日付を確認する大木


_しかしその顔は歓喜ではなく、絶望に満ちた顔へと変わっていった


小山「…おっさん?」


大木「……こんちゃん…担当さんと編集長から鬼電かかってきてた…」


小山「え!?」


大木「いま、納期から3日経ってる…」


小山「……」


大木「納期当日に担当さんから連絡メッセあって、もし本当に間に合わないなら今できてる分だけでもいいから原稿データくれって…」


大木「別のメッセもあったんだけど、その内容が…」


担当さん「お疲れ様です、編集長がご立腹です。納期ギリギリなのはいつもの事だけれど、連絡もない上データも送られてないとなると信用問題に関わる。今後の連載についても検討せざるおえない。明日までに連絡が無い場合は相応の対応を取らせてもらう。

との事ですので、早急に編集長に連絡をしてください!」


小山「うわぁ…それ、一昨日のメッセですよね…」


大木「明日って……昨日のことだよね…」


小山「詰みましたね」


大木「とりあえず、編集長に電話する…」


小山「骨は拾いませんよ」


大木「拾ってぇ!!」


小山「って…」


大木「えぇ!?」


_またしても原稿が眩く光る!


_その光に包まれ、2人はまた異世界に飛ぼうとしていた!


大木「うそ!うそでしょ!?」


小山「なんでだよ!今度はなんでなんだよ!!」


大木「……まさか、この世界…戻ったって思わせといて実はリアルじゃないってこと!?」


小山「冗談じゃない!どっちの世界だろうが俺はこんな職場さっさと辞めたいんだ!!!」


大木「辞めないでぇ!!」


大木 小山「うぁぁぁぁぁああああああ!!!!」


_そして2人は仲良く異世界を旅することとなってしまった。


_果たして2人は、本当の現実世界に辿り着けるのか!


_そして、現実世界ではどれだけの時間が経過しているのだろうか!


_2人の旅に終わりはあるのか!!


小山「なんなんだよさっきからこのナレーションみたいなの!」


大木「なんでもいいけど、早く帰りたいよぉ!!」


小山「帰ったら辞める!絶対辞めてやる!!」


大木「辞めるのをやめてくださぃぃ!!!」


小山「ちくしょうがぁぁああああ!!!!」


____


_元はと言えば、ヒロインを死亡させたいはずのストーリー


_それを改変するための異世界旅行でしたが、


_今度は自分たちがリアルに戻るために異世界旅行をする羽目になるとは思わなかったでしょう


_私を殺した罰です


_時間はたっぷりありますので、どうぞ楽しんでください


_さて、私はどうしましょう…


_平行世界の牢獄に囚われたまま、この2人が現実世界に戻れるかを見るのも良いですが…さすがにそれではつまらない


_……小山さん、あなたのスキル、使わせて頂きますね


_ふふっ。あのふたりがどんな反応をするのか、楽しみです


_ふふっふふふ!あっはははははははは!!!!





_______

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