第3話
「で、どうしたいの?」
とキヨテルは、ユリエに尋ねた。
「渡辺真知子の歌を歌いたい」
「え?」
「会社のカラオケ大会に出て、渡辺真知子『かもめが翔んだ日』を歌いたい」
とユリエは、言った。
「そうか」
とキヨテルは、言った。
…
それから何度かして、レッスンが始まった。
毎日、レッスンを受けた。
キヨテルは、音楽の先生になると厳しく叱責もしたが、それでも、いつも「上手にできたよ」と労ってくれた。
キヨテルは、講師としての顔は、厳しかったが、それでも、ユリエは、歌に対して本気だったと感じた。
その内、ユリエは、前のカレシの顔を忘れた。
そして、カラオケ大会に出ようと頑張っているユリエを、キヨテルは、可愛く思った。
いつも練習をしているキヨテルは、ある時、ぼそっと「オレは、本当は、ミュージシャンになりたかった」「歌手になりたかった」とこぼした。
ユリエは、食品メーカーに勤務していたが、嫌いな音楽が好きになってきた。
ただ、ユリエは、いつも感じていた。
ーそう、私は、生徒
ーキヨテルは、講師。先生。
それは、有川浩著『植物図鑑』のサヤカとイツキと同じだった。
そんな映画のワンフレーズが、ぼっと実感ができた。
そんなある日だった。
明日は、カラオケ大会に出ないといけないと分かった。
その時、ユリエは、キヨテルに「動画を送るからね」とカラオケ大会について言っていたが、それで、つい魔が差した。
「もう会えなくなるかな」
と思って、ユリエは、キヨテルにばさっと抱き着いた。
「やだよ、キヨテル」
と言って、キスをした。
「ダメじゃん」
とキヨテルは、言ったが、それでも、ユリエは、間違いをしていると気がつきながら、そのまま、逢瀬をした。
次の日。
カラオケ大会に出た。
「『かもめが翔んだ日』を歌います」
と言って、それで始まった。
「~港を愛せる男に限り~」と歌っていた。そして、ユリエは、振り付けまで入った。楽しく歌ったが、その時、急に、ユリエは、「キヨテルと一緒になりたい」と思った。
カラオケ大会に出たが、そんなにランキング上位にならなかった。
だが、キヨテルのおかげだった。
ただ、もうキヨテルに会えないだろうか?
自分は、間違いをしたのか?と思った。
ただ、カラオケ大会に出たら、拍手が出た。
会社のカラオケ大会に出た後、ユリエは、自分が間違いのあった生徒と自覚をしながら、LINEで動画を送った。
そして、LINEでキヨテルに電話をした。
「ユリエさん」
「はい」
「よく歌えたじゃない」
「ああ、ありがとう」
「もう良いね」
「あの…」
「はい」
「今度、一緒に食事に行きませんか?」
音楽が嫌いだったユリエが、音楽教室の講師をしているキヨテルと付き合うなんんて変だとは思いながらも行った。
そして、キヨテルとユリエは、そこからこんな軽い感じだったけど、付き合いが始まったらしい。<完>
sing is lovers. マイペース七瀬 @simichi0505
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