【第3話】去りゆく獲物
レオは戻ってくるつもりはなかった。彼のための食料品を置くと、さっさと廃墟を後にした。
日差しがまぶしい。これだけは本当に苦手だった。
ポケットからサングラスを取り出した時、何かが落ちた。廃墟で手にしたペンダントだった。写真の中の金髪の若者が身に付けていたもの。
手に取ったまま、戻すのを忘れていた。
「ウッ……」
男がレオの腕の中に倒れ込んできたので、思わず支えた。見ると、彼の胸から矢じりが飛び出していた。背中から貫通したのだ。レオが人間のメスに射抜かれようとするのを身を挺してかばったために。
人間の真っ赤な命の源がどんどんあふれ出ていた。
「モスキーラのために犠牲になるとは、とんだクズだ」
細身の女がさらに発射しようとしていた。レオは驚異的な跳躍力を発揮した。女の頭上を軽々と飛び越え、その際に膝頭を彼女の脳天にめり込ませる。背中から倒れた女は、すでに息をしていなかった。
レオ、すぐに男のもとへ駆け寄り、抱き起した。
「しっかりして!」
男はうっすらと目を開け、弱々しく発した。
「……なぜ、戻ってきた?」
「これを返しに」
ペンダントを彼の手に握らせた。
「大切な誰かのだったんでしょ?」
「ようやく忘れられると思ったのにな……」
彼は苦笑しながら激しく咳き込んだ。
「死なないで!」
「どうやら、お前の希望には添えないようだ……」
ゆっくり目を閉じ、ぱたりと手が落ちて動かなくなった。
「あなたは僕の命を救った……だから、僕もあなたの命を救う!」
レオは彼の唇に自らの唇を重ねた。
周囲が光で包まれ、奇怪な音が響き渡る。
長い時間、吸い続けたレオがそっと唇を離した。光と音が静まっていく。
ゆっくりと彼の目が開いた。レオも見つめ返した。
「ようこそ、新しい世界へ」
「……俺はこれからどうなるんだ?」
「神のみぞ知る……かな」
二人は陽光の中に出てきた。まだ慣れていないのか、彼が手で目を覆う。レオはサングラスをかけてあげた。
先に歩き出そうとするレオを彼が引き止めた。抱きしめるようにして、レオの首周りに両手を回す。
「……?」
彼が離れると、レオの胸元にはペンダントがあった。
(了)
世界の果ての獲物たち タカハシU太 @toiletman10
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