【第2話】狩られる獲物
まばゆい木漏れ日の中、前を行くルイが金髪をなびかせながら振り返り、悪戯っぽく笑って、手にしていた木の枝を投げつけてきた。リュウは怒ったふりをして追いかけ、ルイを捕まえた。
そのまま二人して、草むらに倒れる。並んで澄んだ空を見上げ、そっと手をつないで……。
久しぶりに、あいつの夢を見た。なぜだろう? 謎の訪問者のせいか。いや、それ自体、夢だったのかもしれない。
リュウは二日酔いの体をのっそりとマットレスの上に起こした。
「……!」
こめかみに洋弓銃を突きつけられていた。見下ろしているのは、防塵マスク&ゴーグルをした迷彩服姿の二人組。マスク越しに不気味な呼吸音を響かせている。
イェーガー。正式名称は猟有隊だったか。
リュウは抵抗の意思がないことを示すかのように軽く両手を上げてみせた。片割れがアナログな測定器を近づけた。反応なし。
「大丈夫だ」
二人とも武器を下げ、マスクとゴーグルを取った。ホモ・サピエンスのメスだ。
「オスを探している。赤毛の若い男だ」
細身の女は穏やかな口調だが、その眼光は鋭い。
リュウが辺りを見回すと、他に誰もいなかった。かの青年は酔った幻覚かと思ったのだが、どうやら実在していたようだ。
「答えろ!」
もう一人の巨漢女が特殊警棒で、リュウに一撃を食らわした。
細身は冷静にたたずんでおり、巨漢はギラギラと感情むき出し。凸凹コンビだ。リュウはあえて挑発するように語りかけた。
「イェーガーの皆さんは、人間にもこんな仕打ちをするんですかね?」
「何だと!」
巨漢がもう一発お見舞いしようとするが、細身に止められた。
「すまんな。モスキーラを一匹取り逃がして、いらだっている」
細身が説明している背後で、巨漢が思い切り空き瓶を蹴り飛ばした。
「この地域には、もう、人っ子一人いませんよ」
「こいつはどこだ?」
細身が写真立てを指差した。
「こんな奴に構うな! 行くぞ!」
巨漢が荒々しく出ていき、細身も続いた。
リュウが一服しようと火をつけた時、あの赤毛の青年がリュックを背負って現れた。
「やあ」
「物騒な連中が探していたぞ」
「知ってる。こっそり覗いていたから」
青年はリュックを下ろすと、中から保存食を次々と取り出した。
「町まで行ってきてあげたんだよ。飲んでばかりいないで、何か食べなきゃ」
「もう歩けるのか?」
青年は大丈夫だと足首を思いっきり回してみせた。
「回復が早いな」
「若いからね」
「だったら、すぐにここから逃げろ」
「平気、平気」
「行けよ! 俺が迷惑なんだ!」
「ごめん……世話になったね」
青年が背を向けて出口へ歩き出した。去り際にちらっと振り返った気配がしたが、リュウは見向きもせずにタバコを口に咥えた。
湿気っていたので、結局火が付かず、タバコを投げ捨てた。仕方なく、青年が置いていった缶詰でも食べることにした。
フォークを手にする。ああ、これを俺の喉に突き立ててきたんだなと思い返した。
またしても物音がした。
「何しに戻ってきた? 忘れものか?」
振り返り、リュウは蒼ざめた。先ほどのイェーガーコンビだった。
「あったぞ!」
巨漢が一方の床を指した。鮮やかな緑色の液体が点々と付着していた。
モスキーラの血。
「この血痕が崖下からここまで続いていた。ここに逃げ込んだのは間違いない」
「何のことかな?」
とぼけたリュウを巨漢が殴り飛ばした。
「だましやがって! 背信行為は重罪だぞ!」
「死刑か……だったら、今すぐここでやれよ」
「では、望みどおりに」
細身が洋弓銃を突きつけた。指がトリガーにかかる。
その瞬間、銃が不意に真上へ弾かれ、誤射された矢が天井に刺さった。細身は事態が飲み込めず、戸惑っていた。巨漢が怒鳴った。
「モスキーラめ!」
赤毛の青年が無表情で立っていた。
「くたばれ、バケモン!」
巨漢が特殊警棒を振りかざした。先端から鋭利な刃が突出し、向かっていく。
だが、青年がさっと目の前から消えた。
「ここだよ」
真後ろを振り返った巨漢の喉元を、青年が勢いよくつかみ、ひねった。にぶい音が響くと同時に巨漢は崩れ落ち、目と口を開けたまま動かなくなった。
リュウが叫んだ。
「危ない!」
細身が青年に洋弓銃で狙いを定めていた。リュウはとっさに飛び込んだ。
(続く)
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