第5話 感謝

 それから1年後、りかちゃんも結婚式を挙げました。


 ひなちゃんお手製のドレスを着てバージンロードを歩く姿は、いままで見てきたどんな姿よりも輝いていました。


 りかちゃんのドレスは、ケープの付いた天使のようなドレス。

 純真無垢で、可愛らしい、彼女らしいドレスでした。


 披露宴の最中、ひなちゃんはご両親や親戚のみなさんから何度も「ありがとう、ありがとう」と感謝の言葉をかけられていました。


 その光景を見て、あらためてウエディングドレスを作ることの偉大さに気付かされました。


 大事な我が子の結婚式。

 そこで着るドレスは素敵なものでなくてはいけません。


 ご両親や親族のみなさんも、ドレスには大きな期待をかけていたことでしょう。

 その期待を大きく、大きく超える仕事をしたひなちゃんはやっぱり凄いです。


~*~*~


 そして今年の12月、けいちゃんも結婚式を挙げました。

 会場でひなちゃんと会うと、大人っぽくて上品なパーティードレスを着ていました。


「綺麗なドレスだね」


 何気なく感想を伝えると、ひなちゃんはしれっと一言。


「ああ、これね。作ったの」


 作ったですって!? か、カッコいい……!


 披露宴の席についてから、私は隣に座っていたけいちゃんの大学時代のお友達にも声をかけてしまいました。


「けいちゃんのドレス、この子が作ったんですよ~!」


 ひなちゃんからは「恥ずかしいからやめなさい」と注意されてしまいました。

 でも、凄いものは凄いんです。これを自慢しない手はありません。


 ドレスのことを伝えると、大学時代のお友達も「え~! 凄い!」と心から感動してくれました。


 ほら、言って良かったでしょ?


~*~*~


 それからウエディングドレス姿のけいちゃんが、とーっても背の高い旦那様と入場しました。


 けいちゃんのドレスは本人たっての希望で、後ろの裾を引きずるデザインにしたそうです。


 シンプルでありながらも優美さを感じさせるドレスは、けいちゃんの雰囲気によく似合っていました。


 そしてけいちゃんの結婚式でも、ご両親や親族のみなさんからたくさんの感謝の言葉を受け取っていました。


 ここでもひなちゃんは、ご両親や親族のみなさんの期待を大きく上回る仕事を成し遂げていたようです。


 そして披露宴の中盤、ドレス紹介のスピーチでひなちゃんはこう語っていました。


「これで夢が叶い切りました」


 そこであらためて気づかされました。彼女の偉大さに。


 ひなちゃんは3人がドレスを着る日のために、服飾の勉強を続けてきました。

 そして今日、ひなちゃんは中学時代からの夢を叶えたのです。


 スピーチでひなちゃんは泣いていました。

 私も泣きました。


~*~*~


 努力すれば夢は叶う……なんて信じられるほどの純粋さはもう持ち合わせていません。


 現実は思ったようにはいかないことの方が多くて、人の心も案外簡単に折れてしまいます。子どもの頃の夢を叶えられる人なんて、ほんの一握りでしょう。


 それでも、夢を持ち続けること、叶えようと努力することは尊いことだと感じました。


 そして夢を叶えた先で誰かを幸せにできたら、これほどまでに素敵なことはありません。


 きっと私は、ひなちゃんにドレスを作ってもらったことを特別な思い出として、この先も語り継ぐことでしょう。


 いまはまだ、小さすぎてお喋りできない息子にも、いつかきっと。


「もうその話、何十回も聞いたよ」


 なんて笑われるかもしれませんね。

 だけどそれくらい、私にとっては特別なドレスだったのです。


 そして中学時代の夢を叶えたひなちゃんが、次はどんな夢を叶えていくのか密かに楽しみにしている私がいます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【カクヨムコン9 特別賞&読者開拓賞】いつかの花嫁さん達に特別なウエディングドレスを 南 コウ @minami-kou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ