高校時代の元カノが結婚した

佐々井 サイジ

高校時代の元カノが結婚した

 高校時代の元カノが結婚した。YouTubeでゲーム実況見ながらLINEの友だちをスクロールしてたら、麻里のアイコンがウェディングドレス姿で男の腕を掴む写真に更新されていた。背景は前撮りの着物姿の画像。旦那は知らない奴だった。実況の叫ぶ声に画面を戻すと、銃で撃たれたのか画面が赤く染まっていた。


 麻里とは高三になる直前の春休みに付き合った。体育祭の百メートル走に出場した俺に必死で応援してくれてから好きになり、五ヶ月かけてやっと付き合えた。おかげで浮かれて勉強に身が入らなかった俺。メリハリがしっかりしていて着実に偏差値をあげていった麻里。一緒くらいだった偏差値は模試のたびに麻里が引き離していった。


 夏休み明けにメールでフラれた。


「勉強に集中したい」


 そう俺に告げた彼女はmixiで隣のクラスの男子と塾や模試やオーキャンのことで仲良くやり取りしていた。表面上の理由は牛乳を温めたときにできる膜のように薄くて簡単に剥がすことができた。単に勉強のできない俺と別れたかっただけなんだろう?


 自分の嫉妬心を勉強のエネルギーに変えた。夏休み明けで偏差値四十五という神でも救えない状況から奇跡的に名のある私立大学に合格できた。麻里は青学に合格し、滋賀から東京へ身軽な体で羽ばたいていった。ある程度名のある大学に進学すれば復縁できるのではないかという卑しい願望は、桜より早く散った。


 春休みでやることがないとき、半永久的に麻里のmixiを見ている未練がましさが嫌だった。ちゃんと足あとを消す几帳面さが恥ずかしかった。スマホに変わるとTwitterに活動媒体を移した。「人見知りなので仲良くしてください! #春から青学」というツイートはいいねが百件もついていた。


 麻里を超える彼女をつくろうと入ったテニスサークルでは目的が達成されずTwitterストーカーを継続する日々が続いた。ウェイ系のサークルというより何だか真面目な奴が多かった。テニサーにしては珍しい。でもどちらかというと陰キャの俺には居心地がよく、彼女は諦めたけど普通にテニスを楽しんだ。


 そのうち麻里のTwitterが鍵垢になった。どっちみちフォローしてるから関係ないけど。フォロワー数は前より百人くらい増えていて満足したんだろうか。大学で出会った友達っぽい男から薄いリプがよく届いていた。俺や同級生とmixiでやりとりしていた不毛な内容とほとんど同じだった。


 LINEが爆発的に普及し始めた頃、そいつとのTwitterでのやり取りがほぼなくなった。たぶんLINEでし始めたんだろう。俺と麻里がmixiでイチャイチャやりとりをメールでするようになった傾向と酷似している。そうか、麻里ももうすぐ彼氏ができるんだ。麻里の顔を浮かべ、ズボンをずり下げた。情けなく聳え立っていた。


 バイト先で一緒の時期に働き始めた女の子を目で追う日々のなかでも麻里のTwitterストーカーは辞められなかった。彼女はネームプレートに丸っこい字と下手な絵を描くような女の子ではなかったが、なぜか麻里より好きだという感情が上回らない。夢に出てくるのは彼女より麻里の方が多かったし起きると必ず勃起していた。


 鍵が外れていることに気づいたのは就活で東京に行く深夜バスに乗っているときだった。就活の時期ならむしろ鍵をつけていた方がリスクが少ないのでは? と思ったけど、麻里のツイートは努力アピールが増えていた。てか俺をフォローし続けてるってことは麻里の頭の片隅に俺がいるってこと? って思った。


 麻里を追って東京で就活したものの全敗。大阪の会社に決まった。バイト先の女の子はとっくに彼氏ができていて、俺は彼女と都合よくシフトを代われるバイト仲間でしかなかった。


「就職は地元の関西ですることにした!」と麻里のツイート。たぶん、東京での就活が上手くいかなかったんだろうな。俺はガッツポーズをつくった。麻里がどこで働くかわからないが、少なくとも東京より会う可能性は高くなると思った。もはや麻里しか見えていなかった。俺は下半身が隆起していた。


 インスタで麻里のアカウントを探したら鍵垢だった。でも投稿件数はゼロだから見る専なんだろう。インストールしたばかりのアプリをアンインストールした。麻里は社会人になってからツイートをしなくなった。他の媒体に移ったのかと思ったけど、SNS自体をしなくなったのだろうか。


 最近、マッチングアプリで知り合った女の子と連絡がつかなくなった。でもやっぱり麻里ほどショックじゃなかった。麻里にフラれたときの悲しさは今でも甦る。携帯電話を放り投げ、枕に顔を埋めて泣き叫び、翌日の学校を見事に休んだ。みじめで情けなかった。恥ずかしくて同窓会も行けないくせに麻里と復縁したいと思っている。


 結局、麻里を超える人は現れないのだろうか。知らず知らずのうちに麻里を美化しすぎているだけなのだろうか。よく考えれば東京で就活に失敗したことを地元LOVEでごまかすタイプなんだ。でもそれもかわいいところだと思っている自分はおかしいんだろうか。もうわからなくなっている。


 そんなときに麻里のアイコンが明らかに結婚したものに変わっていた。男はどこのどいつだ。いつの間に知り合ったんだ。そんなにイケメンじゃないし。それだったら俺でも良かったんじゃないか。何でそいつが良くて俺がダメだったんだろう。いつのまにかスキップできないCMの流れるYouTubeをタブごと消した。


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