第2話

 ユリエは、居酒屋へ行こうとしたときだった。

「今日も、チューハイを飲もう」

「焼き鳥を食べよう」

 なんて考えていた。

 その時、少し歩いたところに

「徳永音楽教室」があった。

 そこからは

「~さよならは悲しいことばじゃない」

 といきものがかり『YELL』のコーラスが流れていた。

 ユリエは、そんな歌詞が嫌いではなかった。

 実は、いきものがかり『YELL』は、好きな曲だ。

 実は、ユリエは、犬を飼っていた。

 パグ犬だった。

 パグ犬は、ハッピーという名前だった。

 ユリエは、ハッピーをずっと散歩をしていた。

 ハッピーをいつも食事を与え、散歩に行っていた。

 ハッピーは、17歳で亡くなった。

 ハッピーは、ユリエが、大学から帰ってきたのを待って死んだ。

 悲しかった。

 しかし、その時、ユリエは、いきものがかり『YELL』をたまたま、テレビ番組で聴いて、涙がぽろぽろ出たが、逆に、ハッピーは、天国から観ていると思った。ペットロスもあったが、それでも、立ち直った。

 居酒屋へ行って、幼馴染のカナと飲もうと思った。

 カナは、居酒屋の店長と一緒になった。

 ただ、ここのリエは、芸大を卒業した苦手な同級生だった。そして、ユリエは、カナと一緒にチューハイを飲んで帰った。

 …

 次の日だった。

 2023年のクリスマスも終わったが、しかし、年始のカラオケ大会があった。

 その前から、主任の友永が、ユリエに「今度、カラオケ大会に出なさい、好きな曲で良いから歌いなさい」と言った。

 これには、困っていた。

 しかし、どうしたら良いのかと思った。

 そして、2024年になって、1月にカラオケ大会に出ないといけないとあった。

 ところが、音楽が苦手なユリエだが、今の会社で、大して無能に近いユリエは、そのまま、会社の命令に逆らうことができず、困っていた。

 今までは、ユリエは、「高畑充希に似ているよ、可愛いよ」で済んでいたのが、そうはいかなくなってきた。

 まだ、グラビアアイドル古川優奈に似た彼女はそうではないらしい。

 しかし、ユリエは、困った。

 そして、堀之内まで帰って、居酒屋へ行ってまた、カナに相談した。

「カナ、私、今度の会社のカラオケ大会に出ないといけないけど、歌、苦手だよ」

「そうだ」

「何?」

「隣の音楽教室で、少し、習ったら良いじゃん」

「やだよ」

「でもさ」

「うん」

「徳永君って」

「何?」

「東京のレコード会社にいたけど、同僚の女性に降られて、喧嘩になって、クビになったって」

「え」

「で、ここだけの話だけど、情報によると、徳永君って、今、一人らしいよ」

「徳永君に、少し、頼んでみたら?」 

 ユリエは、つくねを食べながら、考えてみた。

 …

 次の日曜日。

 徳永音楽教室へ行った。

 そこには、徳永キヨテルが、いた。

 まだ雰囲気は、若かった。

 しかし、受付の女性が、45歳だった、何故か。

「あれ?」

「はい」

「ユリエちゃんじゃん」

「そう」

「雰囲気は、変わっていないね」

「まあ」

「今日は、どうしたの?」

「実は…」

「はい」

「ここの生徒になりたくて」

 唐突だった。キヨテルは、音楽教室の先生。

 ユリエは、音楽教室の生徒になっている。

 ユリエは、中学時代、音楽の西川が、嫌いだったが、そうもいかないようになってきた。

 実は、会社の面接よりも緊張をしている。

 ユリエは、ドキドキしていた。

 キヨテルは、少しだけ、顔立ちが佐藤健に似ている。

 中学時代から、男前だったけど、運動は苦手だった。

 唯一、輝いていたのは、文化発表会だったと思う。

 みんなの前で、ピアノを弾いていたが、ユリエは、こんな形で同級生に会うとは思えなかった。

 ユリエは、中学・高校時代と、水泳部のユウイチと付き合っていたが、破綻した。ユウイチは、宮崎あおいに似た彼女と一緒になった。今は、静岡県掛川市で居酒屋を開ている。

 ユウイチは、もう、顔なんて忘れた。

 しかし、キヨテルは、運動は苦手。

 水泳もできなかったけど、好きなピアノを今も弾いている。

「徳永君は、今もピアノを弾いているのね」

「うん」

「凄いね」

「いや、俺ってさ」

「何?」

「運動も苦手だったし、女子も苦手だった、クルマも運転できないんだ」

 そうだ、とユリエは、思った。

 ユリエは、10代の時、ソフトボール部にいた。

 身体は、がっちりしている。

 そして、クルマの運転も得意だ。クルマで夜通し、高速道路で北陸でも関西でも東北も行ったことはある。

 ただ、目の前のキヨテルは、そんなタイプではない。

 ユリエは、身体ががっちりしていて、たまに嫌いな男子からは「ユリエは、尻が大きい。胸が大きい」「ホルスタイン」なんて言われてカッカしていたが、今、目の前のキヨテルは、華奢な身体だった。

「守ってあげたい」

 と急に母性が出てきた。

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