第4話 覚悟
数か月後、ドレスが完成しました。
ひなちゃんのアパートで完成したドレスと対面した時、圧倒されました。
「凄い……」
そんな単純な言葉しか出て来ませんでした。
ドレスのシルエットはふわっとスカートが広がったAライン。
首元には桜のような淡いピンク色の花があしらわれていて、首元から腕にかけては総レースになっていました。
背中のデザインもとても凝っています。まるで天使が羽を広げたかのようなレースがあしらわれていました。
甘くて、繊細で、可愛らしい。そんなドレスでした。
これが私に似合うドレス……!
この感動を言い表わす言葉が見つかりません。
ただ、ひとつ言えるのは、とても嬉しかったということです。
私のために作ってくれた特別なドレス。
いますぐ袖を通して、たくさんの人に見てもらいたい気持ちになりました。
~*~*~
結婚披露宴は、親族と親しい友人だけを招いて執り行いました。
用意したドレスは、ひなちゃんの作ってくれたドレスただひとつ。
お色直しのカラードレスなんて必要ありません。
だって少しでも長く、この特別なドレスを着ていたかったから。
ドレスをみんなにお披露目する前にやることがあります。
それはドレスを着た姿で彼と対面するファーストミート。
ドレス姿の私を目の当たりにした彼がどんな反応をするのか、密かにワクワクしていました。
カーテンを開けてもらうと、彼は照れながら一言。
「まあ、綺麗なんじゃないでしょうか……」
そこはちゃんと褒めてよ~~!!
まともに褒められない彼にモヤモヤしましたが、式場のスタッフさんがたくさんいる前では、そんな反応をするのが限界だったのでしょう。
~*~*~
披露宴が始まると、たくさんのゲストの方々にドレスを褒めていただきました。
ひなちゃんのドレスを褒められるたびに、私まで誇らしい気分になります。
そして披露宴の中盤で、ひなちゃんがドレスへのこだわりを紹介してくれる場面がありました。
そこであらためて、ひなちゃんのがどれだけ私のことを想ってドレスを作ってくれたのかを知りました。
ウエディングドレスを作るのは、数ヶ月単位の作業です。
仕事をしながらの作業は、本当に大変だったことでしょう。
だけどひなちゃんは、今日という日のためにカタカタとミシンを踏んでドレスを作ってくれました。
親友の幸せを祈りながら――。
その想いに気付いた時、ようやく覚悟が決まりました。
頑張りきれずに仕事を辞めてしまった後ろめたさに苛まれていた私でしたが、この日を境に考えが変わりました。
過去に縋りつくのではなく、彼との未来を見据えよう。
考えてみれば、すぐに空想の世界に飛んで行ってしまうような変わり者の私を選んでくれたのです。そんな彼を大切にしなければと思いました。
ひなちゃんはドレスだけでなく、前に進む覚悟を与えてくれました。
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